2ntブログ

画紋工房

2008年12月にガタケット103(3月22日)に向けてなんとなく結成された二人組サークル『画紋工房(がもんこうぼう)』のブログです。コピー本を作ってガタケットにちょびちょび参加しております。(2018/03/20~申し訳ありませんが暫定活動休止中です。たまに更新する、かも……)

略すとハナカン。

 超良ゲーなのは確かなんだけど大きな問題点が、だってRPGツクール2000のサンプルゲームなんだものコレw
 内容は女性キャラ全員にフラグが立つギャルゲーw いやロープレなんだけどさw サンプルゲームなのにかなりの勢いでフルボイスってどういう事w ちなみに何故かインストール時にボイスデータにチェックが入っていないので気をつけろ!w ストーリーやら声優やらイラストやらみんなおそろしく豪華。中古で見つけたら即ゲットをオススメします。
 今回は絵の方が花嫁の冠に対する愛情を仕事の休み時間とかに炸裂させたボールペン画を一挙公開です!w 裏はいつものごとくなんかの伝票でしたw



 ツンデレ魔法使いのキサラさんです。ツンが激しい。
「……カエルと沢ガニにされるの、どっちがいい?」『はい/いいえ』「……はいとかいいえとかじゃなくっ、てどっちがいいか聞いてるのよ?」
 絵の方が大好き。なので描いた枚数が多い多いw

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 ゲゲゲの鬼太郎のEDな感じでの一枚。文の方はこのEDで鬼太郎と猫娘が手を叩き合ってるの見るだけでもう泣きそうに。過去に何かあったの? ……歳? このイラストでも切なくなるなあ……。
 あ、右のが主人公。

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 シスターのユリアさんです。近所のやさしいお姉さん的ポジション。けどなんかこう、いぢめたくなる感じなんだけどw 悪いのは俺か? そうですか。

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 天然娘ロッカちゃん。天然M。その気がなくてもその気にさせられてしまう勢いです。主人公がベッド使って、この子を床に寝せることができます。……どうなのw
 ちなみにイラストは語尾に『ぽんぽこー』ってつくお好み焼き屋行った後『俺こんな感じだと思ってたのに』という一枚。食い放題やってて忙しさのあまり店員さんの『ぽんぽこー』が荒れた感じになってたのでw ちなみに文の方はなんか微妙に甘いホットケーキもどきのお好み焼きと、生クリームは焼くもんじゃない、というもんじゃ焼き食べましたよ。いや『もんじゃ焼き』ってくくりに入っているけどデザート的なモノでホントに焼くワケじゃないと思っていたんですよ……。結局ホットケーキお好み焼きにパフェもんじゃ載っけて食べたけどさ!
 最後脱線したけど、ハナカンは非常に魅力的なので是非一度プレイしてみて欲しいですね。ケータイとかでプレイできるようになったらいいのに、と思います。
 RPGツクールDante98で賞をとったトラウマRPG、コープス・パーティがたしかケータイに移植されていた気がしたので……。
 今はゲームハードの性能が上がって何でもできる面白さがあるけど、昔は昔で制限された中で工夫された面白さが確実にあったと思うんだよなあ……。歳取ったのかなあ……。
  1. 2009/02/28(土) 00:20:19|
  2. 花嫁の冠
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みんな、モンハンやってるかい?

 とかいう文の方はPSP持っていません。仲間と一緒にやるのはいいけどレベル差とかついていると嫌なのよ。FPSのCOOPとか好き。ハーフライフ1のBrainBreedくらいしかやったことないけど!w いやまあアレもレベルがあるといえばあるんだけど……。もう最近のゲームがウチのPCじゃ動かんのじゃよー。



 で、イラストはモンハン装備のオリジナルキャラ、シェリルです。そんでもって今、仲間内のブームはDSのソーマブリンガーです。面白いらしいですよ。世の中の動きは速いですねー。文の方はやんないけど。ゲームを与えられるとずーっとやってしまうので、時間がかかる感じのゲームは避けています。
 っていうかPSPでFPSやりたいので、出来たら誰かプレゼントして下さい。アナログスティック壊れた時に自分で修理出来ないと嫌なので、できたらPSP-1000を!w 絵の方はモンハンのやり過ぎでアナログスティックぶっ壊れて自分で修理しました。脇で見てて基盤の十字ボタンの下が上に寄っていたのを見て引いた……。デザインも大事だけどまず中身じゃない?
 DSもコールオブデューティ4がかなり頑張っていて感心したので、もっとFPSが出てくれれば、と思うんだけれど……。Wiiもレッドスティールが出てガンシュー的なFPSがいっぱい出る! と期待しまくったのに出ないし……。ニンテンドーは基本子供向けなんでしょうね。残念! あ、Wiiのゾンビのいけにえには期待していますw





  1. 2009/02/27(金) 10:36:29|
  2. ゲーム(20120404まで)
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カレラって聞くと、

 絵の方「悪魔のお姉さん?」
 文の方「PC98のね」
 友人Dが言ったのは漫画のタイトルで車の名前でしたw そういえばあのパソコンでアニメするのが有名だった18禁ゲームメーカーって今どうなってるんでしょうか。木村貴宏も参加していたような。
 下はどことも関係ないただの『悪魔のお姉さん』ですw



 最近スーパーカーブームなんでしょうか? なんか『カウンタック』ってタイトルそのまんまの漫画もありますよね。
 車持ってないしあんまり興味ないですけどね! アハーハ。漫画は普通に読むけどw
 今、文の方が乗ってるバイクはTDR50改です。ちなみにDJ1-R→DJ1-L→NSR250R(89)→TDR50改という流れです。何故か全部2スト。DJ1-Rは友人Dに「(『逮捕しちゃうぞ』の)スクーターおばさんのスクーター」と指摘されてイラッとしました。シート上げたらガソリンタンクでびっくりされたり。
「メットどこに入れるの?」
 とりあえずガソリンタンクには入らねーわな。メットインって便利ダヨネー。
 NSR250Rは事故ってホンダ直営店に持っていったんですが修理不能でした。3年前に対向右折車に進路妨害されて左に避けたら路肩に乗り上げてジャンプ、跳ね上がったタンクがぶつかった後意識途切れ途切れ。頭から落ちました。フルフェイスで良かった。近くのガソリンスタンドのお姉さんびっくりさせてスミマセンでした。バイクが飛んできたら俺だってびっくりするわw 後でクッキー持っていったけどキャンペーンのバイトの人だったみたいで謝罪できませんでした。残念。救急隊の人もすみませんでした。
 平成18年8月24日(23日?)夜、小手指ヶ原交差点で身に覚えのあるステーションワゴンは俺にバイク代と治療費払うように。進路妨害でひき逃げになってるぞー。ちなみに俺、左肋骨骨折(下から2本)、両膝打撲・挫傷、腰部打撲・挫傷、外傷性腰部神経根症という診断結果でした。診断書のコピーとっといて良かった!
 肋骨折るとしばらくゲロ吐きそうになるくらい痛いから折らない方がいいですよ。ちなみにレッカー移動してバイク屋持っていって貰った時に、ライダー本人だって言ったらびっくりされたくらい壊れてた。
 タイトルと全然違うバイクの話ですね。スミマセン。
 TDR50改の話もしたいんですがやめときますw
 麻宮騎亜は『サイレント・メビウス』の最初の絵柄の方がまるいラインでかわいい感じがして好きなんですけど……。歳とったって事なんですかねえ……。







 このバイク漫画はオススメ。最初の方が打倒ポルシェですw

  1. 2009/02/25(水) 02:08:45|
  2. オリジナル(20120404まで)
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今更年賀状。しかも去年のだ!



文の方には毎年絵の方からこういう年賀状が届きます。ありがたいことです。家族も見るので胸の先は抑え気味。残念。しかしリンプーのブラ? って、公式イラストとか見ると凄い布地が薄い感じなんだけど。……心配だネ!w
……元旦に届く枚数? 毎年絵の方からだけだよ? よく合うのでそもそも年賀状出す理由がないんじゃないか、年賀イラストでいいんじゃないか、という意見もありますがまあそれはそれで。ガソリン代
考えたらハガキ50円は安いよ? 写メしたら?とか言うな。
リュウはウチのサークルだとまあ、大体いつもこんな扱い。
女性キャラあってのブレスオブファイアⅡですよ!w
  1. 2009/02/23(月) 05:02:19|
  2. ブレス オブ ファイアII
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寒い!!

吹雪いてんぞオイ! 過ごしやすくなってきたと思ったのに……ッ!
ということでタイムリーなイラストw

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ぬらりひょんの孫のつららちゃんとゲゲゲの鬼太郎の葵ちゃんですね。つららちゃんは人外ぐるぐるお目々がかわいくて好きです。
イラストを見せて貰った時につららちゃんの名前がわからなくて「えーと……ゆきめ!」と絵の方に言ったら「ジャンプとしては合ってる!w」と言われましたw 地獄先生ぬ~べ~の雪女でしたw 地獄先生ぬ~べ~、最初の方は面白かったんですけど、最後グダグタになったのが残念でした。まあ今管狐使いの女の子が頑張っているのであれはあれで復活したのかなあ、と思わなくもないですw アニメの終わり方はかなり好きでした。
それにしても地獄先生ぬ~べ~はトラウマ漫画として名高いですねw





  1. 2009/02/17(火) 00:04:50|
  2. その他(20120404まで)
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バレンタインデーでしたね(過去形)。

文の方はばあちゃんからいただきました。ありがたいことです。
カカオ70パーセントの奴。甘いのは好きですがアレあんまり甘くないので苦手。
何パーセントカカオが入っていたらチョコになるの? 甘くなくても甘くないチョコだという認識の味ではあるけれど。
絵の方の家に持っていってみんなで食べましたとさ。

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まあイラストも去年だw
文の方は色々とそっとしておいて欲しい年頃ですね。はい。
  1. 2009/02/16(月) 07:54:03|
  2. オリジナル(20120404まで)
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こいつが第三のアイドルだと思っていたのに!

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文の方「……キョン?w」
絵の方「俺ハルヒ観てねーけど、うん、まあ、何でだろう?w」
文の方は絶対こいつ一回オヤマやるか女装イベントがある!
と思っていたんですが、ありませんでしたとさ。
チェー。
実は女性だったとかでもいいよもう!w けどそれだとオヤマじゃなくなるか!w
アルトはランカとかシェリルとか選ぶ選ばないとかの前に二人とも眼中にないくらい自分の事が好きなナルシストだったのかしら、と最終話を観て文の方は思いました。
アルトの女装は映画版に期待!
  1. 2009/02/12(木) 12:00:51|
  2. マクロスF
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おっきいちっちゃい大尉。

おっきいちっちゃい大尉、ってゼントラーディがマイクローン化した大尉、と捉えていたんですけど違うみたいですね。ゼントラーディの状態の大尉がおっきい大尉で、マイクローン化した大尉がちっちゃい大尉だ! と絵の方に諭されました。なるほど。
けど他にもゼントラーディのおっきい大尉とか普通にちっちゃい大尉とか居るかも知れねえじゃん? とこっそりごねておきますw
そんなおっきいちっちゃい大尉のちっちゃい大尉の方のイラストの変遷おば。

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これ↑が多分初描き。公式かなんかのポーズですね。見て描いたと思われます。

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これ↑が見ないで描いた奴かな。……ところで大尉の服ってどうなってるの? ツナギ? 背中側にジッパーがついているとしたら一人で着替えられなさそうですごい心配。すごい余計な心配w ぜったい一人でじたばたしてるって!w ピクシー小隊の二人が手伝おうとして「一人でできる!」とか怒るわけですよ、ええw そんでもってまたじたばたw

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これ↑がつい最近ですね。大分まとまってきました。眉毛が難しくて大変だそうです。ガンバ!(他人事)
なんか髪型ちがわねえ? とか言わないで下さい。わかってるので!w
マイクローン化したクランクラン大尉のコスプレ本、じゃなくて単に『ちっちゃい大尉のコスプレ本』なので、なんていうかこう、流していただけるようにお願い申し上げます。
ところでメルトランディってどうなったの? 画紋工房は二人ともマクロス7からシリーズ見始めているんだけど、7の時にもう単語自体なかったような……。人という意味で使う場合のマンに対するウーマンみたいな感じなんですかね?
ちなみに文の方はマクロスプラスが好きで好きでもうガルドの特攻がもう、ねえ? どう?!
  1. 2009/02/12(木) 11:45:42|
  2. マクロスF
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ブログ開設おめでとうイラストをいただきました。

絵の方にw ……なんかこう、サークルとしてどこか乖離している気がしないでもないw
絵の方オリジナルキャラのシェリルです。銀河の妖精じゃありません。
ファンタジーの盗賊的なポジションのキャラです。主人公(女)は別にいたんですが……。画紋工房はひねくれているのかこっちの方が人気があるのですw
ツリ目好きとか言うなw
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こっち↓のは例によってボールペンで一発描き。失敗したから出さない、という事だったんですが、絵心のない文の方が修正しました。だから何か違和感があったりしたらそれは文の方が悪いんですよ……。
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絵の方本当にありがとう!
っていうかこういうのって部外者から貰うものなんじゃないかっていう気がするけど!
嬉しさに変わりはないさ!w
  1. 2009/02/07(土) 14:03:54|
  2. オリジナル(20120404まで)
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お色気担当?

初めて出た時にゲゲゲの鬼太郎が壊れた! とか思いました。
子供向けアニメに巨乳キャラ。どうなのw 嫌いじゃないよ! だっておとなだもの!w
雪女って人間の男と所帯持ったりするからそういう意味でもね!
まあ、葵の巨乳は雪女じゃなくてもインパクトがありすぎますが。けど、美人女性の妖怪って考えてみるとあんまりというかほとんどいないなあ……。
……猫娘って、ほぼ水木しげるのオリジナル妖怪だよなあ……w 元々は猫憑き? のただの女の子だった気が(そこらへん墓場の鬼太郎でやってたなあw ダブル鬼太郎放映にびっくりしたw)。
妖怪の血統としては、雪女の葵や魔女(魔女っ子?)のザンビアの方がポッと出の猫娘より上……?
猫娘にはコスプレで頑張っていただきたい。
葵もザンビアもコスプレしてくれたら何も言う事無いけどw

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帯がもう邪魔になってしまうサイズ……w

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目が猫娘とかと違って一般キャラのかわいい女子の目なので、画きづらいそうです。
そういえば放映第一回を観た時、猫娘が水木テイストを残しつつかわいくなっていたのでびっくりしたっけ……。水木テイストの絵柄を取り入れつつ現代風、というのはすごい事だと思うんですけど。
ちなみに妖怪四十七士で雪女は山形。……新潟は? と思ったら全然知らない妖怪でガッカリでした。新潟県民でも佐渡じゃわからねーよ……。住んでる所粟島の方が近いし!w

  1. 2009/02/06(金) 09:57:38|
  2. ゲゲゲの鬼太郎
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ライバルヒロイン?!

魔女(魔女っ子?w)のザンビア、初めて出た時に、すわ、鬼太郎と何かイベント発生か? と思ったんですけどねえ。
敵味方超えて命を助けて貰うとかそういう感じに。
わがままな感じがかわいくて好きです。

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  1. 2009/02/06(金) 09:41:10|
  2. ゲゲゲの鬼太郎
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ヒロイン昇格!

ヒロイン夢子ちゃん世代ではまっていたので(ゲゲゲの鬼太郎っていつの時代でも子供に受け入れられる気がする)、ドキをムネムネさせながら観た放映第一回。
猫娘がー!w
いきなりキャンペーンギャルですよ。夢子ちゃんシーズンではヒロインと比べてかわいくない方というひどいポジションだったのに!(この表現がひどい)
次々とコスプレしてくれるし……すげえ……。とか思いつつ観てました。最近は作品の終わりが見えなくて食傷気味。
立場的にヒロインの筈なのに鬼太郎にはねずみ男より大事にされていない不遇キャラw
猫娘が色々と仕事してるのは鬼太郎に生活費を渡しているから、という設定に画紋工房ではなっていますw
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一途に尽くしてかわいいのに全ッ然報われねえ……。鬼太郎が人間として駄目なのか(妖怪だ)、女に興味がないのか気になる所。
  1. 2009/02/06(金) 09:30:59|
  2. ゲゲゲの鬼太郎
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好きだったのに終わっちゃった……。

ちゃんとエロかったし、どこがいけなかったんでしょうかね?
つうか作者の昔からのファンだからってのもあるのか。
連載始まった時は嬉しかったんだけどなあ。
何故かオヤジキャラだけが伊東岳彦に激似。なにか縁のある人なんでしょうか? 何か知っている方がいたら教えて欲しいです。
1巻の末尾にあった『私立サキュバス学園(でしたっけ?)』って何で発表されている作品なのか、こっちも是非教えて欲しいです。
ちなみに一人だけど二人の主人公、いつもの方(お色気担当w)。
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戦闘担当(2巻ではお色気もw)
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絵の方はイラスト描くのをラムネ&40から入ったんですが、オヤジキャラが伊東岳彦に似ているせいか?w 描きやすいとの事ですw
あー、第一部完だから続きやってくれねえかなあ……。

  1. 2009/02/06(金) 09:06:14|
  2. コミックヴァルキリー
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名前がすごいと思ったウサギ。


デス・バニー。
……前後繋がっていねえ、みたいな感じで印象に残る事間違いなし!w
キャラかっこいいんで正直別に言う事ないですw
コミックヴァルキリーの中で安定している漫画だと二人で思ってます。
ここら辺の趣味が一緒なだけかも知れませんが。
いちいちウケ狙いな会長が面白いわw

  1. 2009/02/06(金) 08:47:53|
  2. コミックヴァルキリー
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士郎正宗のエロいイラストの小説。

小説なんだけどカラーでエロいイラストが入っておりますw 士郎正宗のエロイラストはコレが初めてだった気がするので狂喜乱舞した覚えがあります。ちなみに攻殻機動隊も当初エロいシーン目当てで買いました。もちろんSFとかも好きですよ!?
そういえば講談社から出てたアッパーズも士郎正宗のエロいブックレットポスター目当てで買ってました。本(ポスターが折りたたまれて一枚ずつ入っている)? として出たとき時期逃して揃ってません。なんか特典カードがランダムに入っていたり講談社の商売っぷりを感じましたw
そんな士郎正宗どうしたの? と当時思ったサービスっぷりの小説『邪神ハンター』の元気娘主人公。立場としてはヒロインを助けに行くのでヒーローです。もちろんいぢられます。……今だとコミックヴァルキリーって感じですね……w
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んで悪組織女幹部。好きですよええ女幹部。なんかこう、悪組織ボスに作戦失敗をしおらしく報告する時とかなんかこう……ツンデレ?w
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んで、気になるのが作品内でいわゆる本番行為がなかった気が。そこが一般ライトノベルの表現限界なんですかね? 小説ってどこからエロ小説(成年向け)になるのか教えて欲しいです。
  1. 2009/02/06(金) 08:03:10|
  2. 士郎正宗
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リュウちゃんぬいぐるみ。


絵の方が小説読んでくれた後にB5伝票4つ折りにボールペンで一発描き。
ありがたいことです。
八の字眉毛のニーナが、ねえ?w
  1. 2009/02/05(木) 09:52:18|
  2. ブレス オブ ファイアII
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植物娘アスパー。


絶対みんな女の子タイプにして使っていたと思うんだけどどうでしょうか?
頭のキノコのカサが帽子的なものなのか、それとも……。
と少し怖い所もありますけど。
  1. 2009/02/05(木) 09:49:04|
  2. ブレス オブ ファイアII
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虎娘リンプー。


何か誘ってるポーズに見えてしまうのは心が濁っているからだろうか?w
まあこんな格好されると困っちゃうよね、という。
リンプーはイベントで相手をしばきたおすキャラなので迂闊に手は出せません。
  1. 2009/02/05(木) 09:45:42|
  2. ブレス オブ ファイアII
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ニーナボールペン一発描き。


会社のB5伝票4つ折りにした奴にボールペンで一発描き。
勿論仕事中じゃないですよ?
ちょっと失敗していますがボールペンなので……w
しかしニーナの下着はどうなってるのかw
というかおみ足露出しすぎですお姫様w
  1. 2009/02/05(木) 09:42:19|
  2. ブレス オブ ファイアII
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脳天気キャラ。


オリジナルのリンプーはそんなじゃなかったと思うんですが、画紋工房だとこんな感じです。
らき☆すたのヴァの人と似たような感じじゃないかという事でこんなイラスト。
なんだか違和感ないなーw
  1. 2009/02/05(木) 09:37:28|
  2. ブレス オブ ファイアII
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励ましイラスト。


小説執筆中に頂きました。サンクス!
ブレス2のキャラって結構みんな胸あるよね……。
乳を前面に押し出したキャラクターもいるしw
  1. 2009/02/05(木) 09:34:21|
  2. ブレス オブ ファイアII
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ニーナの主張。


小説内のネタを元に描いてくれました。ありがとう!
実際どうなんだろうか……w
  1. 2009/02/05(木) 09:31:43|
  2. ブレス オブ ファイアII
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リュウの妹。


ユアちゃんです。パティちゃんともいうw
10年も見なかったら色々な所が発達していた模様。
再会してもかなりしばらくの間妹だって気がつかないしねw
  1. 2009/02/05(木) 09:29:39|
  2. ブレス オブ ファイアII
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小説④二〇〇九年元旦小説。



