2ntブログ

画紋工房

2008年12月にガタケット103(3月22日)に向けてなんとなく結成された二人組サークル『画紋工房(がもんこうぼう)』のブログです。コピー本を作ってガタケットにちょびちょび参加しております。(2018/03/20~申し訳ありませんが暫定活動休止中です。たまに更新する、かも……)

第2回「電撃リトルリーグ」落選作品!w

 まあそのまんまですが。『1行20文字、100行、句読点カッコ釣り下げ』で送ったんだけどなんかその後から『文字数そのもの』での応募になって「エエー早く言ってヨー」という気分にはなったw
 以下落選した2000文字小説。……まあ落選した奴だからねえ……w とりあえずどこかで誰かの暇つぶしになればw

  卒業宣言~修くんの場合~

 修は、恐る恐る玄関で靴を脱ぎながら言った。
「た、ただいまー」
 声が上擦っていた。ボタンがいくつかなくなった学生服の襟元を緩める。
「おかえりなさい」
「おかえり」
「りー」
 居間のドアの向こうから返事が返ってきた。
 修はドアを開ける前に、卒業証書の入った筒をポケットに入れたあと右脇に挟んだ。
 ドアレバーに掛けた手に汗が滲む。ごく自然に、さりげなく振る舞わなければいけない。
 修はドアを開けた。
 椅子に座り、のんびりとテレビを見ているのが母の美亜、テーブルの上のファッション雑誌を興味なさそうに眺めているのが姉の美衣、床に敷いたマットに寝そべってテレビゲームに興じているのが妹の美宇。
 全員の興味がこちらに向いていない今がチャンスだ。目指すは奥の右側にある自室。
 修はするすると滑るように歩を進めた。
「ぎゃーん」
 妹の美宇がごろごろと転がってきて足にぶつかった。
「にーちゃんこの面やってぇ」
 美宇は、修の真下から期待しか籠もっていない視線を向けて来る。
「いやにーちゃん今ちょっとね……」
 口を濁らせて歩を進めようと動かした足に、がっしと美宇がしがみついた。
「お願い捨てないで!」
 いつもならどうという事のないその言葉は、今回ばかりは修の胸に突き刺さった。
「アナタゴノミのオンナになるから!」
 いつも通りのセリフが終わって、けらけらと美宇が笑う。修の体は固まったままだ。
「あんた何隠してるの」
 咎めるような美衣の声に、修はこわばった微笑みで抵抗を試みた。
「筒」
「……ああ、今日卒業式か」
 興味なさそうに美衣が言う。修の抵抗はあっさりと破られた。
「あら、今日で卒業なの。おめでとう修ちゃん」
 美亜は両手を胸の前で重ね合わせる。
 伝えてありました、と修は心の中で呟いた。
「うん、まあ」
 適当に答えて部屋に行こうとすると、美宇がまだ足を掴んでいた。じっと修を見つめている。
「にーちゃんなんでボタンないの?」
「おう、モテモテじゃねぇの修。卒業するときボタン欲しがるのよ。女子が」
 けけけ、と老婆のような声で美衣が笑った。まるでボタンをあげた方のようだ。
「奈緒ちゃんにあげたのー?」
 美宇が言った。くらっと来た頭を修は軽く押さえる。違います。クラスの物好きな女子が持っていきました。
 あんなに色んな奴から集めてどうするんだろう、と修はしばし現実逃避した。
「奈緒ちゃんて誰よ」
「にーちゃんのガールフレンドー! おっとりしててかあいいの」
 気が付いたときには、いぶかしげな美衣に美宇が答えていた。美亜が嬉しそうに言う。
「あらあら、素敵ね」
 修は会話の流れを神に感謝した。
「そういえばあんたどこの高校行くの」
 美衣の言葉が耳に届き、修は神を呪った。
「……遠野高校」
 聞き取りづらいように言う。
「ふーん」
 美衣はあまり興味がないようだ。ほっと胸をなで下ろす。
 次の瞬間、美亜が珍しく難しい顔をしている事に気が付いた。背筋がぞっとなる。
「あそこって、かなり遠くて、確か……全寮制じゃなかったかしら?」
 正解です母さん。修は体を縮こませて、美宇を引きずりながら自室へ向かった。
「家事どうするんだよ! 家事! おい!」
 美衣の視線が背中に突き刺さったのが分かったが、振り向く勇気もなければ余裕もない。
「ご飯誰が作るの~? お願い修ちゃん~」
 美亜の甘えるような懇願の声に少しばかり心揺られる。涙を溜めて上目遣いで見つめているのが容易に想像できた。
 がっし、と美宇が両足を掴んだ。思いがけない力に、修は足を止められる。
「あのオンナの所に行くのかーっ!」
 部屋を震わせる大声で叫ぶ。修は驚きのあまり硬直した。彼女との楽しい高校生活が。
「そういう事かっ!」
 椅子を跳ね飛ばすような勢いで美衣が立ち上がる。
「ねえ、まだそういうオトナの関係は早いんじゃないの……?」
 いつもとは打って変わった艶やかな口調で、美衣は修の耳元で囁く。湿った声が耳朶をなぶる。
「お風呂を覗くくらいだったら、いつでもいいのよ……?」
「お、お母さんも、それくらいなら……」
 年齢不詳の母は、上目遣いの視線を修に向けた。
「美宇ちゃんも別にいいよ?」
 不思議そうな幼い言葉が続いた。
「うぉおー!」
 修は雄叫びを上げて自室へと前進した。
「俺はっ! こんな生活から! 卒業するんだーっ!」
 夕暮れ空に響いた修の叫び声に、野良犬の遠吠えが続いた。

   おしまい
  1. 2009/05/26(火) 07:39:17|
  2. 電撃リトルリーグ落選作品(超短編小説)
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