「にゃはははははは!」
 楽しげな笑い声が物干し場にあつらえられたコートに響き渡った。両目にマルとバツ、そして八の字の形をした髭を描かれたボッシュがうなだれてため息をつく。
 新年早々えらい目に遭わされた気がする。
 物干し場は物干し台一台を残して隅に追いやられ、物干し台を中心に長方形が描かれていた。取っ手のついた板きれで羽を刺した海綿を打ち合い、物干し台に張られたロープより上を飛ばし、相手の長方形の中に入れれば得点になる。
 そしてなんだか分からないが、得点したら相手に落書きをしていいのだ。三回失点すると負けになる。だからみんな顔の三カ所に落書きされている。
 どこのスポーツだか行事だかわからないが、共同体の中で体力の有り余るリンプーに勝てる人物は居ないのであった。
「……あら?」
 新年を祝うごちそうが出来たのでみんなを探していたニーナが、驚いて足を止めた。
 落書きされてうんざりした顔がずらりと並んでニーナを見返す。反射的にニーナは背中を向けたが、その背中が震えているのは隠せなかった。
「……ど、どうしたんですか皆さん?」
 気を取り直して向き直ると言うが、その視線は斜め上を向いている。
「勝ったら落書きしていいゲームなんだにゃ」
 ふふん、と鼻息荒くリンプーが言った。まだ誰もリンプーに落書き出来ていない。
「ふうん? 面白そうね」
 顔に落書きされた全員が『逃げろ』と視線を送っていたのだが、落書きのせいで気付かれなかったようだ。



「……くすん」
 羽を使っての機動性で思いの外善戦したニーナだったが、恐ろしい瞬発力と柔軟性を持つリンプーの前に敗れてしまった。両目にマルとバツが描かれた状態で、リンプーの前に立つ。
「……その、男の子じゃないし、お髭とかじゃなくてほっぺとかにしてね?」
 上目遣いに懇願の視線を勝者に送る。
「……嫌だにゃ」
 にまり、と笑うリンプーの表情は獲物を前にした肉食獣のそれだ。
「やめてー!」
 コートに悲痛な声が響き渡った。



「あら、楽しそうな事やってるじゃない?」
 悲鳴を聞きつけたのか、ほろ酔い加減のディースがやってきた。
「楽しいにゃ」
 ぽんぽんぽん、と板の上で海綿を弾ませながら朗らかにリンプーが笑う。後ろには涙ぐんだニーナが立っていた。被っていた三角巾で顔の下半分をギャングのように隠している。
「そう、教えてよかったわあ」
 にっこりとディースが笑う。顔に落書きをされた全員が一瞬ディースを睨み付けたが、ディースが振り向いた時はにみんなばらばらの方向を向いている。
「やろっか?」
「はいにゃ」
 二人以外の全員の驚きをよそに、リンプー対ディースの戦いが始まった。



 下半身の蛇体の伸びを利用してトリッキーな動きで善戦したディースだったが、やはりリンプーに得点を許してしまう。
「えへへえ」
 嬉しそうにリンプーが筆を持ってディースの元に向かう。
「リンプーちゃん?」
 ディースはにっこり笑った。
「あたしの綺麗な肌に墨をべったりつけようなんて思っていないわよねえ?」
 一瞬にして豹変したディースの表情に、リンプーはその場でびくんと硬直した。



「ふみゃー!」
 両目にマルとバツ、口元には円い髭を描かれたリンプーがニーナの胸に飛び込んだ。野生児リンプーは力関係においてヒエラルキーの上のものにはどうしても逆らえないのだ。ぎくしゃくした動きのリンプーはあっという間に敗北した。
 何度も筆に墨を足されて顔に黒々と落書きをされるリンプーの姿は、みんなの同情を誘った。ただ、みんな顔に落書きをされているのであんまり深い同情ではない。
「あれ? どうしたのみんな?」
 騒ぎを聞いて来たらしいリュウが、ぼーっとしたように言った。酒に弱いのは自覚していたが、焼いたパウンドケーキのブランデーで酔うのを新発見したばかりだ。食べて酔う事はないが、焼いた際に発散されるアルコールを吸うと駄目らしい。
「あらリュウちゃん、ちょっとしたゲームなんだけどやってみる?」
 頬にとても小さくバツを描かれたディースが、にっこりと笑って言う。
「やるやる」
 視線はやっぱり届かなかった。



 ディースのトリッキーな動きに対して、リュウの動きも少しトリッキーだった。手加減したディースと少し打ち合った後、ほとんど地面に着く寸前の海綿を倒れ込みながらリュウが打ち返す。ロープの上ぎりぎりを海綿が飛び、ディースのコートに着地した。
「あら?」
 まさか打ち返せる姿勢だと思っていなかったので、ディースは少し驚いて目を瞬かせた。
「お、入った入った」
 立ち上がってリュウがにこやかに言う。墨壺と筆を持ってディースに近づく。
「……リュウちゃん?」
 ディースがにっこり笑い、その目にマルが描かれた。
 その場にいた全員が顔を青くして後ずさる。
 ディースはぽかんとリュウを見つめた。一瞬後、ざわっ、と空気が震えてディースの長髪が浮き上がる。
「ちっちゃい女の子みたいでかわいいな、ディース」
 にこっと笑い、真正面からディースを見つめてリュウが言った。ディースの浮き上がっていた髪がすとんと落ちる。顔を紅く染めて、ディースは困ったようにリュウから視線を逸らした。拗ねたように唇を尖らせる。
「……そ、そんな事言われても……」
 言葉が続かず、ディースは口をもごもごと動かした。
「かわいいかわいい」
 にこにこと笑ってリュウは言う。
「……もう、リュウちゃんのばかっ!」
 頬を両手で押さえるようにしてディースが走り去る。顔に落書きされた面々も、ぞろぞろと散っていった。リンプーは真っ先に逃げ出している。
 はあ、とニーナは安堵のため息をついた。
「あれ? ニーナ?」
 リュウが覆面の人物に気付くと、ニーナもリンプーのようなスピードで逃げ出していた。



 夜、するりとリュウのテントに影が忍び込む。
「うふふ、リュウちゃん」
 毛布に包まれた人影に、ディースが湿った声で囁きかける。
「……来ちゃった」
 いたずらっぽい、楽しげな声は淫靡な響きを帯びている。
 ディースはそっと毛布を剥がした。
「ふにゃ?」
 寝ていたリンプーが目を擦る。
「……あれ?」
「そこまでですディースさん!」
 テントの入り口にニーナが立ち塞がった。
「リュウちゃんにえっちな事は許しません!」
 ディースの肩が小さく震えている。
 魔法の爆発音が幾度も轟いた。



「……上はいつも賑やかねえ」
 共同体の地下、謎の機械の前でエイチチが呟いた。
「はあ、まあ」
 ボッシュが脇でエイチチにもたれながら寝ているリュウを見ながら答える。
 リュウの危険を感じて一緒に差し入れを持ってきたのだが、当の本人は酔っていたせいか早々に寝てしまった。
 リュウの頭がエイチチの肩からずれて胸に当たった。エイチチのすばらしく豊満な乳房がぽよん、とリュウの頭を受け止める。
 すげえ。
 ボッシュはごくりと生唾を飲み込んだ。誤魔化すように差し入れに自分も手を伸ばす。
「……んん?」
 上体を持ち上げようと上げたリュウの手が、エイチチのもう一つの乳房を掴んだ。
「んもう……」
 ちょっと頬を染め、さほど嫌がっていない様子でエイチチが呟く。リュウの手から力は抜けたが、張り出した乳房の上に乗って落ちる事はない。
 ボッシュは色々と馬鹿らしい気分になって、また差し入れに手を伸ばした。パウンドケーキがなかなか旨い。



 次の日リュウは断片的にしか記憶がなかったが、酪農をして乳搾りに精を出す夢だけははっきり覚えていたという。


おしまい。
  1. 2009/02/05(木) 09:00:34|
  2. ブレス オブ ファイアII
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小説③三人娘?はお年頃。



 リュウはただ淡々と、煉瓦を土の道路に埋め込んでいた。浅く掘った地面に煉瓦を敷き詰める事で、ぬかるみのない道路になる。手にする煉瓦はきちんと形をとどめているものもあれば、小石のような破片になってしまっているものもある。脇に山のように積み上げられた煉瓦を、一定のリズムで地面に埋め込んでいく。
 様々な形の煉瓦を埋めていく事を始めは面倒に思ったりもしたが、今ではパズルを組み立てるような気持ちでやる事で一抹の楽しさを覚えていた。仕事に楽しさを見出せるのはとてもいい事だ。
 背後の吹き飛んだ大きな建物の事を忘れられるから。
「うわー」
 かつてその建物の一部であった煉瓦の山が崩れ、リュウに襲いかかった。



 寮がほぼ全壊した事で住む場所がなくなり、必然的に勇者たちは一時散り散りとなった。あるものは故郷に帰り、あるものは出稼ぎに、あるものは勇者たちの村、共同体に残って復興作業に携わった。
 そして勇者たちのリーダー、リュウは吹き飛んだ煉瓦を拾い集めて、道路に敷いている。爆発で吹き飛んだ煉瓦はもろくなっていて建物には使えず、だからといって捨てるのも勿体ない、という事での道路作りだ。
 損壊した寮には大きなロウ引きの布が幾重にもかけられていて痛々しい。建てるのにかなりの時間を要した建物なので、修復にもかなりの時間がかかるだろう。廃墟を修復して建てたので、元に戻らなかっただけましかも知れない。
 そして何よりも、修復のためのお金がない。
 はあ、とリュウの口からため息が漏れた。かなり慣れたので作業スピードは変わらない。
 勇者のメンバーの多数が出稼ぎに行ってしまい、本来の目的がなんなのか不安になる。
 相棒のボッシュは猟へ行き、お姫様のニーナは残ったみんなの家事に追われ、問題大魔法使いディースは共同体のすぐ近くの洞窟へ酒樽と一緒に消えていった。天然猫娘のリンプーは山に遊びに行っているのか猟に行っているのか分からないが、とりあえず居ない。
 近くには中規模の都市があるので、働きに行ったり資材を買ってきたりするには丁度いい。
 勇者が働きに行くのがいい事なのかは分からないが。
 本来ならリュウも猟に行きたいのだが、リーダーという立場がそれを許さず、地味にコツコツと煉瓦を敷いて道路を作っていた。
 なんだかリーダーという言葉の響きとやっている事が違う気はする。
「……はあー」
 地面を浅くガリガリと小さなスコップで削りながら、リュウはため息をついた。地面を削る音がリュウの抗議の悲鳴に聞こえなくもない。
「リュウちゃんリュウちゃん」
 脳天気に明るい声が聞こえて、リュウは顔を上げた。リンプーが興味深そうに眼を光らせてリュウをのぞき込んでいる。
 上半身を前に倒しているので、ブラに押し上げられた谷間がくっきりと見えた。ブラが下着ではなくて普段から身につけているものなので少し残念だ。自前の立派な毛皮を持っているので、前はよく風呂上がりに裸でうろうろしてニーナに怒られていた。裸でうろうろしている時よりも、ブラで押し上げられた胸の方に色気を感じたりするのは何故だろうか?
「それ面白いのかにゃ?」
 しばらく思索に没頭していたリュウを、楽しそうな言葉が現実に引き戻した。リンプーが興奮に鼻を鳴らして顔を近づけてくる。
 スレンダーで魅力的な肢体を持っている事に自覚がないので、リンプーの扱いはなかなか難しい。腰の前と後ろに布を垂らしているが、この間どうにか付けさせたもので以前は下半身に何も付けていなかったのだ。
 毛皮があっても、大事な所が見えないわけでもない。
 どんなだったっけな、とリュウは腕組みをして考え込んだ。
「つまんないならいいにゃ」
 眉根を寄せてリンプーが体を引いた。リュウが再びはっと我に返る。この間から、少し変になった気がする。
 素早く離れていく、つり目の少女のいたずらっぽい優しい表情、唇に残るやわらかくてあたたかい感触。
 リュウの顔が我知らず赤くなった。
「これ、なんか恥ずかしいのなのかにゃ?」
 リンプーは眉根を寄せて煉瓦の埋め込まれた道路を見つめた。



「こっちだにゃ」
 リュウは先を歩くリンプーにいざなわれつつ、林の中へと分け入っていた。さっき声を掛けられたのは何か用事があったらしい。リュウは腕組みをしてリンプーを観察した。時々振り返っていたずらっぽい上目遣いの視線を向けてくる。それはそれで可愛らしいのだが、リュウには今までの経験上嫌な予感しかしない。
 共同体の復興作業の音が遠くに聞こえる。辺りを支配しているのは小鳥のさえずりと草木のざわめきだ。
「……えーと、リンプー、こっちに何かあるのか?」
 リュウはなるべくゆっくりと歩きつつ、慎重に口を開いた。リンプーが小首を傾げて振り返る。
「……こっちはないかにゃ?」
「……うーんと、どっちにあるんだ?」
 リンプーと意思の疎通を図るには努力と根気が必要だ。
「……ここでもいいかにゃ?」
 辺りを見渡して、リンプーは独りごちた。
「あれ?」
 リンプーの強力な視力が小さなテントを見つけた。三方を木と藪で隠されているので、常人だと多分気づかない。
「……あー、あれは俺のテントだから」
 リュウはなるべく平静を装って答えた。無茶苦茶にされたくなくて離れた場所に設置したのだが、一番無茶苦茶にしそうな人物に見つけられてしまった。
「ふうん」
 思いの外リンプーが興味を示さなかったので、リュウはほっと胸をなで下ろした。その瞬間、何かを感じ取ったリンプーの瞳がきらりと光る。
「あ、えっと『ここでもいい』ってなんなんだリンプー?」
 リュウが慌てて話題を逸らす。
 リンプーはちょっとうつむいて、もじもじと辺りを見回した。なんだか様子がおかしい。何か失敗してしまった事を打ち明けようとしているのかも知れない。周りに迷惑がかかっていてもそれに気づかないリンプーには珍しい事だ。叱ったりアドバイスしたりして社会性を伸ばしてやりたい。
「ん? どうしたリンプー?」
 リュウはうつむいたリンプーが自分を見下ろせるようにひざまずいた。ぷい、とリンプーが視線を逸らせる。
「……う」
 もごもごとリンプーの唇が動いて言葉が紡がれたが、小さくてリュウには聞き取れなかった。
「ん? なんだい?」
 尋ねるリュウの声はとても優しい。慈父のように優しさが厳格さを包み込んでいる。
「ちゅう」
 やっと視線を合わせて、リンプーが小さく言った。リュウの耳に言葉は入ったが、脳が認識できない。反応のないリュウへ、もどかしげにリンプーはもう一度唇を開く。
 ちろりと舌先で湿らされた桃色の唇が、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「ちゅうして」
 リンプーの上目遣いの視線に射すくめられるようにして、リュウは硬直した。



「であっ!?」
 硬直が解けた瞬間、リュウが反射的に取ったのは両手で視界を防がないように頭部をガードしつつ飛び退る事だった。
 リンプーはリュウを追う事もなく、その場でもじもじと体を動かしている。瞬発力でリンプーには敵わないので、リュウはちょっとほっとした。ついでに腕力も敵わない。リンプーの頭がかなり良かったら、どこかで建国してるんじゃないかとリュウは思う。
 ほんのり頬の染まったリンプーに下から見つめられ、リュウが再び硬直する。
「リンプーは、リュウちゃんに、ちゅうして欲しいにゃ」
 ゆっくりと、確かめるように唇から言葉が紡がれる。
 今度はリュウの頬がみるみる赤く染まった。
「なっ、ななな、なんで?」
 狼狽したリュウの言葉にも、別にリンプーは気を悪くしたりしない。
「わかんにゃいけど、ちゅうして欲しいにゃ」
 可愛らしく頬を染めたまま、即座にリンプーが答える。感覚的に行動するリンプーには、自分の欲望の理由が必要でない。
 半分パニックに陥りつつも、リュウは単に『ちゅうしたい』という事でなくて良かったと思った。今頃押し倒されて終わっている。
「……リュウちゃんは、リンプーに、ちゅうしたくない?」
 ちょっと困ったように眉根を寄せて、リンプーがリュウの顔をのぞき込んでくる。哀願するような表情が非常に蠱惑的だ。
 やばい。
 リュウは男という種の節操のなさを呪った。
 したい。
 くらっと傾きそうになった野性と理性の天秤を引き戻すように、リュウは口を開いた。
「えっと、ちゅうってのは、好きな人が好きな人にするものなんだよ?」
 最後が疑問系なのは自分でも発言に自信がないからだ。
 リンプーの顔が悲しげに曇った。
「リュウちゃんは、リンプーの事が好きじゃないのかにゃ……」
 寂しそうにこつん、と足下の小石を蹴る。直情的なリンプーが見せた悲しげな表情に、リュウは慌てた。いつも天真爛漫に笑っているので、別の表情が見えたときには驚いてしまう。原因が自分であればなおさらだ。演技ができるほど器用でもない。
「い、いや、そういう事じゃなくてね」
 ぱあっ、とリンプーの顔が明るくなる。
「じゃあちゅうして!」
 きらきらと眼を輝かせて詰め寄るリンプーから、リュウは慌てて後退した。
「えー、好きな人っていうのはね、単純に、友達で好きだとか、仲間で好きだとかじゃなくってね」
 後ろめたい部分のあるリュウは、ひたすら純真でまっすぐなリンプーの視線から逃れるように視線を逸らせて言う。ちらり、とリンプーの様子を窺うと、言葉の意味を全く理解していない明るい笑顔と視線が合った。
「よくわかんないから、とりあえずちゅうして?」
 ずい、と頬を染めたリンプーがもう一歩詰め寄ってきた。リュウはリンプーを説得、もしくは難しい話を真面目にして退散させるために、リンプーを正面から見つめた。期待に満ちてきらきらと光った眼が見つめ返してくる。
 リュウはリンプーの柔らかそうな唇を見つめてしまい、ごくり、と生唾を飲んだ。いつも食事の度に口の周りを汚している、肉食獣の牙を隠した唇とは思えないほど色気がある。リンプーが求めているからかも知れない。
 乾いた唇を舌先で湿らせて、リュウは口を開いた。
「ちゅうっていうのはね、大事な人同士が」
「こないだ見たにゃ」
 びく、と痙攣するようにリュウの動きが止まった。どっ、と油汗が全身を冷やす。
「ニーナとちゅうしてたにゃ」
 いたずらっぽい微笑みの色を濃くして、リンプーが言った。
「え、えっと、それはね、えー」
 リュウの口はどうにか開いたが、言葉はしどろもどろで意味をなさない。
「……ディースに言ってもいいにゃ」
 駆け出しの小悪魔のように、言葉には哀願と脅迫が込められていた。下からじっとリュウの表情を窺う視線は、ちょっと自信なさげだ。
 リュウの思考がぐるぐると巡った。からかわれたり絡まれたりストレス溜まったり魔力が暴走したり理不尽に怒って爆発させられたり。
 脳裏で小さいディースが言った。意地悪げに微笑んでいる。
『したら? したいんでしょ』
 同じく脳裏で小さいニーナが言った。少しおどおどしながら、頑張って喋っていた。
『こういうことは、その、一時の感情に流されると』
 小さなディースが小さなニーナに襲いかかった。後ろから豊満な胸を揉みしだく。
『うるさいわねえ。したらいいのよしたら』
『なっ、何してるんですか! あっ! やっやめてください!』
 脳裏から二人が消えた。
 リュウの視点が定まって、リンプーを正面からまっすぐ見据えた。リンプーの頬が羞恥に濃く染まっていく。
「……眼を閉じて」
 優しい声と共に、日頃の労働と戦いでごつごつした指先がリンプーの肩に置かれた。
「……にゃ」
 こわごわと眼を閉じるリンプーの表情は、怯えを期待が覆い尽くしている。
 リュウは心の中でリンプーに謝っていた。
 ちゅうする先が頬でも、ちゅうに代わりはない。リンプーが細かい所まで見ていない事を祈るだけだ。
 ゆっくりとリュウの唇が近づいていく。
 ぱちり、とリンプーの両目が開いた。リュウが驚いて身を離そうとした瞬間、リンプーの腕がリュウの肩を掴み、押し倒していた。
 倒れる瞬間、リンプーの柔らかい唇が押しつけられ、少しざらりとした舌がリュウの唇を嘗めた。
 地面にリュウの背中がついた瞬間、リンプーがばね仕掛けのように跳ね起きた。顔が耳まで真っ赤に染まっている。
「にゃ……」
 唖然としているリュウを見つめたまま、もごもごとリンプーの唇が動いたが、声にはならない。
 リンプーが信じられないように自分の唇に指先を当てると、その表情がみるみる喜びに染まっていった。
「むにゃ~!!」
 喜色満面のリンプーが、両手をぶんぶん振り回しながら走り去っていく。振り回された手に当たった若木がみしみしと悲鳴を上げて折れる。
 どしゃっ、という折れた若木の先端が地面に落下した音が響いた。
「……うう」
 ちょっと涙目でリュウは身を起こす。奪われてしまった。
 リンプーがこちらの企みを看破したのか、それとも待ちきれなかったのかは分からないが、奪われてしまった事に変わりはない。
 これでディースへの口止めになるならいいのか? リンプーが誰かに喋ったりしないだろうか? と自問自答をしかけたところで、慌てて辺りを見渡す。
 外れた場所なので、誰も目撃していなかったようだ。ほっと胸をなで下ろす。
 大喜びで走っていったリンプーを見て誰かが不審に思うかも知れないが、別に問いただしたりはしないだろう。意思の疎通が大変だ。
 平然さを装うためにとりあえず唇を拭ったが、生々しい感触はなかなか取れなかった。逆に変に意識してしまう。顔が真っ赤になっているのが自分でも分かった。
 顔の火照りがどうにか押さまり、歩き始めると向こうからニーナがやってくるのが見えた。木漏れ日が金髪を輝かせている。ひよこの刺繍がついたエプロンと三角巾をしている姿が妙に艶めかしい。
 ついさっきのリンプーのちゅうと、この間のニーナのキスが脳裏で勝手に重なって、リュウの顔が再び真っ赤に染まった。
「リュウちゃん、ちょっと早いけどお昼ご飯よ」
 ニーナがいつも通り優しく声を掛けてくる。テントの場所は一部の人間以外知っているので、わざわざ呼びに来てくれたのだろう。
「う、うん。わかった。ありがと」
 こくこくと頷きながら、リュウはニーナが走り去っていったリンプーとすれ違わなかったか気になった。ニーナはリンプーと意思の疎通ができる数少ない人間なのだ。ここで話題にならないという事は、すれ違わなかったのだろう。
 目の前でいつものように微笑んでいるニーナへ、心の中で謝罪する。すみません、あれは事故だったんです。言い訳になっていた。
 ……顔が真っ赤なのを気づかれていないのだろうか?
 リュウが不審に思った瞬間、ニーナが優しく微笑んだまま口を開いた。
「ねえリュウちゃん、ちゅうをしてもいい大事な人っていうのは、何人居るの?」
 リュウの顔色が一瞬にして赤から青になった。



「……あうう」
 ちょっと涙目になったリュウが、小さなスコップでかりかりと地面を掻いていた。表情も音も情けない。
 ニーナが怒っている……。
 しどもどろに弁解というか言い訳を開始したリュウをにっこりと無視して、ニーナは厨房に戻っていった。追いかけたのだが、厨房の中に入られて断念する。
 いつもはスープを器に入れてくれるのだが、それもなくなってしまった。がっくりと肩を落として自分の分を持ち席に着いたら、奥から出てきたニーナが作業を再開していた。
 悲しい。
 視線すら合わせてくれないのが恐ろしい。まるで自分が空気か何かになってしまったかのようだ。空気は呼吸に必要不可欠なので、もしかしたらそれ以下に思われているかも知れない。
「……とほほ」
 スコップで地面を引っ掻いているだけなので、作業は一向にはかどらない。そもそも作業になっていない。
 こういうときに相談に乗ってくれるのが年長者だが、共同体の一応の年長者はある意味一番子供っぽいので相談できない。あれほど狡猾で放埒で破廉恥でそっちの方向にだけ頭の回る子供がいればだか。精神の一部分だけ意地悪な子供のディースに相談したらこじれる事間違いなしだ。そもそも相談する気にもならないが。
 せめて誰かに愚痴を聞いて欲しいが、こういう話はディースの大好きなところで凄まじい勢いで関わってくるので、みんな避けてしまう。今は洞窟に酒樽を持ち込んで一人で楽しくやっているはずだか、日頃の影響力は失われていないだろう。何よりもディースに絡まれていると不憫でならないので、リュウが自重するしかない。
「……」
 がっくりと肩を落として、指先だけで持ったスコップで地面をなぞる。小石にぶつかってスコップを落としてしまうが、拾う気も起きない。
 何が、誰が悪いのかと考えてみて、はっきりしない自分、と即座に返ってくる自らの素直さが恨めしい。
 素直って長所か?
 にへら、とリュウの顔に自虐的な笑みが浮かんですぐに消えた。無表情で地面を見つめる。
 リンプーの色気に負けてあの瞬間に素直じゃなかったのが悪い。
 これほど沈んだ気分なのに正確に発揮される自分の分析力には自信を持っていいかもしれない。
 ……神に祈ってみるか? 詳しくない上に全く信じていないし、信じる事で自らが弱くなってしまいそうなのが怖くてやらないのだが、やってみたら案外気が楽になるかも知れない。とりあえずエバ教の神様はやめておくが。
 とりあえず責任転嫁する先は必要だ。自分が悪いという自覚があるのがどこまでも悲しい。
 今、この瞬間一番必要としているのは、相談したらアドバイスをくれたり、愚痴を聞いてくれたりする、世紀の大魔法使いに絡まれる事をものともしない存在なのだ。神様に責任転嫁するよりもよっぽどいい。
「……どうした? 相棒?」
 背後から太い、張りのある優しい声がしてリュウは振り返った。自分は知らないが、父親の声というものはきっとこういうものなのだろう。
 我知らず涙が一粒頬を伝った。
「悩み事か?」
 喜怒哀楽を共にしている幼なじみ、ボッシュが立っていた。その顔は全てを優しく受け入れ、許すように微笑んでいる。
 リュウはボッシュに神の姿を見た。



「そりゃ、恋に恋してるんじゃないのか?」
 がりがりと地面を浅く掘りながらボッシュが言った。側らには猟の帰りなのか大きな肩掛け袋が置いてある。
「恋に恋?」
 ボッシュの脇で掘られた部分に煉瓦を並べながらリュウが反芻する。
「うん。リンプーも親兄弟が居なくて、家族愛というものを知らないわけだ。……まあ俺らもだけど」
 顎の部分をしごきながらボッシュが言う言葉に、リュウはふんふんと頷く。
「でまあ、ここで家族みたいなものが出来たわけだ。甘えられる優しいお兄ちゃんとか、お姉ちゃんとか。あとはだらしないおか」
 ごほん、と咳払いで言いかけた単語を誤魔化す。リュウは何を言おうとしたのかすぐに分かったので別に聞き返さない。
「で、基本的にリンプーはみんな好きなわけだ。家族としての意味でな。けっこうべたべたスキンシップしてくるだろ? 今までそういう存在がなかったから、その反動だと思うんだ」
 じっと思慮深く考えている、いつもは愛嬌たっぷりの顔をリュウはじっと見つめた。
 ……ボッシュはいつの間にこんな大人びたんだろう?
 昔はかなり頻繁に行動を共にしていたのだが、最近はディースやリンプーにかまわれてちょっとだけ疎遠になっていた気がする。何よりニーナと一緒に居たいというのもあるが。
 それでも結構一緒に釣り行ったりするけどなあ……。
「……まあ、俺たちも家族なんて居なかったけど、家族みたいなもんだったろ?」
 悩んだ表情のリュウに、ボッシュがわざとらしく明るく笑って見せた。
「……そうだな」
 別件で悩んでいたとは言えず、申し訳なさも加わってリュウも微笑み返す。
「それでリンプーとしてはリュウとニーナが楽しそうにしているのを見て、『お兄ちゃんとお姉ちゃんばっかりずるい! まぜてまぜて!』って感じになるわけだ。子供だから大人になりたくて、大人の真似をするんだな。恋する事に恋い焦がれてる、って訳さ」
「ふうーむ」
 腕組みをしてリュウは出来上がったばかりの道路をにらみ付けた。ボッシュの言う通りかも知れない。リンプーの言った言葉が脳裏に浮かぶ。
『よくわかんないから、とりあえずちゅうして?』
 こちらを覗き込んだ眼の中にあるのは、好意だったのか好奇心だったのか、それとも両方が混ざり合ったものだったのか。もしかしたら、リンプー自身も説明の付かない、衝動を伴う何かの感覚だったのか。
「ただまあ、問題なのは本当の家族って訳じゃないから、家族として好きなのか、それとも恋の対象として好きなのか、リンプー自身もよく分かってないんじゃないかな」
 ボッシュが手を止めてにやりと意地悪く微笑みかけた。
「で、リュウはどうするんだ?」
 う、とリュウは言葉に詰まった。ぽわわん、と脳裏にニーナとリンプーのキスしたときの顔が浮かぶ。両方とも同じくらい魅力的だ。
「ニーナに冷たくされて、リンプーにアタックされて、迷ってるんだろ? んん? 相棒?」
「えっ? あ、うっ!?」
 思ってもいなかった図星を突かれて、リュウは狼狽した。確かにニーナ一筋とはっきり決めていれば、リンプーに押し倒される事もなかったし、脳裏に浮かぶのもニーナだけのはずだ。
 気がつくと、ボッシュがじっとリュウを見つめていた。
「見てれば解るんだよ……。ふらふらしてると、どっちからも愛想尽かされちまうぞ? しゃきっとしろよ、相棒?」
「そ、そうだよな……」
 自分の情けなさに出たため息と一緒に言葉が押し出された。自分は誰が、どうして好きなんだろうか? 自分が本当に好きでない相手に好かれて、その相手を好きになれるものなのだろうか?
「相棒? ちょいと聞くけどよ?」
 ぐい、と真剣な表情でボッシュが顔を近づけた。ただならぬ雰囲気にリュウも顔を寄せる。
 ぼそり、とごく小さな声でボッシュが言う。
「第三の選択ってのはないよな? 相棒?」
 心配げに念を押してきたボッシュへ、リュウは首が痛くなるくらい左右に振った。脳裏に言われて初めて気がついた第三の女が浮かぶ。
 自ら煉獄に焼かれる事を選ぶのは、よっぽどの罪人だろう。



 自分が蛇体に絡み付かれている図を想像してリュウがげんなりしていると、近くでロバの引く荷車がゆっくりと止まった。
 資材の搬入はもっと奥なので、不思議に思ってリュウが顔を上げる。ボッシュは立ち上がっていた。
「もふもふ~!」
 御者台にちょこんと座っていた10歳くらいの女の子が、ぴょこんと跳ね降りるとそのままボッシュに突進した。
「はい、もふもふ~」
 にっこりと笑ってボッシュが少女を抱くと、少女はつま先立ちになって開いた胸元の毛皮へ顔を埋めた。ポニーテールが揺れてきゃっきゃっ、と嬉しそうな笑い声が弾む。
 リュウがきょとんとしていると、御者台から声がかかった。
「す、すみませんボッシュさん……いつもいつも」
 肩掛けのフードを脱ぎながら、妙齢の女性が恐縮した様子で言う。髪を肩にかかる前に切った、庶民的な雰囲気の美人だ。ちょっと垂れた眼が可愛らしい印象を与えている。少女と似ているので親子なのだろう。父親が獣人なのか、少女に控えめな牙と尖った獣の耳がある。
 ちょっと仕草におどおどした感じのある女性を見て、リュウはここにディースがいなくて本当に良かったと思った。絶対いぢめられてる。
「あ、そうだリュウ、言うの忘れてた」
 ボッシュが少し気恥ずかしそうに頬を掻いて言った。
「俺、この人の所にしばらく世話になるから」
 リュウがその言葉を理解するのに、しばらく時間がかかった。ボッシュの胸に顔を埋めて満足そうな女の子と、その若い母親を交互に見る。
「……えっ?」
 あまりにも驚いたので、リュウのリアクションはなんだか小さかった。
「ええと、あの、わたくしニアと申します。小さな食堂兼宿をやっていまして、ボッシュさんには、いつも新鮮なお肉を卸していただいていまして、それで……」
 頭を下げて説明をするニアの言葉に、リュウは単にこくこくと頷くしかない。
「あのねあのね、もふもふこないだ嫌なお客さんやっつけたの! すっごいかっこよかったよ!」
 ようやくボッシュの胸から顔を離して、少女が眼をきらきらと輝かせて言う。
「きっとこれがおとーさんって感じ!」
「こ、こら、ニウ!」
 急激に顔を火照らせてニアが叱りつけるが、ニウはきょとんと見つめ返すだけだ。
 頬を染めたニアが、ボッシュを見つめた。ボッシュが見つめ返すと、ニアは慌てて視線を引きはがす。高まった動悸を抑えるかのように、胸の前で強く両拳を固めた。
 少し悲しそうな視線で、ボッシュはニアを見つめていた。
 ……えー……。……あれー……。
 目前の光景がリュウにはやたら遠く感じられた。
 コレってアレなのか?
 どれがなんだか分からないが自問自答する。
「えーと、そういうわけで行ってくるから。ニアさんの所に居なければ猟かな?」
 ぽかんと口を開けていたリュウに、ボッシュが少し気恥ずかしげに言う。
「うん」
 リュウは頷いた。
「金がある程度貯まったら持ってくるよ」
「うん」
 再び頷くリュウ。ボッシュが肩掛け袋を荷台に置いた。
 御者台にボッシュが乗り込み、その両脇にニアとニウが乗り込む。ニアはそっと肘を絡ませて、ニウは腰に抱きついている。
 抑え込んだ感情を感じさせるニアの表情はニーナのようで、好意を全く隠さずに無邪気に微笑んでいるニウの表情はリンプーのようだった。
 ボッシュが手綱を引き、ゆっくりと荷車が回転する。
「それじゃあまたな、相棒!」
 顔を振り向けてボッシュがにこやかに言う。
「うん」
 リュウが頷く。
 ゆっくりとしたスピードで荷車は進み、離れていく。
「ニウ、ちゃんと学校行ってるのか?」
 全て見透かした、諭すようなボッシュの声に、ニウの不満げな声が返される。
「……いじめられるもん」
「今度から『牙も耳も、もふもふと一緒だー!』って言ってやれ。つよーいもふもふとおんなじなら、嫌じゃないだろ?」
「……うん!」
 打って変わって、元気な声が響いた。
「ごめんなさい、ボッシュさん……。ニウの事まで面倒見て貰って……。それに、『もふもふ』なんて……その……」
 ためらいがちなニアの声に、元気のいいボッシュの声が被さった。
「いいんですよ、ニアさん。泊めていただくんですから、やって欲しい事があったら、なんでも言ってください」
「……それ……じゃあ」
 ほんの少し上ずった声の後に、ニアの体がボッシュにしなだれかかった。
「少しだけ、ほんの少しだけ、このままで……」
 哀願のような弱々しい声に、ボッシュは答えない。
「……お母さん、どうしたの? もふもふしてもらう?」
 心配そうなニウの頭に、ボッシュの手が置かれた。優しく、力強く小さな頭を撫でる。
 荷車の上の三人の影を見送りながら、リュウはボッシュが遠くへ行ってしまった事をひしひしと感じていた。丘を越えていくのが地平線を越えていくかのように見える。
 追い付けないほど先に行かれてしまった、置いてきぼりになった寂寥感がリュウを包み込む。
 荷車の影が見えなくなってからも、リュウはそこに立ち尽くしていた。
 リュウの胸に、たった一つの疑問がわだかまっている。
 ボッシュは、ニアさんといたしてしまったのだろーか。
「うわー」
 きちんと地面に接地されていなかった足元の煉瓦が滑って、リュウが派手に転んだ。



 リュウはとぼとぼとテントへ向かって歩いていた。夕食も食べ、奇跡的に無事だった風呂も入ってきたのだが、気持ちがさっぱりしない。
 思い切りぶつけた後頭部の痛みが主な原因ではない。
「はあ~……」
 情けないため息が盛大に漏れる。
 ……ニーナに嫌われてしまった……。
 みんなでスープを貰うために並んでいたのだが、配膳係のニーナはリュウの番になった瞬間、理由を付けて場所を離れてしまった。
 話しかけようとしたまま口をぱくぱくさせたリュウが列を離れるとすぐ戻ってきたので、あからさまに避けたのだろう。
 ぷい、とそっぽを向いて離れていったニーナの横顔が脳裏に浮かんだ。
 人生が全て順調のようなボッシュが羨ましい。そして、そんな自分がとても情けない。
 ニーナが怒っているのは、単に自分がはっきりしない弱気な性格だからだ。リンプーにちゅうを迫られたときも、頑として断れば良かったのだ。
 ……その後のディースの妨害を考えると、あれで正解だったような気すらしてくるが。
「とりあえず、明日謝ろう」
 自分を叱咤するように声に出して言う。言い訳にならないように気を付けなければならない。
 テントの入り口をめくって膝をついて入ると、明らかな異常がある事に気がついた。真ん中に敷いてある毛皮の上の毛布が、身体を丸めた人型に盛り上がっている。
 リュウは襲ってきた頭痛を和らげるために、こめかみを揉んだ。
「……来ないにゃ」
 毛布の中から小さな声が漏れた。毛布の端から虎縞のしっぽが出てぱたぱた揺れている。
 頭痛を消し飛ばすように、リュウは声を張り上げた。
「こら! リンプー!」
 同時に毛布を引っぺがす。
「ちゃんと自分の所で寝なさ……!」
 ひるがえった毛布で閉ざされた視界が元に戻ると、リュウの眼がまるく見開かれた。ごくり、と生唾を飲む音が狭いテントに響く。
「……いにゃーん」
 裸で、胸を押さえたリンプーが上目遣いにこちらを見ていた。胸を押さえている手は指の先だけで乳房の先端を隠し、下から押し上げて谷間を強調している。下からリュウを見上げる表情は小悪魔のそれだ。
 リュウは誘惑を振り切るように眼を閉じると、毛布をリンプーに掛けた。
「にゃ?」
 不思議そうにリンプーが声を発する。
「もういいにゃ?」
「えーと、あー、うん」
 しどろもどろにリュウが答える。眼はリンプーの方を向いているが視点が定まっていない。
「元気出たにゃ?」
「ええ……まあ」
 青少年としては元気が出ざるを得ない。
「ディースが、こうするとリュウちゃん元気が出るって言ってたにゃ。ごはんの時もおふろの時も元気がなかったから、やってみたにゃ」
 リンプーが純粋に自分を心配してくれていた事を知って、リュウの胸の中に温かいものが広がった。同時に、風呂場を覗かれていた事を知ってげんなりする。
「……ありがとうな」
 リュウの少し陰った微笑みに、リンプーは恥ずかしそうにはにかんだ。
 毛布から指の先と顔だけを出して、ぢー、とリンプーがリュウを見つめる。
「それでね、一つのおふとんでね、ふたりでいっしょに寝るんだって」
 ぢー、と容赦なく期待でいっぱいの視線を向けてくるリンプーに、リュウはたじろいだ。
 脳裏にさっきのリンプーの姿が浮かぶ。指の先で胸の先端をぎりぎり隠していたのだが、実は少し見えていなかっただろうか?
 リュウは拡大処理し始めた脳裏の映像を振り払うように、ぶんぶんと首を振った。
「……だーめ」
 ちょっと疲れた声でリュウは答えた。
「えー! にゃんでー!」
 ぷう、と頬をふくらませてリンプーが抗議の視線を送ってくる。
 子供っぽい仕草に、リュウは思わず微笑んだ。すっと伸ばされた手を、リンプーが見上げる。
 優しく頭を撫でられて、リンプーは嬉しそうな恥ずかしそうな表情で眼をつぶる。
「かわりに、リンプーが寝るまで一緒にいるよ」
 脳裏に、幼い頃消えてしまった父と妹の面影が浮かんだ。自分は今、父のようにリンプーの頭を撫でているのだろうか? もし再会できたなら、妹はリンプーと同じくらいの背格好だろうか?
 物思いにふけるリュウを、リンプーの眼が暗がりの中のわずかな光を反射して、じっと見つめている。
「……おっと、リンプー、どうした?」
 視線に気づき、慌ててリンプーの頭を撫でるのを止める。
「むにゃあ……」
 リンプーの頬が羞恥に染まり、それを隠すように毛布を引き上げる。
「……お歌……」
 じっとリンプーの言葉を待っていたリュウに、いつものリンプーからは想像できないか細い声が届いた。
「おかーさんとかが、ねんねする子供に歌う、お歌。歌って欲しいにゃ……」
 毛布の下から、ぼそぼそと恥ずかしそうな声が漏れる。哀願の籠もった声に、リュウは微笑んだつもりだったがうまくいかなかった。
「……いいよ」
 ぱあっ、とリンプーの表情が明るくなる。
「……ただ、俺も歌詞とか、メロディとか、全然知らないんだ。ごめんな」
 悲しそうな表情を隠しきれなかったリュウに、リンプーは元気よく微笑みかける。
「歌詞が分からなくても、いいんだにゃ! 鼻歌でもいいにゃ! リュウちゃんが歌ってくれたら、リンプーはそれで、いいんだにゃ」
 リュウは悲しさと嬉しさがない交ぜになった感情を誤魔化すかのように、リンプーの頭を少し強く撫でた。リンプーは嬉しそうに眼を閉じて微笑む。
「じゃあほら、リンプー、ちゃんと眼を閉じないと」
「はいにゃ」
 リンプーの脇に横になり、少し喉の調子を整えるように咳をした後、歌詞もメロディもうろ覚えな子守歌が始まった。毛布に包まれたリンプーの腹部を、ぽん、ぽん、と調子を取るように優しく叩いてやる。ほとんど鼻歌だったが、リンプーは満足そうにくすくすと笑っていた。
「……リュウちゃん、少し音痴だにゃ」
 リンプーがいたずらっぽくリュウを見上げて言う。
 リュウは黙って、リンプーの頭を強く撫でた。髪がぐしゃぐしゃになったが、リンプーはとても嬉しそうに、楽しそうに、もっとせがむように頭を押しつけてきた。
 歌詞のない子守歌はかすれ、途切れそうになったが、リンプーがそれに気づく事はなかった。
 すやすやと眠るリンプーの寝顔は、とても満足そうで、幸せなものだった。



 リンプーを起こさないようにそっとテントを抜け出したリュウは、共同体のどこかへ宿を求める気にもならず、すぐそばの開けた場所に向かった。
 地面が少しごつごつとしていて、苔と下草だけが生えている。傾斜がついて小さな崖がリュウのテントへ向いているので、下が大きな岩石か何かなのだろう。
 寝転がると、星がきれいだった。月も明るい。苔と下草が思いの外いいクッションになった。
 消えてしまった自分の家族の事や、今までの冒険の事などが自然と脳裏に浮かんでは消えていく。
 流れ星が輝きながら長い尾をひいて、ゆっくりと消える。
 小さな子供のように、リュウは流れ星に願掛けをする気分になった。
 リンプーの幼児のように無防備な寝顔が脳裏に浮かぶ。世界の平和を願う前に、共同体の平和を願ってもいいだろう。
 つ、と尾を引いた流れ星に心の中で願う。
『ディ』
 こちらの無理な願いを察したかのように、すぐさま輝きは消えた。



 暗い林の中を、そろそろとニーナは進んでいた。漏れないように絞られたカンテラの光が足元を照らしているが、足元はおぼつかない。人間よりも夜目が利かないので慎重に進まざるをえない。
「……はあ」
 緊張をほぐすように足を止めると、自然とため息が漏れてしまう。
 リュウちゃんに意地悪しすぎちゃった……。
 みんなの前で謝るのも恥ずかしく、二人きりになる機会もなく、謝りに行こうと悩んでいる内にとっぷりと日が暮れて深夜になってしまった。
 ……誤解、されちゃうかな……?
 困惑に口元が引き結ばれ、眉根がほんの少し寄った。羞恥にほんのりと頬が染まっているのが自分でも分かる。
 客観的に今の状況を見ると、逢い引き以外の何でもない。
 リュウのテントに辿り着いた後の展開を想像して、かあっと身体が芯から熱くなった。
 だ、だいじょうぶ! いつものパジャマだし……。けど、ちょっと子供っぽいかな……。下着はちょっと大人っぽい感じのだけど……。
 深夜の林の中で、ニーナはもじもじとパジャマの身だしなみを整える。揺れたカンテラの光に、小さくリュウのテントが照らされた。慌ててカンテラの光を足元に戻して再び歩き出す。
 あ、あたしったら……。ディースさんのせいね! もう!
 一人で沈んだり照れたり怒ったりしているうちに、リュウのテントに到着する。布が垂れた入り口からは中が覗けない。
 こくり、とニーナの喉が鳴った。
 困惑と羞恥と期待、少しの怯えをない交ぜにして、ニーナはしゃがみ込むと出入り口から声を掛けた。
「……リュウちゃん? ……リュウちゃん?」
 声を大きくするのもはばかられて、ニーナはカンテラの窓を閉じると四つんばいになってテントに頭を入れた。一気に辺りを照らすものがなくなって、何も見えなくなる。
「……リュウちゃん?」
 すやすやと眠っている吐息だけがテントの中に響いていた。やきもきしていたのが自分だけだと分かると、少し恨めしい。
 テントの中はリュウの匂いがした。青年になりつつある少年の、男の匂いだ。
 ニーナの鼓動が早くなった。相手がこの音で起きてしまわないか心配になる。リュウから貰った汗まみれのシャツでぬいぐるみを作り、寂しい時はそのぬいぐるみを抱きしめて寝ている。
 ぬいぐるみを抱きしめるだけでは、寂しさが埋まらないときもある。
 出入り口に引っかかっていた翼を一旦小さく畳んで、ニーナは全身をテントの中に入れた。寝息の音で場所にあたりをつけてにじり寄る。
 ニーナの頬がほんのり染まり、舌がゆっくりと唇を湿らせた。
「リュウちゃん……」
 呼びかける声も、ほんのり湿っていた。
「ねえ、リュウちゃん、寝てるの?」
 言葉とは裏腹に、声が大きくなっていた。
 リュウに起きて欲しかった。起きて、自分の気持ちを伝えて、全て受け止めて欲しかった。リュウに応えて欲しかった。
 ニーナは口づけをするかのように、ゆっくりと寝息のする場所に顔を近づけた。
 寝息は幼児のように健やかで、ニーナは自分の視力を嘆いた。きっと、何も知らない子供のように無防備な寝顔だろう。
 リュウに目覚めて欲しいような、ずっとこのままでいたいような複雑な感情で、ニーナはリュウの寝顔のある場所を見つめ続けた。
 ゆっくりと感情が高まり、小さく唾を飲んで、ゆっくりと濡れた唇を開く。
「リュウちゃん、あたしね……」
「んにゃー」
 ニーナの告白は大きな寝言で遮られた。同時に腕が捕まれて、ニーナは眠っている身体の上に倒れ込む。ぎゅっ、と思いがけない強い力で抱きしめられ、胸に顔を埋められた。ニーナの身体を歓喜が駆けめぐり、かけた。
 何か違う。
 自分の胸に顔を埋めている相手の胸は小さいながらも柔らかく張り出しており、それが腹部に当たっているのだ。
 一陣の強い風が吹き、出入り口の布がまくれ上がった。月明かりが射し込む。
 夜目の利かないニーナにも、間近にある顔が判別できた。
「なにこれ」



「……?」
 一陣の風が通り過ぎて、リュウは寒さに少し目を覚ましていた。流れ星を待っているうちに眠ってしまったようだ。ちなみに流れ星は流れてくれなかった。
 その耳に、小さな喧噪が届く。
 すぐに眼が冴え渡り、リュウはゆっくりと音を立てないように起き上がった。
 中腰になって音の出所を探すと、共同体の方ではなく、すぐ側ら、自分のテントのある場所からだった。
「……あれ?」
 聞き覚えのあるニーナの小さな、それでいて必死な声に、リュウは眉をひそめた。少し警戒したまま、足音を立てずにゆっくりとテントに向かう。
 テントを見たリュウの目が見開かれ、思わず小さな声が口から漏れる。
「なにこれ」



 テントの出入り口から、柔らかそうなまるい塊が二つ突き出していた。
「だ、だめリンプーちゃん、やめて、放してっ」
 ニーナの声に合わせて塊が揺れ、表面の布地が裏から押し上げられ、張りを生み出している。
 前後左右に揺れる塊の様子が妙に艶めかしく、リュウはごくりと生唾を飲んだ。
 塊の下に正座するように畳まれた足があり、ニーナのお尻だと気づいてからもう一度生唾を飲み込む。
 ニーナが気にしている大きめなお尻が、みずみずしく揺れる。お尻というパーツ単品で見るとやたら艶めかしい。
 リュウはニーナの小さな悲鳴を少し後回しにして、そろりと横に回った。少しだけ罪悪感を感じたが、目の前のお尻の魅力にすぐ消える。
 パジャマのズボンが下がり、上着が上がっているので腰の部分がよく見えた。腰骨の上から下へとショーツの紐が急角度を描いている。ニーナの浮かび上がる白い皮膚にわずかに食い込んで、皮膚が吸い付くような柔らかさを主張している。
 色が明るいので白らしい。リュウはふむ、と納得したように頷いた。特に意味らしい意味はない。
「あっ、きゃあっ」
 ぶちぶちぶちぶちっ、と恐らくボタンが弾け飛んだであろう音が響いた。リュウの中に罪悪感とチャンスを逃さない打算が芽生える。
「……どうしたの、ニーナ」
 少し悩んで、とりあえずお尻に声を掛けた。
「あっ!? リュウちゃん?」
 お尻はびっくりして硬直した後、嬉しそうに左右に揺れた。単にニーナが驚いて硬直した後、方向転換を試みて断念したのかも知れない。
「えっとね……違うのよ!」
 びっ! とお尻が突き出されてリュウは少し納得した。あまりにも情報量が少ないのだが、ニーナが計算違いなちょっとした窮地に立っている事は納得した。
「……えーと」
 リュウは再び少し考え込む振りをした。もうしばらくニーナの魅力的なお尻を鑑賞していても構わないのではないかと思う。近くに置かれたカンテラの通気口から漏れる光で、陰影が濃く彫られたお尻は昼よりも誘うような色気を放っている。
「……どうしたの?」
 お尻が心配そうにじっとこちらを見つめて言った、ようにリュウには思えた。慌てて首を振って雑念を追い払うと、口を開く。
「あーいや、とりあえずテントに入ってくれない? リンプーどうにかするにしても、俺が入れないと話にならないし」
「あ、そうね」
 ほっとしたようにお尻がもぞもぞとテントの中に入っていく。リュウはがっかりした。
「リュウちゃん、右側が空いてるから」
「あ、うん」
 ニーナのテントからの声に、なんだかやる気のないままテントに入る。
 出入り口から漏れて入る月明かりに、すかぴゅー、と寝息を立てて眠るリンプーがまず見えた。ニーナの両手を掴んで放さないようだ。
「えっと、その、リンプーちゃんが放してくれなくて……」
 ニーナの困惑した声がする前に、リュウはニーナを見ていた。パジャマの上着のボタンが上から腰の辺りまで弾け飛んで、大きく開いている。乳房を下から持ち上げるタイプのブラが、大胆なカットで乳房の上の谷間を強調している。縁には小さなフリルがあしらわれている。
「えー、あー、そうね」
 生返事をしながらリュウはニーナの乳房を食い入るように見つめた。
 すごい。ちょっと身体を動かすだけで揺れてる。
 打算は当たっていたようだ。リュウはニーナの夜目が利かなくて良かったと思った。
「……どうしたらいいかな?」
 困り果てたニーナの声に、リュウは視線を豊かな乳房から引きはがした。ニーナは眉根を寄せて涙目でこちらを見つめてくる。
 ふくよかな乳房と加虐心をそそられる表情に、ずっとこのままで構わないような気がしたが、少しの罪悪感に押されて行動を開始する。
「おーい、リンプー、起きろー」
 立ち上がるスペースはないので、三人で川の字に寝転がりつつ、リュウはリンプーの耳元に大声で言った。
 リンプーの耳が煩わしそうにぴくぴくと動き、何故かニーナは顔を真っ赤にして慌てている。何か言おうとしているのだが言葉が見つからないようだ。
 リュウが不審に思っていると、寝返りを打つような感じでリンプーの左手が飛んできた。
「わっ?」
 慌ててその手首を受け止める。単に振っただけの手だが思いの外威力がある。ほっとした瞬間、リュウは手首を掴まれていた。
 引きはがそうと力を入れた瞬間、二倍の力で引き寄せられる。
 リュウとニーナは、リンプーに引き寄せられたような状態で、お互いの顔を突き合わせていた。お互いの吐息が感じられる近さに、二人の鼓動が早くなる。
「ご、ごめん。俺も掴まれちゃった……」
 再びリンプーの手を引きはがそうとするが、そうすると力が入って引きはがせない。別にずっと力が込められているわけではないので、掴まれている事が苦ではない。ゆっくり動かす分にはなんの支障もなく、引きはがそうとした時だけ力が入るのだ。
「ご、ごめんねリュウちゃん、こんな事になっちゃって」
 申し訳なさそうにニーナが言う。いつもはうつむいて言うだろうが、今はこっちが見えていないせいかまっすぐにこっちを向いている。
「い、いや、そんな事ないよ」
 リュウはどきまぎしながら心の底から本音を言った。ニーナが空いた左手で襟を押さえているのだが、そのせいでパジャマから乳房が押し出されて非常に大胆な事になっているのだ。
 ニーナはそもそもリュウのテントに来た理由が言えず、リュウはニーナの放つ艶めかしさに圧倒されて口が開けず、ただ時間だけが過ぎた。
「にゃにゃむにゃー……」
 何事かを訴えるかのようなリンプーの寝言らしきものに、二人は小さく笑った。みるみる二人の緊張がほぐれていく。
「……ほんとに力ばっかり強いだけで、子供みたい……」
 掴まれたままの手をゆっくりと動かして、ニーナがリンプーの頭を撫でる。リンプーは撫でられるのをせがむように、ニーナの手のひらに頭を押しつける。
 リンプーの要求に応えて頭を撫で続ける感触に、ニーナは優しく微笑む。
 リュウの表情に、かすかな影と隠しきれない憧憬が浮かんだ。
「お母さんみたいだ」
 自分の心を落ち着かせるために紡ぎ出された言葉は、かえって自分の胸を掴むような、ひどく切ないものだった。
「え?」
 ニーナが視線をリンプーからリュウに転じた。視線から逃げるように、顔を背けたリュウの視界の端に、きらりと光るものが映った。
 自然とリュウが再びニーナの方を向く。
 呆然とした表情で一粒の涙をこぼすニーナが、漏れる月明かりに照らし出されていた。
「えっ? あっ、ごめん!」
 何が何だか分からないまま、慌てて謝るリュウ。
「えっと、その、『お母さんみたいだ』っていうのは、優しくて包容力のある女性って意味で、悪い意味で言ったんじゃなくて……」
 リュウのしどろもどろの弁明が続くうちに、ニーナの顔に表情が戻り、くすりと微笑んだ。リンプーの頭を撫でてやりながら、涙も拭かずに口を開く。リンプーに向けられた視線は悲しく、微笑みは自虐的なものに転じていた。
「……リュウちゃんにこんな事言うのも変だけど、あたし、乳母に預けられっぱなしで……。周りからも良く思われていなかったし……本当の意味で『お母さん』っていうのがどんなものか、よく分からないの。だから」
「俺が保証するよ」
 ニーナの辛く吐き出すような言葉を、リュウの力強い言葉が遮った。
「え?」
 いまだ意味を捉えかねた驚きの視線が、リュウに向けられた。
「ニーナは優しくて包容力のあるいいお母さんになれるって、俺が保証するよ」
 リュウはニーナを見つめ、その悲しみを断ち切るように力強く言い放った。
 言葉の意味を捉え、ニーナの表情が喜色に染まった。そしてゆっくりと頬が赤くなる。
「じゃ、じゃあ」
 自分の喜びを誤魔化すように、ニーナが口を開いた。
「あたしは、リュウちゃんが優しくて包容力のあるいいお父さんになれるって、保証する!」
 顔を真っ赤にして、ニーナは宣言した。リュウの顔もニーナと同じように赤く染まる。視線を絡ませあう二人の脳裏に、二人で一人の子供の手をつないでいる像が浮かんでいた。右手と左手をそれぞれニーナとリュウにつないでもらって真ん中で嬉しそうにしているのは、なぜか幼児のリンプーだった。
「むにゃ!」
 お互いの告白の意味深さに視線を交わしたまま動けないでいると、リンプーが不満そうな声を上げた。頭を撫でられるのが止まっていたのが嫌だったようだ。
 リンプーは勢いよくニーナの方に頭を寄せた。頭を撫でていた手が外れて、ぼす、とニーナの胸の谷間に顔を突っ込む。
「ひあぁっ!?」
 胸の谷間を押し分けるように顔を突っ込んでくるリンプーに、ニーナは思わず声を上げた。ふんふんと荒い鼻息が胸の谷間から漏れる。
「こ、こらっ」
 リュウが慌ててリンプーの身体をニーナから引きはがした。ごろりと自分の方を向いたリンプーの鼻が、むずむずと動いている。
 嫌な予感を覚えてリュウは眼を閉じた。そして諦念した。
「ぶにゃっ!」
 ブラの小さなフリルに鼻を刺激されたリンプーのくしゃみが、リュウの顔を直撃した。細かい霧が勢いよく叩き付けられる音がテントの中に響く。
「……優しいだけじゃ駄目よね。たまには厳しくしないと」
 再びご満悦の表情で眠っているリンプーの頬を、ニーナがむにー、と引っ張る。
「……そうだね」
 袖で顔を拭うと、リュウもリンプーの頬を引っ張った。
 両方から頬を引っ張られながら、リンプーは幸せそうな表情で眠り続けた。



「……ふにゃぁ……?」
 リンプーがテントの中で眼を覚ますと、なんだか寂しかった。いつものように一人で眼を覚ましたのに、いつもよりなんだか寂しい。
 眠ったときにいたリュウちゃんがいないからかも知れない、とリンプーは思った。
 それとも夢のせいかも知れない。
 いつものはお魚やお肉の夢、それにリュウちゃんやニーナ、ディースの夢なのに昨日の夢は違ったのだ。
 自分がまだ小さくて、お母さんがまずやってきて、次にお父さんがやってきて、そして両手をつないでくれるのだ。自分を中心にして、かすかにすら覚えていない両親が一緒に居てくれるのがすごく嬉しかった。
 ふんわかしたとてもいい夢だったのだが、最後は何故かほっぺを両方からむにー、と引っ張られたので、リンプーはそこだけが不満だった。
 両手を伸ばして床に着け、お尻を突き出すように伸びをすると、リンプーは幸せな夢の事を誰かに話そうとテントを飛び出した。
 裸だったので慌てて引き返す。なんで裸だったのかはよく覚えていない。ディースに言われてた事をやったような気がする。
 服を着てテントを飛び出すと、すぐに井戸端のリュウとニーナが目に入った。
 ニーナはパジャマの上にリュウの上着を着ていたのだが、リンプーはあんまり気にしなかった。リュウが顔を念入りに洗いながら少し怒った顔をしていたが、リンプーはあんまり気にしない。
 二人とも眠そうな顔をしていたが、やっぱり気にしない。
 リンプーは自分がいかにいい夢を見て満足したかを二人に話した。
 ちょっとびっくりした表情のあと、二人がとても嬉しそうに、楽しそうに話を聞いてくれてリンプーはとても幸せな気分になった。
 ほっぺたをむにー、とされた部分で二人が見つめ合って笑ったのが、リンプーには不思議だった。
 微笑み合う二人を見て、リンプーはお父さんとお母さんってこんな感じなのかな、と思った。



 暗い洞窟の中で艶めかしさを隠しきれない声が響く。
「ふぅう~ん?」
 いい具合に酔ってる。



 風呂上がりのリュウは清々しい気分でテントに向かっていた。こんなに気分がいいのは久しぶりだ。
 今日一日は柱を立てるきつい肉体労働があったのだが、その疲れさえも心地いい。
 ニーナは笑顔で細かく気を配ってくれたし、リンプーは自分から進んでお手伝いしてくれた。休憩時間には三人で話が弾み、揃って笑った。
 悩みがないという事はとてもいい。
 今までの悩みが微妙にいびつな女性関係だった事に考えが及ばないでもなかったが、自分で気分を悪くするのも嫌だったので考えないでおく。
 髪が乾くまでテントの外で軽く屈伸運動をして、毛布に潜り込んだ。リンプーのものかニーナのものか、少し甘いような匂いがついていてどきりとする。
 疲れているとなぜそうなりやすいのかは知らないが、体の一部が元気になってきたのでちり紙とごみ箱の場所を確認する。両方とも枕元にあったが、少し遠いのでそれぞれ引き寄せた。
 自分のものではない体臭が少し染みついた毛布に包まれ、昨日のニーナのテントから突き出たお尻や、パジャマから押し出された乳房を脳裏に浮かべる。
 しかし性欲よりも睡眠欲が勝り、リュウは眠りの世界へと滑り落ちていった。



「……ちゃん」
 夢うつつの中、誰かに呼ばれたような気がしてリュウは身じろぎした。しかし、身体がうまく動かない事に気がついて休息に眠気が飛んでいく。
「……リュウちゃん……リューウちゃあん」
 聞き覚えのある湿ったように粘る甘い言葉に、リュウの意識は休息に覚醒した。
「うわー」
 眼前にあるディースの顔を見て、思わず声を上げる。動かない身体を確認したら、ディースの下半身の蛇体と両手が絡み付いていた。
「なあによう」
 ぷう、と酔眼でリュウを見つめてディースは頬を小さく膨らませた。吐息の匂いが妙に甘ったるい。
 リュウを睨むように見つめたまま、ディースは小さな瓶を口元に運んだ。果実酒の甘い匂いがする。吐息と同じ匂いだ。
 いつからずっと飲んでるんだ?
 リュウの背中を戦慄が駆け抜けた。
「ニーナとリンプー、二人とちゅうしたでしょー」
 いたずらっぽく笑うと、人差し指でリュウの頬をぐりぐりと押す。爪が尖っていて結構痛い。
「うわー」
 ディースの戒めから逃れようとしたが、下半身ががっちり蛇体に巻き付かれていて上半身をばたばた動かす事しかできない。
 後ろからディースの顔が近づいてきたかと思うと、牙の部分で耳を噛まれた。甘噛みよりも少し強い、責め方を知った噛み付き方だ。段々力を入れられる。痛みに耐えていたら力が抜かれて甘噛みされ、突き出した舌の先で嘗められる。
「……ちゅうしました」
 リュウは折れ、事実を認めた。ディースの言う事をちゃんと聞かないと色々と奪われてしまいそうだ。
 ディースの顔が再び眼前に迫った。こっちの身体は動かず、ディースがリュウの身体を締め付けたまま蛇体をくねらせているのだ。酒のせいだけではない紅潮した頬で、興奮気味に言う。
「そんでもって、えっちしたでしょ? しかも三人で!」
「いやしてません」
 即座にリュウは否定した。事実だ。
「えー。うそー」
 あからさまにディースはがっかりしている。
「するでしょ普通あれは。なんでしないの?」
「……いやちょっと待って。なんで洞窟に籠もりきりだったディースが外の事知ってるんだ!?」
 ひとまず今日一日がとても良い日だったのはディースが居なかったからだと気づき、リュウの口調が責めるようなものになった。
「えー。どうでもいいしー。えっちしよっか」
 さらりととんでもない事を言ってのけ、ディースの手がリュウのズボンの紐に伸ばされる。とても楽しそうだ。
「うわー」
 成り行きに驚きリュウは逃げだそうと身体をもがかせるが、動くのは上半身だけだ。するりと紐の結び目がほどかれる。
「いや! どうでもよくないから! すごく大切だから!」
 最後の抵抗のようにディースに向かって叫ぶ。視線をリュウの下半身に注いでいたディースが、きょとんとしたような顔を上げた。
「え? 何が?」
「……いや、なんで俺がニーナとリンプーの二人にちゅうしたのとか、その、三人で俺のテントに居たのか知ってるのかって事……」
 相手がいい具合に酔っているのと、必死に逃げ出そうとした反動で、リュウはがっくりと脱力した。
「ああ、聞こえたっていうか見えたっていうか」
「え?」
 面白そうにディースがくつくつと笑うのを、リュウはきょとんと見つめる。
「リュウちゃんのテントの近くまで裂け目が続いているみたいでさ、光は入らないんだけど音が聞こえてくるのよ。でね、なんか声が聞こえて来たりして面白そうだから水晶玉で見てみたら、これがまた、ねえ?」
 愉快そうに喉で笑い声を上げるディースを、リュウは愕然と見つめた。夜空を見上げた岩盤の下の小さな崖が思い浮かぶ。自分の運のなさは呪うしかない。
「……えーと? あ、そっか。優しくしてあげるからー」
「うわー」
 ズボンの中にたおやかな指が進入してきて、リュウはやっぱり暴れた。
「もうっ! 何が不満なのよう。えっちしようよ」
 むにゅう、とディースが非常にボリュームのある胸を顔に押しつけてきた。布地越しに先端が硬くなっているのが分かる。
 リュウは脳裏に、ニーナの、リンプーの姿を思い浮かべた。二人の嬉しそうな微笑みが鮮明に浮かぶ。他に魅力的な胸や腰やお尻が出てきてしまったので、そっちはどうにか隅に追いやる。
「んんうん」
「やあん、くすぐったあい」
 リュウの頑とした言葉は、ディースの胸の柔らかい弾力に阻まれて消えた。嬉しそうにディースが身体をくねらせた隙をついて、少しばかり戒めから解かれる事に成功する。
「しません」
 顔を羞恥で耳まで真っ赤にしながら、リュウは眼前のディースに言い放った。
「えー。なんでー……?」
 酔いのせいで感情が非常にストレートに出るのか、ディースはがっかりした表情を浮かべた。
「こんなになってるのにー?」
 ディースの細い指が、ズボンの布地越しにリュウの元気になった部分をまさぐる。
「うわー」
 リュウは慌てて叫んだ。酔っぱらいの行動は先が読めない。
「ストップストップ! 今話するから!」
 動きは止まったが添わされたままの指に発言を撤回したくなりつつ、リュウはじっとディースを見つめた。
 ディースも嬉しそうにふわりと笑ってリュウを見つめた。いつもよりとげとげしさがない柔和な微笑みで、目元が潤み、頬に朱が射していて色っぽい。
 どきりとしてしまった自分を制するために、再びリュウは脳裏にニーナの優しい微笑みを、リンプーの元気な笑いを、ディースが見られる事を嫌う子供を見守るような笑みを思い浮かべた。やっぱり一緒に胸や腰やお尻が出て来てしまったので、再度脳裏の片隅に追いやる。
「……どうしてえっちしたいの?」
 子供を諭すように、リュウはゆっくりと、優しく言った。
「えー。だって、気持ちいいから。あたしも気持ちいいし、リュウちゃんも気持ちいいし。どっちか片方だけ気持ちよくなる場合も多いけど、悪い事なんてないじゃない」
 柔らかに微笑んでディースが言う。
「じゃあ、しません」
 リュウは言い聞かせるように、強く言った。
「気持ちよくなりたいだけなら、しません」
 じっとディースの色気のある酔眼を覗き込むようにして、はっきりと言う。
 ディースの眼が驚いて見開かれ、再びこちらを見つめたときには酔いが少し抜けていた。ちょっと意地悪そうな眼でリュウを見つめる。
「……ふうん……」
 リュウはディースから視線を外さない。
「……ここはもうこんなにしちゃってるのに……なっまいきー」
 くすくすと笑うと、ディースの指が少し動かされた。リュウはびくっと身体を硬直させながら、奥歯を噛みしめて耐える。
 ぎゅ、とリュウはディースに抱きしめられた。強く、優しい抱擁にリュウは顔を上げる。悲しいような、嬉しいような微笑みがそこにはあった。
 抱きしめた手で頭を撫でられて、リュウは驚く。
「正直、この世がどうなろうと知った事じゃないんだけどね……」
 壊れ物を扱うかのように、ゆっくりと、優しくリュウの頭を撫でながらディースが言う。
「リュウちゃんみたいな子が居るから、どうにかしてあげようかな、って思うわ……」
 頭を撫でられる心地よさにリュウは驚いていた。だらしなくて意地悪なディースだが、それはほんの一面なのかも知れない。いつもの様子からは想像できないような、優しい微笑みをディースは浮かべていた。ただその眼から悲しみが消えない。
「ね、リュウちゃん」
 ディースはリュウの頭を自分の胸に埋めるようにして抱きしめた。リュウの視界は塞がれ、声だけが届く。
「……わがままかも知れないけど、ずっと、このままで居てね……リュウちゃん……」
 最後、自分を呼ぶ声が泣くように上擦っていたのは気のせいだったのかリュウは確認したかったが、抱擁を解くのもはばかられて、じっと抱かれていた。
 しばらくして、すうすうと眠る吐息が聞こえてきた。リュウはただ、抱かれたまま眼を閉じた。心地よい抱擁の中、リュウはこの何千年間、ディースが何を見てきたのか、何を感じてきたのか考えた。
 どこまでも優しい微笑みの中、眼の底だけがどこまでも悲しい。
 リュウは眠りにつけなかった。
 ディースの寝相が悪くて、巻き付いたリュウの身体ごと寝返りを打つし、酒瓶はひっくり返してちり紙で拭く羽目になるし、蛇体が絡み付き直す度に下半身の一部がこすって刺激されるのだ。
 リュウは眠たくてどうしようもないのにどうしても眠りにつけなかった。



「リュウちゃんもねぼすけだにゃ」
 ふふん、と自慢げにリンプーが言った。
「そうね、珍しいわね。昨日疲れたのかな?」
 リンプーの様子を見て、ニーナがくすりと微笑む。リンプーが朝食の時間に間に合った事はほとんどない。
 二人は連れだって、朝食に現れなかったリュウを起こすために林の中を進んでいた。
「あれぐらいで疲れるなんてだらしがないにゃ」
「リンプーちゃんは偉いわね」
 木漏れ日に彩られた林の中を、二人は楽しげに会話を弾ませながら進む。
 テントが近づいてきたとき、聞き慣れた声が聞こえた。
「……や、やだっ……! あたしったら……!」
 ニーナはびくっと硬直した。聞き慣れた聞きたくない声だ。だが、いつもと何かがおかしい。
 ばさりと勢いよくテントの入り口の布を跳ね上げて、ディースが走り出してきた。走るといっても下半身が蛇体なのでいつもより速いというだけだ。
「あれ? ディースだにゃ?」
 リンプーが唇に人差し指を当てて、不思議そうに言った。
 不思議なのはニーナも同じだった。たまたま起きて朝からリュウをからかいに行っていたのかも知れないが、からかうにはギャラリーが居た方が効果的だし、何よりも様子がおかしい。
 明らかに慌てた様子で髪を手櫛で整え、布地の少ない着衣の乱れを直している。
 そして頬には、明らかに羞恥のものだと分かる朱が射していた。恥ずかしげに目を伏せているのでこちらに気づいていないようだ。
 いつも高飛車で傲慢で意地悪なディースが羞恥に頬を染めているというのは、一体どのような事態なのか?
 ニーナは底知れぬ不安を覚えた。
「ディース! おはようだにゃー!」
 側らのリンプーが、ニーナの不安をよそに元気いっぱいの挨拶をした。高く上げた右手をぶんぶんと振る。花丸で『よくできました』と一筆したためていいほどの満点の挨拶だ。
「あっ! お、おはよう……」
 二人にようやく気づき、ディースは慌てて止まると視線を逸らしてうつむく。挨拶の語尾は小さくなって消えた。あまり二人に関わりたくない様子で、もじもじと髪を手櫛ですいている。
 あやしい。
 ニーナはディースの相手をリンプーに任せ、先ほどよりもやや速いスピードでテントに向かった。ディースがいつもと全く違う様子なのが不安をかき立てる。
 ……リュウちゃん、無事でいて!
 ニーナの両手が我知らず握りしめられる。
 いじめられて泣いていないだろうか。無理矢理飲まされて倒れていないだろうか。
「……ディース、どうしたにゃ?」
 不思議そうに、半分面白がるようにリンプーがディースの顔を覗き込んで言った。ディースの弱気な様子に興味があるのか、鼻をふんふんと鳴らしている。
「え……その……」
 ディースの顔が羞恥に赤く染まるが、少し嬉しそうだ。
 テントのそばまで辿り着いたニーナは、布が跳ね上がったままの出入り口から、テントの中を見た。数瞬の間をおいて、びきっ、と身体が硬直する。
 乙女のように両手の先を頬に当てて、ディースが言った。恥ずかしげに、誇らしげに、そして何よりも嬉しそうにその言葉は紡ぎ出された。
 リンプーは言葉の意味が分からず、不思議な表情で首を傾げた。
 答えを求めるようにニーナに視線を移す。
 ニーナの首が、油の切れた機械のようにぎりぎりと振り返った。
「ふみゃあ!」
 視線の合ったリンプーが、一瞬で涙目になって硬直した。



「……ううっ」
 リュウは強くなってきた日差しに目蓋を照らされて、ゆっくりと身体を起こした。パンツごと少しずり下がっていたズボンをまとめて引っ張り上げると、両方の紐をきちんと結ぶ。ディースに巻き付かれていたときは直す事すら出来なかったのだ。
 布が跳ね上がったままの出入り口から木漏れ日が射し込んでいた。もう昼近いようだ。
 誰も起こしに来なかったのを不審に思いながら、リュウは何気なくテントの中を見渡した。丸まったちり紙があちこちに散乱している。
 最初にごみ箱をひっくり返されたので、拭いたそのままなのだ。まだ中身が残っている酒瓶を手に持って寝るのは止めていただきたい。寝相が悪いのならば尚更だ。
 リュウは甘ったるい果実酒の匂いが充満したテントの片付けをしながら、どうして誰も起こしに来てくれなかったのか考えた。
 ……ニーナが来たのかな……。
 半分尻を出して寝ていた自分の状態を思い出して、リュウは頭を抱えた。リンプーが役目を仰せつかって声だけ掛けて帰って行った、とかだと助かるのだが。
 ニーナに自分の微妙な姿を見られた場合を想定して、リュウは煩悶した。寝相が悪いという理由は自然だとしても、ニーナがそれを見て恥ずかしくなったのには変わりがない。
「リュウちゃん、おはよう」
 テントの外から聞き覚えのある優しい声がした。リュウが慌ててテントから顔を出すと、スープを盛った器を手に、ニーナが立っていた。後ろには何故かこっちを向かないディースと、半分きょとんとした表情のリンプーが居る。
「あ、お、おはよう」
 リュウは応えながら、ニーナの表情を観察した。いつも通りのように見える。
「朝、リンプーちゃんに起こしに来て貰ったんだけど、疲れてよく眠ってたみたいだから……」
 にこにこ笑ったままニーナが言った。何かがおかしい。
 よく分からない間が流れた。
 ディースが脇のリンプーを肘でつつく。不思議そうにディースを見るリンプーを、ディースがまた肘でつつく。
「にゃ!」
 ふにゃっと半笑いをディースに浮かべた後、くるりとリュウの方を向いて言う。
「外から声を掛けたけど返事がなかったにゃ」
 再びディースの方を向くリンプー。ディースはちらりとリュウに視線を走らせた後、しぶしぶと頷いた。ディースの頬は少し朱が射しており、リンプーは何かやり遂げたように満足げだ。
 何か仕組まれてる……。
「それでね、滋養強壮にいいっていうスープを作ってみたの」
 リュウの思考を遮るように、目の前に椀が差し出された。辛そうな赤いスープで野菜や肉が入っている。甘いような少し刺激的な匂いがリュウの鼻を撫でた。見た目よりも美味しそうだ。
「あ、はい、いただきます」
 椀を受け取って、リュウはその場に座った。ニーナは相変わらずにこにこ笑ってる。
 おかしいよな……。
 ディースが再度リンプーをつついて、リンプーがはっとして言った。
「ぴりからで美味しかったにゃ」
 おかしいんだけどな……。
 リュウは椀の中を見つめたまま、心の中で首をひねった。ニーナとリンプー、リンプーとディースが組む事があっても、この三人が組むという事はあり得ないように思える。ニーナとディースの間に入って仲を取り持てるほどリンプーは器用ではない。
 ニーナはにこにこ笑って、リンプーはぢーっと、ディースはちらちらとこちらを見ている。
 いつもと違うディースの様子から、リュウの脳裏に一つの仮説が浮かび上がった。
 ニーナはリュウの寝姿を見ているので、恥ずかしいのとばつが悪くてそれを隠すためににこにこ笑っている。
 リンプーはニーナがリュウの寝姿を見ていない、という偽装のために、また、ディースが作成に関与したであろう怪しいスープの味の実験台になったために喋らされている。
 ディースは昨日酔って悪い事をした、と思ってスープの材料を提供、もしくはニーナと一緒に作ったのだが、いつもの様子からそんな事は恥ずかしくて言えない。
 ふむ、と思いながらリュウは椀に射し込まれていたスプーンを手に持った。
 ニーナがずっとにこにこしていて会話らしい会話がないのは、ディースのこのスープが思いの外美味しかったので、少し焼きもちしているのかも知れない。
 とりあえず合点がいって、リュウはスープを食べ始めた。確かに舌にぴりりと辛いが、入っている野菜の甘みと相まってなかなかうまい。
 三人がリュウの反応を期待するかのように見守っているのと腹が空いていたので、がつがつと少し行儀悪く食べてしまう。
「……ふう」
 スープまで全部飲み、リュウは顔を上げた。
 三人はまだこっちを観察するように見ている。
「……えーと、ごちそうさまでした」
 ぺこりと礼をしてから立ち上がろうとすると、ニーナが椀を半ば引ったくるように取った。
「リュウちゃん、美味しかった?」
 行動に不審を抱かせないようなスピードで、ニーナが問いかけてくる。
「えっ、ああ、うん。美味しかったよ。リンプーの言う通りぴり辛で」
 頬を掻きながらリュウが答える。
 何ともいえないような間が流れて、リュウはまた不安になった。
「……えっと、リュウちゃん、このスープには何が合うと思う?」
 にこにこ笑ったまま、ニーナが慌てたように言った。
「……何が合うって……まあ、何にでも合うと思うけど」
 答えながら、リュウは何ともいえない不安が大きくなっていくのを感じた。ニーナが料理を通してディースに焼きもちしているのではないようだ。
「あっ、そ、そうだ、甘いデザートなんかこの後に来ると最高よね!」
「そうだね……」
 リュウは明らかに様子がおかしいニーナの腕にそっと触れた。崩れかけていた笑いの仮面が完璧に瓦解して、顔に羞恥の紅が差す。
「えっ!? ご、ごえん」
 慌ててリュウは手を放し、そして異常に気がついた。
「な、なんらかふひが」
 口が回らなくなり、全身が急にだるくなって眠りに落ちていくリュウを、六つの眼がじっと見つめている。
 ……リンプーは辛いものが食べられないんだった……!
 リュウは自分の不安の元を、なんだか別の所に見いだしていた。



 ふんふん、と肉食獣が匂いを嗅いでいる。リュウは何故こんな事になってしまったのか思いつかないまま、目を閉じてじっと身動きせずにいた。
 特に空腹ではないが興味はあるのか、肉食獣はリュウから離れない。
 いっそ眼を開けて肉食獣の種類を確認したいのだが、偶然眼が合って襲いかかられると不利な体勢だ。ゆっくりと体勢を変えようにも、緊張のせいか身体が動かない。
 リュウはじっと一緒に猟に出たボッシュの帰りを待った。
 ……何かがおかしい。
 ボッシュは別の所に出かけていて戻ってこない気がする。肉食獣はリュウの身体の周りをぐるぐる回たりせず、ずっと顔の匂いを嗅いでいる。
 それになんだか、下半身に刺激がある。
「……わっ……なんですか?」
「……よ。こういうものなんだから」
 聞き慣れた声が断片的に聞こえ、気持ちいい刺激が段々大きくなり、リュウはゆっくりと夢から覚めた。
「リュウちゃん起きたにゃ」
 目の前に猫の目があった。一瞬遅れて、それがリンプーの顔だと気がつく。ぼんやりとした頭のまま、リュウは口を開いていた。
「……リンプー?」
「はいにゃ」
 状況説明を求めていたのだがあっさりと気づかず、リンプーは花丸満点の笑顔でにっこりと笑う。リュウは視線を外してゆっくりと左右を見渡した。
 洞窟の中に無理矢理作ったような部屋で、ビア樽と酒瓶、股間の所でこちらの様子を窺っているニーナとディース、それに大きな姿見の鏡が目に入った。共同体に来る前にディースが住んでいた洞窟だ。
 ディースは裸のリュウのものをしっかりと握っている。
「うわー」
 一気に意識が完璧に覚醒し、リュウは暴れたがベッドが軋むだけだった。手足の先に眼をやってベッドに自分が縛り付けられている事を悟る。
「なななんだこれ」
「ディース先生のオトナの課外授業よん。みんな身体は綺麗に洗ったし、魔法で避妊してるから安心よん」
 リュウの上擦りまくった声に、ディースがウィンクして答える。その手がリュウのものをしごく動きは止まらない。そして脇でニーナがそれを見ている。
「うわー」
 もう一回全身全霊でリュウは暴れた。非情にもロープはがっちりと結ばれている。それでいて肉体に食い込む事はないので、いかに慣れた者の仕業か分かる。
「リンプー頑張って結んだからほどけにゃいよ?」
 ベッドに頭を乗せるようにしてリュウを覗き込んでいるリンプーが不思議そうに言った。
「獲物に食い込まないようにロープ結ぶのって面倒だったにゃ」
 リュウはがっくりと暴れるのを止めた。一人で灰色熊を棒に結んでかついで帰ってくるリンプーが相手ではどうしようもない。
 そうこうしているうちにも、やっぱりディースの手は動いている。
「うわー」
 リュウは涙目になって叫ぶように言った。
「やめろー」
 なんだか声が弱々しい。
 ニーナが申し訳なさそうにリュウを見たが、すぐに視線を逸らした。ようやくそこでニーナが下着姿だと気づく。
 下が透けている、肩から細い紐で下がった布を下着というのかリュウにはよく分からなかったが。
 ディースも同じような下着だった。極薄の布地が裏から押し上げられ、乳房の形をくっきりと浮かび上がらせている。ディースの大きめの乳首の形まではっきりと分かった。
「あっ」
 リンプーが嬉しそうな声を出して身を乗り出した。見慣れた感じが強いが、裸だ。小振りな乳房がリュウの眼前でぷるりと揺れた。
「ちんち立ってるにゃ!」
 にゃはは、と明るい笑い声が響く。リュウの身体から力と血の気が抜けた。
「リンプー、めっ!」
 急にしんなりとなったリュウのものを手に、ディースがリンプーを叱った。おっかなびっくり観察していたニーナはなんだか安心したような表情になった。
「ふにゃ?」
 怒られた理由が分からず、リンプーが小首を傾げる。
「あれ? もう立っちしてないにゃ?」
 リュウのものの変化にリンプーは不思議そうな声を上げる。
「……もう。男の子は繊細なんだから気をつけなきゃ駄目よ」
 眉根を曇らせつつ、ディースは先ほどよりも早いペースで作業を進める。
「ごめんにゃさい」
 ぺこり、とリンプーは頭を下げる。反省はしたが後悔はしていないようだ。
 リュウは血の気の抜けた顔で心を閉ざしているので、周りの事が頭に入っていない。
「うまく立たなくなっちゃったわねえ……」
 憂いを帯びた声でディースはため息をついた。ニーナは脇でおろおろとリュウのものとリュウの顔を見比べている。
「寝たままでよかったのに」
 ぼそりと呟かれた言葉に、リュウは心の底で投げやりに同意した。
「……もぐらさんになっちゃったにゃ」
 ぽつりと言ったリンプーの言葉に、ディースがぶはっと吹き出した。
「あはははははははは」
 よほど面白かったのか、ディースはベッドをどんどん叩いた。不思議そうなリンプーと顔を赤く染めているニーナをよそに、ディースはひーひーと苦しげな笑い声を上げた。
 リュウはこの時ほど自殺を考えた事はない。実行不可能な状況だが。
「……り、リンプーちゃん、さ、さっきの立っちしてるときは?」
 期待の籠もった口調で、目に涙を溜めたディースが尋ねた。
 リンプーは腕組みしてしばらく難しい顔をしたあと、口を開いた。
「引っ込み思案のかめさんだにゃ。ディースの手の動きで頭出したり引っ込めたり」
 ディースは口元を抑えて必死に笑いをこらえた。ふるえる腹筋に身体が丸まってしまっている。身体が時折びくびくと痙攣している。
 土気色の焦点の合っていない眼をしたリュウと、笑うのを必死に我慢しているディースをニーナはおろおろと見比べている。
「……あ、あのっ!」
 ニーナが立ち上がり、ためらいがちに声を上げた。リンプーは不思議そうにニーナの方を向いたが、ディースは笑いに身体を折り曲げたままだ。
 口をもごもごと動かして、ニーナはディースの復活を待った。
「……はー」
 満足げな表情のディースが顔を上げた。よっぽど面白かったのか汗が全身を湿らせている。
「……え? 何?」
 ちょっときょろきょろ辺りを見渡した後に、リンプーの視線を追ってニーナを見つめる。
「こ、こんなのってやっぱりいけないんじゃないでしょうか!」
 ニーナが毅然と言い放った。今までしゃがんでいたので分からなかったが、下着が思いの外短い。ぎりぎり股間を隠す長さだ。透けて見えているが。
 リュウはニーナのセリフと下着姿に、少し世界に向けて心を開いた。
「は、話に乗った、わ、わたしも悪いんですけど、い、いくらリュウちゃんがディースさんと、その、えっちしたからって」
「してない!」
 リュウの心の底から言葉が噴出した。その勢いに三人とものけ反る。
「えっ!?」
 ニーナが驚きの表情でリュウを見つめた。
「してない、の?」
 吐ける息を全て吐き出してしまったリュウは、ただこくこくと頷く。
 きっ、と表情を改めたニーナが、ディースを睨み付けた。
 リュウの方からは見えなかったが、よほど恐ろしい形相だったのかディースがたじろいで視線を逸らせる。
「……嘘よニーナ。あの状況でリュウちゃんがえっちしていない訳がないじゃない?」
 逸らせた視線をそのまま悲しいものに変えて、ディースがしんみりと言った。
 たじろぐニーナは、状況証拠が決定的なものにはならないという事に気がつかない。
 ニーナは混乱した様子でリュウとディースに視線を走らせる。
 リュウはぶんぶんと首を振った。脇でリンプーが眠そうにあくびをしている。
 ディースの視線はどこまでも悲しげで、寄せられた眉根は今まで男に騙された嘘でついた傷のようだった。
 悲しげな視線が狼狽するニーナを正面から捉えた。
「……ニーナ、どうしてリュウちゃんが嘘をついたか分かる?」
「えっ……?」
 ニーナがディースを見つめた。
「リュウちゃんが、ニーナの事を好きだからよ。リュウちゃんはニーナに嫌われたくなかったの」
「……あっ」
 ニーナは頬を染めて、リュウを見つめた。その視線は慈愛に満ちている。
「……リュウちゃん、大丈夫よ。わたし、リュウちゃんを嫌いになったりしないから……!」
「違うーっ!」
 じたばたとリュウは暴れるが、誰からも全く相手にされていない。ベッドに頭を乗せて眼を閉じていたリンプーが迷惑そうに片目を開いた。
「じゃあ、先生がやって見せるから、それを参考にリュウちゃんとえっちするのよ」
「……はい」
 ニーナの肩を抱き寄せて耳元で囁くディースと、うつむいた顔を上気させながらも決意に満ちた表情のニーナを見て、リュウの全身から力が抜ける。相手が悪すぎた。
 ……駄目だこれは……。
「……なあリンプー、これから何するか知ってる?」
 暇そうに眼を閉じているリンプーに、リュウは現実逃避の一環として話しかける。
「しあにゃい」
 眼も開かずにリンプーは答えた。



「というわけで、再開します!」
 高らかに胸を張って宣言するディース、もじもじとうつむいたニーナ、なんだかよく分かっていないリンプーがリュウの股間脇に集合していた。
 立ち上がるまで気がつかなかったが、ディースは下半身を人間のものに変化させていた。リュウの股間にまたがる都合だと思われたが、まな板の上の鯉のごとくベッドの上に縛り付けられているリュウにはどうでもいい。
「まず、手でしごいておっきくしてあげます」
 ベッドの脇から身を乗り出し、ディースがリュウのものをしごき上げる。嬉しそうな顔を横にして目の前で手を動かすディースの姿は、淫らで抗いがたいものがあった。
 リュウは慌てて脇を向いて眼を閉じた。頭の中で全然関係ない事を思い浮かべる。
「……なかなかうまく立たないわね」
 それでも、むすっとしたディースの声が聞こえてくる。
「ちんちって色々あるけど、リュウちゃんのでも大丈夫なの?」
 模範生徒のようなリンプーの質問に、ディースが先生のそれに声音を変えて答える。
「大丈夫よ。リュウちゃんみたいに毎日ちゃんとかめさんにして洗ってあれば」
 なんだかリュウに向けて言っているような気がしないでもない。
「えっちするから毎日あんな風に洗ってたにょか」
 ふうん、とリンプーは納得した。
 毎日そんな所まで覗かれて観察されていたのか……。
 リュウの身体からげんなりと力が抜けた。
「……もう。困ったわね」
 ため息をついてディースは上半身を起こした。
「とりあえずお尻の穴から手を入れて立たせようかしら」
 さりげなくとんでもない事を言ってのけたディースを、リュウとニーナがぎょっと見つめる。発言の本人は別段何とも思っていないようだ。
 リュウは救いを求めるようにニーナを見つめ、そしてニーナと眼があった。
 ニーナがこくり、と力強く頷く。
「せ、先生! あたしやってみます!」
 言うが早いが、ニーナがリュウの股間に顔を寄せた。頬を朱に染めて、ディースと同じ格好でリュウのものに手を伸ばす。
 いつも清純なイメージのニーナがさっきのディースと同じ淫らなポーズを取ると、その落差が多大な効果をもたらした。
「……きゃっ!?」
 むくり、とリュウのものが立ち上がる。ニーナはびっくりしてリュウを見た。リュウの真っ赤な顔を見て、ニーナの顔も真っ赤になる。
 触れてもいないのに元気になったリュウのものを見て、ディースは頬をひくひくと引きつらせていた。
「……あ、手で……」
 こわごわと手が伸ばされて、リュウの胸が高鳴った。
「はいそこまでー」
「えっあっ」
 急にニーナの身体が引き起こされ、電光石火の勢いでディースがリュウの股間の上にまたがっていた。腰を沈められるだけで入れられてしまう。
「うわー」
 暴れたらぬるりとしたものに自分のものの先端が触れたので、リュウは身体を硬くした。
 また奪われてしまうのか?
「女の子は自分の準備が出来るまで、男の子に入れさせたら駄目よ? それじゃ」
 なんだかもっともらしい事を言いつつ、ディースがゆっくりと腰を沈めていく。
「いただきまーす」
 ぺろり、と赤い舌が唇を嘗めた。加虐的な視線は煩悶するリュウに向けられている。
 ぬるっ、とリュウのものの先端が温かく濡れた部分に軽く入る。
「うわー」
「えいっ」
 嬉しいような悲しいような悲鳴を上げたリュウを助けるかのように、ニーナがディースに当て身を喰らわせた。
「きゃあっ」
 思いのほか可愛らしい叫び声を上げて、ディースがベッドから転落した。
「ニーナ!」
 リュウが歓喜の声を上げた。当て身を当てた体勢でベッドに片膝をついたニーナは、視線を伏せてそのままリュウに這い寄った。
 頬が上気した顔は、何かを思い詰めたようにリュウを見つめている。
 ニーナの身体に合わせて、透けた下着ごしに大きな乳房が揺れる。鳴ったのはリュウの喉ではなく、ニーナの喉だった。
「……え?」
 リュウの鼓動が期待に高鳴る。身体をまたぎ、間近からリュウの顔を見つめるニーナの視線は潤んでいた。
「リュウちゃんが、他の人とえっちしてるなんていやなの……見たくない……」
「いや俺は」
 リュウはまた真実を言いかけたが、唇を触れあわせるキスで止められてしまう。
「リュウちゃんが誰を一番好きでもいいけど、あたしがリュウちゃんを一番好きなのは、許して」
 リュウが言いかけた言葉は、自分のものから伝わった快楽によってかき消された。
 眉根を寄せたニーナが、荒い息をつきながら身体をリュウの下腹部の方へ動かす。ゆっくりと、狭く湿った温かい部分に先端が埋没していき、すぐに行き止まる。
「……くぅっ」
 痛みに耐えて腰を埋没させようとするニーナを見て、リュウは自分にそれほどの価値がある男なのか自問した。自分から突き上げそうになる腰を必死で抑える。
 ニーナの頬を一粒の涙がこぼれ落ちる。
「はいお疲れー。これで見なくてもいいわよー」
 突如ニーナがかくんとくずおれ、それを支えているのはディースだった。魔法を使った指先が光っている。
「……鬼かー!」
 状況を把握したリュウが怒気の塊を放出するように叫ぶが、全く相手にされない。投げつけられる罵詈雑言が聞こえていないかのように、すやすやと眠っているニーナの身体をベッドから引きずり降ろす。
「……あら?」
 ころん、と床にニーナを転がしながら、ディースは呟いた。リンプーがいない。
「リンプーちゃん?」
「居ないにゃ」
 何気なく発したディースの言葉に、ベッドの下に隠れていたリンプーが健気に答える。
 ディースが覗き込むと、リンプーはお尻をディースの方に向けて尻尾を丸め、頭を抱えていた。
「……あんた、何やってんの?」
 ディースが半分呆れたように、不思議そうに聞く。
「えっち怖いにゃ。気持ちいいなんて嘘つかれたにゃ」
 ぷるぷるとお尻と尻尾を震わせてリンプーが言う。
「怖くないわよー。気持ちいいわよー。最初だって痛いのは少しだけよー」
 にこやかに笑ってディースが手招きする。
「ニーナ痛そうだったにゃ。かめさんがすぐに入っちゃうなんて、変だにゃ」
「変じゃないわよー」
 がんぜない子供に向けるような慈母の笑みを浮かべてディースが言う。
「リンプーの多分ディースみたいに広くないにゃ」
 慈母の笑みが一瞬にして般若のそれに変わった。
「ぎにゃあー! いたいいたいいたい」
 尻尾を掴まれて引きずられ、痛みのあまりリンプーが立ち上がった。頭をぶつけ、ベッドが腰の高さまで浮き上がる。
「うわー」
 リュウの悲鳴をよそに、尻尾を掴まれたままベッドの下に逃げ込もうとリンプーが床に爪を立てていた。
「やめてやめてやめてもげにゃうっ!」
「もげたらいーじゃない。もげたら」
 泣きながら懇願するリンプーに、ディースはあまりにも素っ気ない言葉を返す。
 本当にもげそうだったのか、痛みに耐えかねたのか、リンプーは抵抗を止めて動きを止めた。
 助けを求めるようにベッドの上のリュウに視線を投げてくるが、リュウはリンプーに縛り付けられたベッドの上で何も出来ない。
「ほーら、立ちなさい」
 逃亡を許さないために尻尾を掴んだまま、ディースが勝ち誇った声で言う。のろのろとリンプーが立ち上がる。
「誰が何だって? んん?」
 リンプーの後ろから顔を寄せて、ディースは加虐的な視線を向ける。
「リンプー、ディースが何で怒ったのか、わかんないにゃ」
 ぐずぐずと鳴る鼻を手の甲でこすってリンプーが言う。
 ディースは毒気を抜かれたような、ちょっと困ったような表情を浮かべた。
 しばらく困った顔で思案して、愛想笑いで口を開く。
「……ほら、リンプーちゃん、おまたがむずむずするときってあるでしょ?」
「はいにゃ」
 大分泣きやんだリンプーが鼻声で答える。
「その時に」
「猟に行くにゃ」
 ディースの言葉を、リンプーの言葉が遮った。ぽかんとするディースの口から、確かめるように言葉が漏れる。
「……猟?」
「はいにゃ」
 リンプーは頷くと、ぽかんとしているディースを見つめた。ディースに対しては頭の回転が速くならざるを得ないのか、説明を始める。
「でっかくてつおい獲物を何日も何日も寝ないで追っかけてると、消えるにゃ。だから猟に行くにゃ」
 リンプーは性欲というものをよく知らない上に、処理の仕方もよく分かっていないらしい。
 ディースはぎゅっと酔った眉根を揉んだ。
 不思議そうな、きょとんとした表情でリンプーはディースを見つめる。しばらくディースの思い悩む表情を観察した後、おそるおそる口を開く。
「……かえってもいいかにゃ……?」
 がば、と後ろからディースがリンプーを襲った。胸を揉みしだき、口を吸い、股間に指を忍ばせる。
「ん、んにゃぁっ……」
 ディースの舌はリンプーに言葉を発する事も許さない。舌が舌に絡み付き、唾液が胸元に滴る。突如始まったあまりの快楽の奔流に、リンプーは抗う事も忘れていた。
「うわー」
 突如始まったレズビアンプレイに、リュウが眼を円くして食い入る。
「ふ、ふにゃあ」
 戒めを解かれ、リンプーは倒れ込むように床に手を着いた。息が荒い。
「ま、こんなもんでしょ」
 ディースは指先のねばった液体を長い舌で嘗めた。
 ひざまずいているリンプーの両肩に手を置いて言う。
「リュウちゃんのちんち、入れなくていいから、それでおまたこすってごらん? 気持ちよくなっておまたのむずむずも消えるわよ?」
 淫魔のようなディースの囁きに、リンプーは焦点の合わないままの眼でふらふらと歩き出す。
「り、リンプー! 駄目だっ。こういうことしちゃ駄目っ」
 全く説得力の籠もっていない声でリュウが抗うが、リンプーの歩みは止まらない。
「リュウちゃん……」
 自分の上にまたがって顔を近づけてくるリンプーに、リュウは胸を高鳴らせた。泣いていたせいもあってか瞳は潤みきり、いつもとは違う弱々しい表情を浮かべている。
 リンプーのざらりとした舌が、リュウの唇を嘗め、唇どうしが触れ合った。
「リンプー怖いから、ちんち入れないでね」
 弱々しく懇願するリンプーの乳房がリュウの胸板で潰れる。さっきのレズビアンプレイとリンプーの乳房の感触で、一旦ダウンしていたリュウの下半身は復活していた。
 いつも勝ち気なリンプーが弱々しく身体を寄せてくると、庇護心なのかリュウの男の部分が強く持ち上がってきた。
「ふにゃあっ」
 おそるおそるリュウのものを自らの股間に添わせるリンプーが、思わず声を上げる。
「わわっ」
 柔らかい濡れたブラシのような部分に包まれて、柔らかい肉のスリットがリュウのものに当てられる。
「あっ、はっ、ふにゃっ」
 快楽が得られると知ると、リンプーがすぐに動き始める。
「あっ、くっ」
 リュウは慌ててはを食いしばった。リンプーの動きは恐ろしく激しく、ベッドがぎしぎしと揺れた。
「リュウ、ちゃん」
 湿った吐息の合間にリンプーが言葉を漏らす。
「リンプー、好きって、多分、よくわかって、ないにゃ、あっ」
 快楽にぎゅっと眉根を寄せたあと、リンプーは再び潤んだ視線でリュウを見つめた。
「けど、リンプー、リュウちゃんが、好き。……痛くしても、好き」
 リュウはリンプーの、今にも泣きそうな、嬉しそうな苦しそうな表情を見つめた。
 リンプーの唇がリュウに近づく。
「はいそこまでー」
 ごちん、とリンプーの額がリュウの唇に当たった。
「ふにゅう」
 むにゃむにゃ眠ってしまったリンプーを、ディースが荒々しく投げ捨てた。いそいそとベッドの上に上がる。
「……悪魔かー!」
 リュウが再び抗議の声を上げる。ぴたり、とディースの立てた人差し指がリュウの唇に当てられた。
「分かってるのリュウちゃん! 童貞の危機だったのよ!」
 眉を立ててリュウを叱りつけるディースの腰は、ゆっくりと沈められていた。
「うわー」
 絶句した状態から慌てて逃げようとするリュウのものを、ディースの入り口は既に捉えていた。
「うふふ。初物なんて何年ぶりかしら……」
 感慨に眼を閉じて、ゆっくりと完璧に腰を沈ませる。
「わ、わわっ」
 柔らかくて温かいものに自分のものを包まれて、リュウが情けない声を上げる。あっという間だった。
「あ、あらっ?」
 ディースが驚いたような声を上げた。
「三こすり半も行かなかったけど、最初だからしょうがないわよね?」
 くすりと笑みを浮かべてディースが言う。
「だいじょーぶ。先生に任せてくれればあっという間にプロフェッショナルよ?」
 ディースは甘えるようにリュウの胸に顔を寄せると、乳首に舌を這わした。
「……なあ、ディース」
 怒りでくぐもった声に、ディースが驚いて顔を上げた。
「なんで嘘なんかついたんだ?」
 リュウの表情は、うつむいていて見えない。
「だ、だってえ……」
 もじもじと人差し指どうしを交差させて、ディースは甘えるように、恥ずかしげに口を開いた。
「あ、あたしもリュウちゃんの事嫌いじゃないから、朝起きたときにえっちしたとばかり思ってて……あとでしてないって分かったんだけど、訂正するのも恥ずかしいし、リュウちゃんとえっちしたいと思ってたし」
「……そうか。少しは……手加減が出来そうだ」
 怒りの少し収まった声に、ディースは異変を感じた。リュウの声はこんなに潰れた、低い声だったろうか?
「おし……おき……の……」
 リュウの身体が膨れ上がり、皮膚には鱗が生え、声帯が人語を発するのに適したものではなくなっていく。
「えっ? ええ? えええー?」
 ディースが驚きの声を上げる。
 両手足のロープが引きちぎられる。リュウは竜に変化していった。
「あっ、ご、ごめんなさいっ」
 竜に変化した腕が逃げようとしたディースの肩を掴む。
「ひあっ? あっ、あぁっ! だっ、だめっ!」
 竜の身体が激しく突き動かされ、ディースの濡れたような嬌声がそれに重なる。
 奪われたら、奪い返せばいいのだ。



 ディースは壊れたベッドから床に身体を投げ出した。ぼわん、と下半身が人間のものから蛇体に変化する。ぐるるる、と逃げ出された事に不満げなリュウのうなり声が重なる。
 髪は乱れて汗ばんだ皮膚に張り付き、下着は破れ、あちこちに小さな傷を作ったディースが変化したリュウを見上げる。激戦を物語るように息が弾み、肩が上下している。
「も、もう気が済んだでしょ? リュウちゃん? ほ、ほら、あたしも、人間の下半身に変化していられなくなっちゃったし」
 おそるおそる声を掛けるが、リュウの眼は爬虫類のそれなので表情が読み取れない。
 ディースはリュウの視線に気がついた。ディースの顔ではなく、もっと下に、下半身に向けられている。
 蛇体の股間に当たる部分に、よく見なければ解らないようなちいさな割れ目があった。蛇の性器は性交の時にしか現れない。
 そこから、幾度となく注がれた精がとろりとあふれ出していた。
「あっ、いやっ! 見ないでっ! お願いっ!」
 新たな羞恥に顔を真っ赤に染めて、ディースは幼女のようになりふり構わず首を左右に振った。必死に股間を押さえて隠すディースの元へ、リュウの重々しい足音が一歩近づく。
「だっ、だめなのっ! リュウちゃん! だめっ! ここはだめっ! あっ、ああぁっ」
 さっきよりも更に艶やかに濡れた生々しい嬌声が、洞窟に響き渡った。



 ニーナは明るい日差しに眼を覚ました。
 部屋の中はモンスターが暴れたようにぐちゃぐちゃになっていて、出入り口もそのモンスターが壊したかのように大きな穴になっている。洞窟を改造した部屋ではなく、洞窟になってしまっていた。
 誰が掛けてくれたのか分からないシーツにくるまったまま、ニーナは身体を起こした。側らではリンプーが丸まって寝ている。
 朝日の入る洞窟の出入り口を、上半身を起こしたディースがじっと見つめている。蛇体になった下半身をシーツで隠していた。
「……いっちゃったわ……」
 乱れた髪と下着の残骸が濡れた肌に張り付き、あちこちに小さな傷をつくったディースは、何か満足げに朝日を見つめている。頬は紅潮し、眼差しは恋する乙女のものだった。
「はあ」
 ディースの発言に何か不適切なものを感じつつ、部屋の様子に呆然としてニーナは言った。
「好きだにゃ……」
 リンプーが寝言でむにゃむにゃと呟く。
「……おさかな……」



 その日は昼頃から、街が慌ただしかった。
 風に乗ってどこからともなく、モンスターの鳴き声が聞こえてくるのだ。
 そのモンスターの鳴き声はまるで泣いているような哀切な響きを帯びており、聞くものの心を悲しくさせた。
「ねえ、もふもふ」
 淡々と薪割りをしていたボッシュの所に、ニウが歩いてきた。
「ん? どうした」
 ボッシュが手を止めると、ニウは睨み付けるような表情でボッシュを見た。だっと走り出してボッシュの胸に飛び込む。
「はい、もふもふ~」
 ボッシュはいつも通りニウを抱き上げて胸に抱き寄せるが、ニウの表情は硬い。
「ねえ、もふもふ。なんであの鳴き声を聞くと悲しい気持ちになるの?」
「泣いてるからだよ」
 にっこり笑ってボッシュはニウの頭を撫でた。ニウが驚いたように眼をぱちぱち瞬かせてボッシュを見つめる。
「わかるの?」
「そうだよ」
 ボッシュの微笑みを少女は信じて疑わない。
「すごーい。けど、なんで泣いてるのかな? 聞くだけでこんなに悲しくなるくらい」
 少女の顔が毛皮の胸板に押しつけられた。その暖かさと柔らかさに、少女はくすくすと笑った。
「まだ悲しい?」
「ううん!」
 ボッシュの問いに首を振った少女は、家へと走り出した。
「おかーさんももふもふしてもらおう!」
 勝手口の中に少女が消えるのを確認して、ボッシュは深く深くため息をついた。
「ニアさんに断って、相棒を迎えに行かないとな……」


おしまい。


 おまけ

「あたし月・木曜日ね」
「わたしは火・金曜日で」
「余った日にゃ」
「そーするとあんたが土日連続で回数多くなるでしょうが!」
「むにゃー!」
「日曜って休日なんだけど……誰か聞いてる?」


 おまけのおまけ


「朝・昼・晩って無理ですよ……」
「そう言いながらもう一週間経ってるから大丈夫よ!」
「いや、限界が来てるんですけど……」
「内容が一人だけとくべつあつかいされている気がしないでもないにゃ」
「え? え? そ、そんな事ないと思いますけど」
「じゃあ毎回三人で」
「あ、逃げたにゃ」


 おまけのおまけのおまけ


 邪神を前に、激戦に疲れ、やつれた勇者が叫ぶ。
「もう……もう、こんな事は! 終わりにしなくちゃいけないんだ!」
 同行していた女勇者三人は、そのセリフにぷいっと別の方向を向いた。



おしまいのおしまい。
  1. 2009/02/05(木) 08:58:52|
  2. ブレス オブ ファイアII
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小説②リンプーちゃん、お年頃なんだからもうちょっと……。



 外からの激しい雨音を半ば楽しむような表情で、リュウは本を読んでいた。共同体の寮、玄関を入ってすぐのソファには、リュウ以外誰もいない。
 廊下の突き当たりから、賑やかな夕食の音が聞こえてくる。リュウも食事に加わりたいのだが、共同体のリーダーとして責任があった。
 遊びに行って帰ってこないリンプーを待たなければいけない。
 リュウはそばに置いてあるバスタオルに眼を落として嘆息した。ずぶ濡れで帰って来るであろうリンプーにタオルを渡して、体を拭かせる。この責務を果たさないと、寮内が大変なことになるのだ。
 体をぶるぶるっと震わせたリンプーの体毛からしずくが飛び散り、玄関は天井までぐっしょり濡れ、あちらこちらにリンプーの足跡が残る。
 モップを持ってリンプーの後を追う羽目になる自分を想像して、リュウはまた嘆息した。ずぶ濡れのまま平気で寮内を歩き回るとは思っても居なかったのだ。
 なんだか子守のような気もするが、決して子守ではない。今まで一人で生きてきたのでリンプーは共同生活や人間社会の仕組みというものがよく理解できていないのだ。
 と、リュウは自分に言い聞かせている。そうでもしないとやっていられない。
 賑やかな食堂からの音に羨望を感じながら、リュウはまた本に視線を戻した。
『やさしい大工仕事 上級編』
 上級編にもなると、かなり難しい。
 食堂からディースの笑う声が一瞬聞こえ、リュウは慌てて本から顔を上げた。
 俺の分のハンバーグはまたディースに食べられてしまうのだろうか。
 切なさに空腹感が加わって、リュウは嘆息した。
 滅多に大声を出したりしないニーナの声が聞こえた。ディースとしばらく口論していたようだが、ディースの高笑いの後、ニーナの声が聞こえなくなる。
 どうやらリュウの分のハンバーグはディースに食べられてしまったらしい。
「あああ……」
 リュウは思わずうめき声を上げた。ハンバーグを食べられた事もさることながら、ニーナがディースにからかわれていないか気になる。元お姫様のニーナは、ディースが得意とするセクハラ的な発言に弱い。リュウとの仲をからかわれると、ニーナはしばらく会ってくれなかったりする。
「ううう……」
 この間ニーナとあった事を連鎖的に思い出して、リュウは煩悶した。ディースにばれていないようにので、それだけはいいのだが……。
「ただいにゃー」
 滑舌にも元気のない声が玄関から響いて、リュウは顔を上げた。
「濡れにゃんこー……? ねずみ?」
 肩を落として体中からぼたぼたと水滴を落としたまま、リュウを見つけたリンプーが言った。大きな眼をぱちぱちと瞬かせてリュウをじっと見つめる。
「ねずみ」
 リュウは答えながらバスタオルを持って立ち上がった。
「今リンプー濡れにゃんこだよ?」
「いや。濡れフーレン」
「にゃるほろ」
 虎の獣人である誇り高き戦闘狩猟民族という自覚はリンプーにないらしい。
 ぐっ、とリンプーの体全体に力がこもる。鍛えられた筋肉が膨張して体格が一回り大きくなった。
「ストーップ!」
 バスタオルを広げながらリュウが叫び、大きなバスタオルで玄関をふさぐように立ちはだかる。
 豪雨が横から叩き付けてくるような衝撃がタオルを押し、リュウの体にタオルが押しつけられる。ほんの何秒間か水滴が激しく叩き付けられる音が続いた。
 再び豪雨の音が他を圧するように戻ってくると、べろん、とリュウの体に張り付いていたタオルが力なく垂れ下がった。
「うう……」
 濡れた不快感にリュウは自分の顔を拭った。真剣な表情を作って言う。
「……リンプー」
 天真爛漫な眼がリュウを一瞬捉えたかと思うと、リンプーの頭が勢いよく振られた。
「ううう……」
 水滴を叩き付けられ、ぐっしょりと濡れた顔をリュウがまた拭う。
「……ぶるぶるは、お外で」
 顔から手のひらで水滴を拭い落としながら、リュウはリンプーにバスタオルを渡した。
「にゃー」
 イエスなのかノーなのかわからない返答を返しながら、リンプーは濡れたバスタオルを肩に担いだ。体を震わせて水滴を飛ばしたおかげで、体毛は軽く雨にあたった程度になっていた。
 そのまま機嫌良く食堂に向かおうとする。
「めっ!」「にゃ」
 リュウの叱責に、リンプーは不思議そうな表情で振り返った。
「ちゃんと体を拭いてから! バケツはそこ!」
 腕組みをして、リュウは高圧的に言い放った。
「むにゃー!」
 明らかに否定・抗議の声を上げながらリンプーは玄関においてあるバケツに向かい、タオルを絞って体を拭き始めた。
 リンプーが本気になって殴ってきたら即死の危険性があるのだが、それはそれ、これはこれである。
 台風に敢然と立ち向かう気持ちで、リュウはリンプーが体を拭くのを見守った。獣人で体毛が濃いので裸を見ている気にはならない。元より身につけている衣服といったら、防具の胸当になりそうな鋼の使われたブラジャーだけだ。
 胸は体毛が薄いらしいので、リンプーがブラジャーに手をかけた時点で視線を逸らす。ちょっと逡巡して視界の端でちゃんと拭いているか確認すると背を向けていた。残念に思った自分が少し恥ずかしくなる。
「おしまい!」
 最初の抗議の声とは違った、嬉しそうな快活な声にリュウも嬉しくなった。振り向きざまに言う。
「やっぱり体を拭くと……」
 周りが鍛えられているせいで一層柔らかく見える乳房にリュウの眼が釘付けになった。雨の寒さのせいか乳首がつんと上を向いている。
「リンプー、ブラジャー」
 妙に平坦な声がリュウの喉から出た。視線は胸に向いたままだ。
「にゃはー……」
 リンプーが照れ笑いして、ブラジャーをつける。リュウはブラジャーのホック部分のつくりに感心した。
「やっぱり体をちゃんと拭くと、気持ちがいいだろう?」
 さっきの嬉しさとは別の嬉しさを隠すように、明るくリュウは言った。心の中で感謝の辞を述べる。
「うん!」
 開けっぴろげに、にっこりと笑ってこっちを見る少女は年齢よりも幼く見える。
 リュウは自分の教育が成功したことと、不慮の事態に満足して微笑んだ。リンプーにあまり羞恥心がないおかげで、後ろめたさもあんまりない。
 微笑んだまま、リュウはリンプーの体がちゃんと拭けているかチェックした。毛並みの事を考えて拭いていないのか、あちこち毛羽だったようになっている。
 体のあちこちがまだ濡れているが、体毛が多くて大変なのかも知れないし、今のところはこれでいいだろう。
 と、思っていたリュウの視線が、一カ所で止まった。眼が大きく見開かれる。
「えー、あー、うん。リンプー」
 ぷい、と視線を無理矢理引きはがすように逸らしてリュウが言った。
「えーその、もうちょっと頑張って、拭いてみようね。俺新しいタオル持ってくるから!」
 ダッシュで遠ざかるリュウを、リンプーは不思議そうな視線で見送った。



「ふう」
 大判のハンカチの隅に刺繍をしていたニーナは、一息ついて顔を上げた。刺繍しているのは竜の紋様を簡略化したものだ。
 雨脚の弱くなってきた暗い外をじっと見つめる。そろそろ夜も更けてきた。
 リュウちゃん、このハンカチ気に入ってくれるかな……。
 以前から時間を見て刺繍をしていたもので、刺繍に自信もあるのだが……。リュウはあんまりおしゃれに興味があるタイプではないのだ。
 気に入って貰えなくても、リュウちゃんが使ってくれるならそれで……。
 しとしとと降る雨を見ていたニーナの頬が、不意にぽっと赤く染まった。
 視線をできかけの刺繍に注いだまま、ニーナの心は追憶の彼方へと飛んでいく。



 雨がしとしとと森に降り注ぐ中を、四人は小走りに進んでいた。
「あったー!」
 先頭を走っていたリンプーが歓声を上げた。
「一番乗りー!」
 突進の勢いで洞窟の中へと走り込んでいく。
「危険がないかちゃんと確かめなきゃダメだぞー!」
「前来たからだいじょぶー。たーんけーん」
 心配そうなリュウの声に返事だけを残して、リンプーの姿が洞窟の中へと消えていく。
 続けて洞窟にたどり着いたリュウ、ニーナ、ディースはそれぞれ持っていたタオルやハンカチで体を拭く。ディースが使っているタオルはリュウが持たされたものだ。
 散歩がてらのモンスター退治だったのだが、急に天候が変わるとは思っていなかった。森の木々に遮られて見えない空を見上げ、リュウは洗濯物の心配をしていた。
「やあねえ。濡れちゃったわ」
 ディースがぞんざいに投げてよこした濡れたタオルを、リュウは視界の端で捉えてキャッチした。ディースの声音に少しばかりの不機嫌さを感じたリュウは、ディースの方に向くことをしない。
「……ふむ」
 不機嫌をぶつける対象を見つけられないディースが、洞窟の奥をのぞき込んで言った。
「あたし、こういう所落ち着くのよね……」
 少し機嫌良く言ったディースは、そのまま下半身の蛇体をくねらせて洞窟の奥へと消えていく。
 リンプーもディースも夜目が利くので明かりがなくても大丈夫なのだろう。
 取り残されたリュウとニーナが、同時にほっと吐息をついた。お互いに顔を見合わせて、小さく笑う。
 しばらく、雨音だけが二人を包んでいた。世界にそれ以外の音がないかのように、静かな雨音が二人を抱擁する。
「……いつもリンプーちゃんやディースさんで騒がしいから、すごく静かね」
「そうだね、二人きりだしね」
 ニーナの何気ない言葉にリュウが返答した瞬間、ニーナの頬が真っ赤に染まった。その意味に気づいた瞬間、リュウも頬を染めた。
 ニーナは真っ赤になった頬を隠すようにうつむいて、もじもじと組んだ両手を動かしていた。ちょっぴり目線を上げてリュウを見ると、ごまかすように背中を向けて上を見ている。
 リュウのその態度に、ニーナは少しだけ腹が立って顔をそむけた。
「……ニーナ」
 呼ばれて、ニーナははっと振り向く。その唇に、柔らかい物が触れた。顎に振れている物がリュウの指だと、視界を埋めているのがリュウの顔だと気づいたのは全てが終わった後だった。
 ただ、ニーナは何が起こったのかわからず、驚いて身を引いてしまった。
「ご、ごめん」
 戸惑ったリュウの言葉になぜか腹が立ち、ニーナはむくれた顔でうつむいた。耳まで真っ赤に染まっているのが自分でもわかった。
 盗み見すると、リュウも顔を赤く染めてうつむき、肩を落としている。
 ……謝る事なんて、なかったのに。
 リュウが謝ったことに、しょげてしまっていることに自分でも驚くくらい腹を立て、ニーナはうつむいて足下の小石を蹴った。腹を立てているのと同じくらいリュウを慰めてあげたいのだが、どうしたらいいのかわからない。
 ……あたしはどうして欲しかったんだろう。リュウは今、あたしのことをどう思っているんだろう……。
 そんなことが脳裏に浮かび、ニーナは足下の小石をもう一度蹴った。
 どうしたらいいのかがわからなくて、ニーナは悔しさに、悲しさに唇を噛みしめた。
 さっきよりも弱まった雨音が、二人を優しく包み込んでいる。



「はああああ……」
 あまりにも重いため息を、ニーナはゆっくりと吐きだした。いくら前のことを思い返しても現在の状況が変わるわけではない。
 ディースさんにはリュウちゃんのハンバーグを食べられてしまうし、みんなの居る食堂でからかわれちゃうし……。
『そんなにリュウちゃんに精をつけて欲しいのはどうしてなのかしらね~?』
 ずい、と体を前に乗り出してきたディースの言葉に、ニーナはただ何も返せず顔を真っ赤にした。キスされてからリュウを引き合いに出されるとすぐ顔に出る。ディースも最近何かあったことを感づいているのか、すぐにリュウを引き合いに出してくる。
 ただ、前と違ってそれほど嫌な感じはしない。前よりは恥ずかしいが……。
 刺繍を続ける気にはなれず、ニーナは椅子から立ち上がるとベッドに軽く飛び込んだ。
 クッションがニーナを受け止める。
「リュウちゃん……」
 呟いてみたが、それで自分の心が定まったわけではなかった。
 いつも枕の横に置いてあるぬいぐるみに手を伸ばす。ボタンと簡単な刺繍、毛糸で作られた手製のぬいぐるみだ。
 リュウのシャツを使って作ったぬいぐるみは、ボタンの眼でじっとニーナを見つめている。刺繍の口は微笑んでいた。
「……リュウちゃん」
 ぬいぐるみを顔に押しつける。リュウが破けて捨てようとした布を、雑巾にするといって貰い受け作ったぬいぐるみ。自分でもちょっと変だとは思ったが、どうしても欲しかった。寂しい時に抱きしめていい、リュウの代わりになる物が。
 ぬいぐるみからは、リュウのにおいがする。優しい日差しのようなお日様のにおい。最初にどきどきしたリュウのにおいは、もうニーナのものと混じって区別がつかなくなっている。今感じているリュウのにおいも単なる思いこみなのかも知れないが、ニーナはそれで満足だった。
「リュウちゃん」
 その名前を口にする度に、体が火照り、心が募っていくのがわかった。しかし、もう止められなかった。
 ぎゅっとリュウのぬいぐるみを抱きしめる。これが本当のリュウだったら、どんなにいいことだろうか。
 歳月が経つのは早く、人は変わっていく。やんちゃな弟のように感じていたリュウが、今では頼もしい異性として感じられる。
 そしてニーナも、世間知らずの少女から、一人の恋する女へと変わっていた。
「リュウちゃん……っ」
 体の火照りも、リュウを求める心も、もう止まらなかった。手がゆっくりと、下腹部と乳房に伸びていく。
 するりと手がパジャマの下に入る。ニーナは眼を閉じた。眉がゆっくりと寄せられる。
 思い人の名を呟こうと、口が開かれた。
「リュ」
 控えめなノックの音がそれを中断させた。驚いて体がびくりと動く。喉から出かかった声は止められなかった。
「……ウちゃ……っ!?」
 はっと口を押さえるがもう遅い。声は驚きで大きなものになっていた。
「ぅおっ?!」
 ドアの外で二回目のノックを終えたばかりのリュウは、自分の名前らしきものを聞いて驚愕した。



 ニーナはベッドの上に尻を着いて座り、何度も襟元を直していた。リュウのぬいぐるみは背後に隠してある。
 リュウはドアから入ったすぐのところで、視線を逸らすようにして頬を掻いている。
 気まずい空気が部屋に充満していた。
 混乱しているニーナはうつむいたまま顔も上げられず、ただ頬を真っ赤に染めてぐるぐると思考を巡らせていた。
 どうしてこんな夜にリュウちゃんが? 聞かれた? 聞かれちゃった? 荒い息づかいとかも? どうしたらいいの? そもそも用件は? 入る時もすごい小声だった! 人に悟られたくない用件?
 耳まで真っ赤にして、ニーナは思考を巡らせた。段々訳がわからなくなって頭がくらくらしてくる。
 ももももしかしてその、えっちな用件なの? あたし今日下着可愛くないよ?
 ニーナの脳裏に『えっちな用件』がまざまざと浮かぶ。今まで何度も想像していたのでなんだか生々しい。美化されている部分も多いのだが。
 最初は痛いって聞くけどほんとに痛いのかな? どの位痛いの? リュウちゃん優しくしてくれるかな? それともあたしがリュウちゃんに優しくしなきゃ駄目?
「……ニーナ、大丈夫か?」
 リュウの言葉にニーナがはっと我に返ると、少年の幼さと青年の精悍さを備えた顔が眼前にあった。
「う、うん」
 心配そうに見つめてくる眼差しに射貫かれて、それしか応えることができない。
「……ほんとに?」
「うん」
 不安そうなリュウの言葉に、ニーナは幼子のようにただ頷くことしかできなかった。自分をのぞき込んでいた顔が離れていくのが残念でならない。
「うーん」
 うつむいたままのニーナを見つめて、リュウがうなるように言った。
「ごめんなこんな遅くに。ニーナ、具合あんまり良くないみたいだし、また今度にするよ。ほんとにごめんな」
 仕方なさそうに微笑んで、リュウがきびすを返そうとする。
 去ってしまうの?
「待って!」
 ニーナは思わず叫んでいた。その行動に、自分でも驚いていた。リュウもびっくりしてニーナを見つめていた。
「いや、あのその、あたしは全然大丈夫だから……。その、ちょっと心の準備ができていなかったっていうか……びっくり、じゃなくて驚いたっていうか……」
 ニーナは火照った顔をリュウに向けて、一生懸命喋った。全く意味の伴っていない身振り手振りが加わる。いつも理路整然と喋っているので、とても恥ずかしい。いつもリュウよりも年上を意識した言動を取っているのだが、今はひどく幼く見えてしまっているのではないだろうか?
「あ、あー、ごめんな……。こんな時間に来るもんじゃないよな……」
 後悔したようにリュウがうつむいた。何かのスイッチが入ったかのように、ニーナは落ち着きを取り戻す。多分もうこんなチャンスは二度とない。脳裏に性悪蛇体女と脳天気猫娘が暗雲のように広がる。多分ではなく、こんなチャンスは二度とない。
「言って」
 ニーナはベッドの上で、リュウに向かってにじり寄っていた。顔を真っ赤にしたまま、恥ずかしさと真剣さがない交ぜになった表情で唇を開く。
「言って、リュウちゃん」
 驚いたような表情のリュウが、ニーナを見つめた。ニーナの喉がこくりと音を立てる。一秒一秒がひどくもどかしい。
 リュウが真剣な表情になり、ゆっくりと口が開かれた。
「実は、リンプーの事なんだけど」
「……? ……え?」
 ニーナの思考は白く飛び、脳裏を猫娘の脳天気な微笑みがいっぱいに広がっていった。



 にゃー。
 頭いっぱいにリンプーの脳天気な笑いが浮かんでいた。開けっぴろげな子供の笑みだ。
 にゃーん。
 ニーナは自分からひどく遠い所でリュウの話を理解していた。頭の中はリンプーの笑みでいっぱいだ。
 とても話しづらそうなリュウの話が、ニーナの頭の中で理路整然と組み上げられていく。
 一つ、濡れて毛が固まったせいでリンプーの股間の大事な所が見えてしまい、リュウちゃんが狼狽。
 二つ、リュウちゃんが相棒に相談してみた所、別に濡れた時じゃなくても見えなくもないらしい。
 三つ、リンプーが一段飛ばしで階段を上っていく際、下から踊り場に差し掛かった時に声をかけると、横を向いて大股を開いたリンプーを下から眺められる。それが遊びのようになってしまっている。
 四つ、リンプーに何かはかせるか着せるかして股間を隠して欲しい。
 五つ、それをニーナに頼みたい。
 ばつが悪そうに、リュウはニーナの返答を待った。ニーナは焦点の合わない目で呆然とリュウを見つめたまま、別のことを考えていた。
 一つ、リュウちゃんがリンプーの非常にオープンな色気に当てられて大切なキスの事なんて忘れてしまった。恐るべしリンプー。
 二つ、このまま進展する可能性あり。リンプーがリュウちゃんを押し倒している図がまざまざと浮かぶ。リンプーの怪力で本気に押し倒されたらリュウちゃんは為す術がない。恐るべしリンプー。
 三つ、本能のままリュウちゃんを何度も押し倒すリンプー。『にゃんかおなかがぷっくりしたきたにゃー』けれどあんまり気にしない。恐るべしリンプー。
 四つ、種族的に多産なリンプー。リュウちゃんは赤ちゃんたちの世話にてんてこ舞い。げっそり痩せている。リンプーは木の上でお昼寝。恐るべしリンプー。
 五つ、そんなこと断固阻止。
「う、ふふふふふ」
 ゆっくりとうつむいたニーナの口から、ぞくりとする笑い声が漏れた。びくり、と恐ろしさのあまりリュウが無意識に後退した。
「えーと、あの、ニーナ……さん?」
 強ばった口を無理矢理動かしてリュウが言った。
「……お願い、できますでしょうか……?」
 からからの喉から言葉を絞り出す。
「やるわ」
 ニーナのはっきりとした明瞭な言葉からは、行動する、というニュアンスよりもなぜか殺害、というニュアンスが聞き取れた。
 リュウはニーナを刺激しないようにじりじりと後退した。
 ゆっくりとうつむいていたニーナの顔が上がり、二つの目がリュウを見据えた。氷よりも冷たい視線に射止められて、リュウの後退が止まる。
「……行っていいわ」
 整った彫像のような全く感情のない顔から、言葉が紡ぎ出される。
 ニーナがの変貌ぶりに度肝を抜かれ、リュウは理由を問いたかったが、そんな余裕はもう残されていなかった。
 この場を去ることを寛大にも許可されたリュウには、それしか選択肢がない。
「大変失礼いたしました」
 ぎくしゃくと礼をして、ドアノブに手をかける。
「リュウ?」
 気まぐれに死刑を命じる口調で、ニーナが口を開いた。
「今度話があるわ」
 背中を汗でびっしょりと濡らしながら、リュウがどうにか応える。
「はい、承りました」
 自分でも口がうまく回っている事が不思議でならない。口がうまく回らなかった場合の危機を、体がひしひしと感じているようだった。
「それでは、失礼いたします」
 震える手でどうにかドアを開け、リュウは振り返ってニーナに一礼した。恐ろしくて直視できなかったが、ひよこが胸元に刺繍されている黄色いパジャマを着たニーナは、女王以外の何者でもなかった。
 窓に切れ長の眼を向けて、用の済んだリュウには一片の関心も持っていない。
 物音を立てないように細心の注意を払って、リュウはドアを閉めた。
「ふふ、うふふふふ」
 ドアから漏れてきた恐ろしい何かの笑い声から逃れるかのように、リュウは自分の部屋へと逃げ込んだ。



 リンプーは一人で遊んでいた。共同体の外れにある森の手前で、じっと蝶が舞うのを見つめている。本当はリュウと遊びたかったのだが、朝から釣りに出かけているらしく不在だったのだ。
 リュウが昨日世話を焼いてくれたので今日一緒に遊びたかったのだが、リンプーはそれが自分の好意とか感謝から来ている気持ちだとよくわかっていない。
 みんな結構忙しいので、あんまり遊んで貰える機会のないリンプーは一人で遊ぶのが上手だ。逆に、仲間ができたことで一人ぼっちだった昔よりも寂しさを感じるようになっていた。
 もっとも、遊びに熱中している時はそんなことは微塵も感じない。
 少し上を向いて蝶を見つめているリンプーが、ばっ、と少しだけ跳躍した。瞬発性の高い筋肉は予備動作を感じさせない。空中でくるりと回転する。
 と、と降りたったリンプーの唇には、蝶が羽を挟まれてじたばたともがいている。
 唇に獲物のあがきを感じて、眼を細め、捕食者の喜びに体を震わせるリンプー。羽だけを正確に唇で挟むのは結構難しい。
 こそばゆいような蝶のあがきに、生命の輝きとそれを握りしめている自分に喜びを感じて、リンプーはご満悦の表情でにんまりと笑う。唇に力を入れないように気をつけるのを忘れない。
 ぱ、と唇を離すと蝶が逃げるように飛んでいった。リンプーはまたこの蝶で遊ぼうかと思ったが、みんなと一緒で蝶も忙しいのかも知れない。
「ばいにゃ」
 鱗粉の着いた口で蝶に言ってみる。特に返事はないのだが、リンプーは満足してあたりを見渡した。ぽかぽかした陽気に照らされて、いつもより風景が生き生きとしているように見える。
「リュウちゃんどこに行ったのかにゃあ……」
 不意に寂しさを感じて、ぽつりと呟いてみる。海岸までひとっ走りしたら会えるかも知れない。釣りは好きではないが、リュウが話し相手をしてくれるし、バケツの中で泳いでいる魚を眺めているのもいい。
 海岸のどこら辺でリュウが釣りをしているのか考えていたら、リンプーは段々眠くなってきた。そのままころりと木陰に寝ころぶ。さわさわと微風に揺れる外れの音が心地いい。
 うとうとし始めたリンプーの鼻腔に、いいにおいが届いた。紛れもないスルメのにおいだ。発達した嗅覚は好物のにおいを逃さない。
「んにゃー」
 半分夢うつつのまま、リンプーはむっくりと起き上がった。眼も半分閉じたまま、においの元へと向かう。においが強くなるにつれ、リンプーの眼が開き、思考が冴えていく。
 共同体の建物の陰から、きょろきょろあたりを見渡しているニーナが出てきた。手にスルメを持っている。
 だっ、とすばらしい瞬発力を見せつけてリンプーがニーナに迫った。気づいたニーナがリンプーのあまりのスピードに後ずさる。
 減速せずにそのまま突っ込んできたリンプーに、ニーナの顔が青ざめる。飛びかかられたらただでは済まない。
「にゃ!」
 リンプーはニーナの脇をすり抜けて跳躍し、その背後の壁を蹴って空中で一回転して降り立った。丁度目の前に呆然としたニーナの顔がある。
「ニーナ、スルメちょーだい」
 それは自分の所有物だと言わんばかりに、にっこりと笑って両手を差し出す。
「……あげなーい」
 はっと我を取り戻したニーナが、前屈みになりリンプーを下からのぞき込むようにして言う。スルメは後ろで組んだ両手でしっかり掴んでいる。一瞬の隙をついて奪われかねない。
「にゃー……」
 リンプーはがっくりと肩を落とした。ちらりとニーナを見るが、少し意地悪っぽい笑みを浮かべたままだ。
「にゃー!」
 リンプーは小さく叫ぶと眉を寄せ、唇をとがらせた。
「ニーナのいぢわるー」
 少し腹が立ってニーナをにらみ付ける。その眼前にスルメの足が一本差し出された。すかさず、はむ、とリンプーの口がそれをくわえる。
「ニーナ大好きー」
 両手でスルメの足を大事そうに抱えて、リンプーはもむもむと顎を動かして味を楽しむのに熱中している。
 ニーナは自分の判断が正しかったことを確信した。リンプーの別の好物だったら、あっという間に平らげられていただろう。
「ねー、リンプーちゃん」
 かがみ込んで、にっこりと微笑むニーナ。
「もっとスルメ欲しくなあい?」
 微笑みの中に一瞬暗い陰が射したのだが、スルメに夢中のリンプーは気づかなかった。
「はいにゃ」
 ニーナの方をきちんと見て、とても素直に頷くリンプー。
「じゃあ、ちょっと私の部屋に来てくれるかな? お願いしたいことがあるのね」
 にこにことかりそめの慈愛に満ちた表情でニーナが言う。素直にこくりと頷くリンプー。
 二人で寮に向かって歩き出す。ニーナはちらりとリンプーのヒップを見た。体毛に覆われているが、小さく引き締まっているうえに、周りの筋肉が発達しているのでその丸みと柔らかさが強調されている。
 リュウちゃんこういうのが好きなのかしら……。
 ニーナは自分のお尻の大きさを考えた。最近ちょっと気になっている。胸も大きくなってきているので、気にしすぎだとは思っているのだが。
「どうしたのかにゃ」
 いつの間にかリンプーのお尻を見つめていたらしく、不思議そうな声がかけられた。
 ニーナは慌てて口を開いた。
「えっと、その、そうだ、なんでリンプーちゃん『にゃ』とか言うようになったの?」
 あからさまに関係のない話だったが、リンプーは特に気にならなかったようだ。
「なんかね、ディースがね、リンプーこうした方がモテモテだってね、ゆってたにゃ」
 半分スルメに気を取られたままで、リンプーが応える。モテモテの意味がよくわかっていない上、実際の理由は鳴き声に似た発音で喋りやすいからなのだが、そこまで質問したり説明したりする所まで頭が回らない。
 スルメがもうそろそろなくなりそうだったので、ニーナはもう一本スルメの足をリンプーに渡した。
 口を動かすのに夢中で、リンプーはうつむいたままただそれを受け取って食べ続ける。
 そのため、スルメを差し出していた時に一瞬見えた、ニーナの冷たく酷薄な眼差しに気づかなかった。
 どんな手を使ってもモテモテになりたい強欲なリンプーちゃん……。あなたにはかぼちゃパンツがお似合いだわ……!
 冷え冷えとした笑みを浮かべるニーナの脇で、リンプーは無邪気にスルメを噛み続けていた。



 海から共同体に帰るリュウの肩は重かった。一匹も釣れなかったからではない。一匹も釣れなかったのは、針に餌を付けずにずーっと垂らしていたからだ。何時間も頭を白紙にして、ただ海を見ていた。
 できることなら夜まで海を眺めていたかったが、夕食当番なのでそうもいかない。弁当に持って行った簡素な食事をのろのろと済ませると、帰路についたのだった。
 釣り道具を物置に片付けて寮に入ると、どうも騒がしい。ひく、とリュウの片頬がけいれんしたように上がった。苦笑いしたつもりだったがうまくいかない。
 ニーナの部屋の前に人垣ができているのを見て、リュウはがっくりと肩を落とした。男性陣がドアから漏れる声を些細な一言でも聞き逃すまいと傾聴している。
 リュウの予想通り、ニーナがリンプーに何かはかせようとして苦戦しているらしい。ニーナの王侯貴族的なカリスマ性は平民のリュウに通用したが、蛮族みたいなリンプーには通用しなかったのだろう。
「リンプーちゃん、はいた中で気に入ったのないの……?」
 げっそりと疲れたニーナの声。
「かぼちゃぱんつはもふもふして面白いけど動きづらいからやー」
 ニーナの分までカバーするように元気いっぱいのリンプーの声。
 しん、と息を殺して傾聴している男性陣。リュウは情けなくなったが、昨日相談に乗って貰った相棒のボッシュが居なくて安心した。単に狩りに行っているだけかも知れないが。
「うーん、動きやすいっていうとこういうのになるんだけど……」
「それはおまたにきゅってなるからやー」
「じゃあ、こんなのは?」
「それもお股にきゅってなるよー。ねー、どうしてもはかなきゃ駄目なのー?」
「駄目っ!」
 ニーナの怒気を含んだ一喝が、傾聴していた男性陣の鼓膜をびりびりと震わせた。
「むにゃー……」
 あまり元気のない抗議の声を上げるリンプー。このやりとりは幾度も繰り返されてきたのだろう。
「……リンプーちゃん、ブラしてるでしょ? そのデザインと合うのも作ったから、しばらくそれ付けてみない? きゅってなるのもそのうち慣れると思うし、ね?」
 先ほどの一喝とは打って変わった、優しげな声音でニーナが言う。
「……えーとね」
 しばし考え込んだ後に、リンプーが口を開いた。
「なんかね、リンプー、おっぱいの先がむずむずしたり、痛かったりする時があって、それでブラしてるの。ニーナはおっぱいの先痛くなったりしない?」
「……え……っ」
 リュウにはドアの向こうで絶句し、赤面してうつむくニーナの姿が見えるようだった。
「なんかおっぱいも張って痛い感じもするし……びょうきなのかなあ……」
 しょんぼりしたリンプーの言葉に、聴衆がぐぐっと引きつけられた。いつもあっけらかんとした少年のようなリンプーが、怯えた様子でしんなりと喋る様には、少女としての弱さがある。
「ち、違うのよリンプーちゃん。それは病気じゃないのよ」
 少し慌てた感じで、ニーナがまくし立てた。
「え、違うの? なんで?」
 きょとんとしたような、不思議そうなリンプーの声。
「女の子はね、えっとね、子供を産むために体ができてくると、あのね、その、おっぱいとか、お尻とかが大きくなってくるの。それで、あの、その、その時に痛いような感じがしたりするのよ。心配することないのよ」
 しどろもどろに説明するニーナ。気がつけばリュウも傾聴する男性陣に加わっていた。これから期待できそうだ。
「ニーナもおっぱい痛くなる?」
 リンプーのほっとした明るい声。リュウは全身全霊で次の言葉を待った。
「あの……その……」
 ニーナはしどろもどろになって答えられないようだ。リュウは辛抱強く待った。
「ディースはもう女の子じゃないから、お乳出るのかなあ」
 話を変えるなリンプー、もうちょっとニーナに突っ込め!
 というリュウの心の叫びはリンプーに届かなかったらしい。
「お乳はね、赤ちゃんができたら出るのよ」
 明らかにほっとしたニーナの声。リュウは強く唇を噛んだ。
「……赤ちゃんって、どうやったらできるの?」
 純粋に不思議そうな声で、リンプーが聞いた。いつもの半分きょとんとしたような表情で聞いているのだろう。リュウは心の中で勝利を叫んだ。
「え、えっ、あの、そのね、男の人と、女の人が、ね」
 リュウは全身全霊でニーナの言葉に聞き入った。恥ずかしさのあまり声が上ずっている。いつも理路整然と喋るので、もじもじ喋っているのが可愛らしい。胸を高鳴らせながら続きを待つ。
「……誰がもう女の子じゃないって?」
 怒気を含んでもなお艶めかしい声が、廊下に凛と響いた。



 挑戦的に見下ろす切れ長の眼の下で、挑戦的なバストがたゆんと揺れた。
 ディースが下半身の蛇体で上半身を持ち上げ、あわれな犠牲者たちを睥睨していた。ドアを取り囲んでいた男性陣が、蜘蛛の子を散らすようにそそくさと自分の部屋へと逃げ込んでいく。
 慌てて周りに頭を巡らすリュウを残して、ドアに鍵をかける音が立て続けに響いた。
 しん、と静まりかえった廊下に、見上げるリュウと見下ろすディースが残される。
「……誰が、もう、女の子じゃないって?」
 獲物を遊びでいたぶるような喜びを口の端に乗せて、ディースが言う。
 リーダーの孤独さを思い知らされながら、リュウは口を開いた。
「ディースさんが、成熟した女性だ、という話です」
 自分でもびっくりするくらい平坦な口調で答える。
「……ふうん?」
 つまらなさそうに納得した様子で、ディースは側らのドアを見た。
「……男の人と、女の人が、どうするにょ?」
「ちょ、ちょっと待ってねリンプーちゃん」
 ドアからいつも通りのリンプーの声と、焦ったニーナの小声が漏れてくる。
 にんまり、とディースの口の端が持ち上がった。持ち上げていた上半身をすとんと降ろす。リュウが慌てて口を開いた。
「あ、ちょっと今取り込み中で」
「リンプーちゃーん。ちょっと開けてー」
 ドアをノックしながら、楽しいいたずらを思いついた、艶然とした笑みをちらりとリュウに向ける。
「はいにゃ」
「だっだめ」
 室内の二人の言葉が交錯したあと、ドアが開かれた。ドアを開けたリンプーの腰にはニーナがしがみついている。リンプーを止めるには体重も腕力も足りなかったようだ。
「……くすん」
 細身ながらがっしりとしたリンプーの腰にしがみついたまま、ニーナは涙目になった。
「リュウちゃんったら酷いのよぉ? 女の子の部屋を盗み聞きしてたの」
 ディースが長いまつげを伏せ、わざとらしい艶めかしい声で、困ったように言う。
 真っ赤になって絶句したニーナをそのまますたすたと引きずって、リンプーが廊下をのぞき込んだ。
「いないにょ」
「あら?」
 ディースも廊下を見渡すが、どこにも居ない。足音もドアを閉める音もしなかったのだが。近くの部屋はみんなドアに鍵がかけられているので、少し離れた自分の部屋に逃げ込んだとしたら、足音を全く立てずに全力で走っていった事になる。
「変ねえ……」
 ディースがいぶかしんで小首をかしげる。ニーナはほっと吐息をついた。
「……楽しそうな事してるわねえ」
 ディースがニーナをにんまりと笑って見下ろした。両手の人差し指をショーツの左右に差し込んで引っ張り、ニーナの眼前にかざす。
 部屋はリンプーが脱ぎ散らかしたショーツでいっぱいだ。
 くい、くい、とディースの細い指でショーツが伸び縮みさせられる。
「えっと、あ、あの、違うんです」
 相変わらずリンプーの腰にしがみついたまま、ニーナは顔を耳まで真っ赤に染めた。



 リュウは自分の身体能力の高さに驚いていた。いわゆる人間種族よりは遙かに高い身体能力を持っているのだが、それをここまで発揮したことはなかった。
 ドアが開く瞬間、ディースの注意がドアに向き、ドアがきしんだ音を立てた瞬間。
 リュウはすかさず真後ろに跳躍していた。床板がきしむ音はドアの音と紛れた。体は仰向けになってドアと対面している窓に向かい、その窓の上部のへりを掴んで体を外に投げ出す勢いを更に加える。膝を丸めるようにして脚が窓の縁を越えた瞬間、左手を離す。残った右手を軸にして体がくるりと回り、屋根へと両手両足を使って着地していた。
 着地の音も両手両足を使いショックを分散させたので、飛び出してきた速度からは考えられないほど小さかった。
 リュウは体をコントロールするのに張り詰めていた緊張をほぐし、ほっと息を吐いた。
 良かった。ニーナにばれなくて、本当に良かった。
 窓から漏れる声を聞きながら、両手両足で体重をうまく分散させて屋根の上を進む。煉瓦造りの建物だが、完璧に音がしないでもない。
 素早く昆虫を思わせる動きで屋根を横断すると、今度は屋根からニーナの部屋の窓へと向かう。煉瓦のほんの少しの凹凸に指先を、脚のつま先をかけて慎重に降りる。体中から疲れと緊張で汗が噴き出てくる。
 何かあった時には、ニーナを助けなければいけない。
 窓から中を覗くよりもその場にきちんと居た方がよっぽどニーナのためになるのだが、そこにはあえて気づかない。
 窓の縁の下部分に指をかけて体を持ち上げ、リュウはゆっくりと室内を視界に入れていく。ニーナのためなのでこんな苦労も仕方がない。
「……あっ……だめ……ぁうっ……」
 煩悶する悩ましい声に、リュウはのぞきが発覚する危険性も忘れて身を乗り出した。
 リンプーが後ろからディースの胸を揉みしだいていた。ボリュームのある乳房が手荒く揉み潰されて形を変える。指の間から柔らかな肉が押し出される。
 下着を着けているか怪しい薄い布地越しに、ディースの胸の先端が尖るのがわかった。
「だ、だめよリンプーちゃん、めっ」
 荒い息を弾ませてディースが言うが、リンプーの腕にかけている手には別に力はこもっていない。リンプーを見る瞳は催促するように熱く潤んでいた。
「ごめんにゃ」
 すんなりとディースの胸から手を離すリンプー。ディースがリンプーを見つめる目つきは、安堵と非難の入り交じったものだった。強く揉みしだかれた胸元を抱えて布地を整え、ディースは問うた。
「どうしていきなり胸揉んだりしたの……?」
 口調が怪しく熱を帯びていて艶めかしい。リュウは窓外でごくりと生唾を飲んだ。ニーナはただ顔を真っ赤にして突然の成り行きを見守っている。
「ディースおっぱい大きいから、お乳出るのかなあって」
 室内を支配している艶めかしい雰囲気を無視するように、あっけらかんと言うリンプー。ディースは咎めているにしては艶めかしすぎる視線を横目で送る。
「お乳は赤ちゃんができてから出るのよ……?」
「わかったにゃ」
 こくりと素直に頷くリンプー。はぁ、とディースは熱く湿った吐息をついて、艶めかしさを抑え込む。
「人のおっぱいを揉む時は、ちゃんと了解を得ないと駄目よ」
「はいにゃ」
 痴態を見せたことを誤魔化すように真面目ぶって言うディースに、リンプーが素直に応える。ディースの言葉には何かしらの期待が籠もっていることが感じられた。
 ぴ、とリンプーに突きつけていたディースの人差し指の先で、ショーツは絡まってゆらゆらと揺れていた。
「そういえば、あんたたち何やってたの」
 リンプーの鼻先で、ショーツをぷらぷらと揺らすディース。リンプーの眼がショーツを追って、体がむずむずと動く。
 ディースに呆れたような視線を向けられて、ニーナが慌てて口を開く。
「あ、あのですね」
「にゃ!」
 揺れるショーツに小さく飛びかかったリンプーの手は空を切った。ディースはひょい、と頭の上に上げたショーツをそのままニーナに投げる。
「にゃっ!」
 ショーツを追ってニーナに飛びかかるリンプー。口にショーツをくわえたリンプーが、ニーナをベッドに押し倒した。むふー、と満足げな鼻息をかけられて、ニーナの視界がじんわりと歪んだ。
「……あっ! ごめんにゃ」
 口からぽろりとショーツをこぼして、我に返ったリンプーが謝った。慌てて立ち上がる。
「……うん……」
 ベッドの上で上体を起こすニーナ。涙ぐんだままうつむいた弱々しい姿に、リュウはどきりとした。ニーナの少女の部分を強く意識させられて、動悸がなかなか収まらない。いつも自分の前では見せない弱い姿に、リュウは強い庇護欲に駆られた。
 が、助けに行こうにも窓には鍵がかかっていたので、そのまま見守ることにする。
「……リンプーは何してたの?」
 困ったように頬を掻きながら、ディースが言った。ニーナも気を取り直したように立ち上がる。
「ニーナがね、リンプーえっちなんだって」
「何が」
 子供のようなまとまりのないリンプーの発言の『えっち』という単語に過敏に反応して、すかさず言い放つディース。リンプーを見る目は否定の目つきだ。
「えっとね、リンプーのお股ね、たまに大事な所が見えちゃうんだって。それがえっちなんだって。それでね、リンプーは気にしないんだけど、みんな気にするから、なんかはこうね、ってニーナが言うのね」
 自分なりにうまく説明できて満足げなリンプーの肩を、ディースががっしりと掴んだ。
「リンプーちゃん、ちゃんと何かはきましょうね?」
 にっこりと慈母のような笑みを浮かべて言うディース。ひたすら優しい声音は『女』という性そのものに対する執念のようなものが隠し切れていない。
 リンプーの全身の毛が、ディースの手が置かれた肩からさざ波のように逆立っていく。
「はいにゃ」
 リンプーはすかさずこくこくと頷いた。瞳孔が開いた眼は聖母の笑みを浮かべた悪魔を見つめていた。



「やー」「やにゃ」「や!」
 再び色々なショーツを試されるリンプーだが、前と反応は変わらない。どこかで譲歩しようという気も全くないようだ。
 リュウは代わる代わるショーツをはき替えるリンプーを見ながら思った。正確にはショーツに隠されたそのお尻や、布地に隠されたお尻の割れ目などを見ながら思った。
 なんだか逆にいやらしいな……。
 目の前で体を屈めてショーツをはいたり脱いだり、食い込みを直したり。眼福だなあ、と思う反面、予想してなかった事態に少し慌てる。
 「やん」
 リンプーが困ったような声を上げて、お尻に食い込んだショーツの布地を引っ張る。リンプーの声が心なしか妙に可愛らしく聞こえる。なぜかショーツは角度の急なきわどい形の物が多かった。
 ……けどまあ、何もはいていないよりもいいか。
 リュウが自分を納得させるのに一秒もかからなかった。
「あんたもうこれにしなさいこれにほらはい」
 ずい、とディースが白いかぼちゃパンツを差し出す。別候補はないらしい。
「はくのやー」
 ぷう、と頬をふくらませて両手をぱたぱた振り、リンプーが抗議する。ディースの瞳孔がきゅっと収縮した。
「うにゃー」
 肩を落として、リンプーは救いを求めるようにニーナを見た。ニーナが手に持ったショーツを広げてみせる。リンプーのブラジャーと合わせたデザインで、革や小さなメタルプレートが使われている。角度も急ではない。
「これだったらあんまりお尻に食い込まないだろうし、ブラジャーとも合うんじゃないかしら? 自然な感じにまとまると思うんだけど」
 ちょっと疲れた微笑みを浮かべて言うニーナを、リンプーは上目遣いにじっと窺う。
 リュウは下着と水着の違いを悟った。下だけ下着をはいているとズボンなどをはき忘れている感じだが、そのショーツだったらなんの違和感もない。水着というには多少ごついつくりだが、下着然としたショーツをはくよりもいやらしい感じがしない。
「うにゃー……」
 どうしても駄目? と眼で訴えかけるリンプーに、どうしても駄目、とニーナが疲れた笑みで返し続ける。攻防はしばらく続いていた。
「……しっかし、角度が急なのが結構多いわねえ」
 攻防を見るのに飽きたディースが、ぽつりと独りごちた。かぼちゃパンツを放り投げて、落ちていたショーツを拾う。
「こういう過激なのはリンプーに合わないんじゃないの?」
 びくり、と疲れた微笑みを浮かべていたニーナの体がすくんだ。リンプーもディースもそれを見逃さなかった。
「リンプー、かぼちゃパンツも今ニーナが持ってるのもやだってゆったのね」
 特に目配せもなく一瞬のうちにチームワークが確立された。
「ほうほう」
 リンプーの発言に耳を傾けながら、ディースがにんまりとした笑みを浮かべて前に進み出る。
「そしたら、ニーナがタンスから出してきたのね」
「ふむふむ」
 妙に無表情なリンプーと、悦びを隠せないディースがニーナに迫った。
「え、えっと、だって最初リンプーちゃん『や』ってしか言ってくれないから、どんな所が嫌なのかもわからないし、その、あの」
「あら、いやだわ」
 ニーナの発言を遮り、傲然とからかう口調でディースが言い放つ。
「お姫様ったらこーんなに過激でいやらしい下着を身につけているの~?」
「い、いや、あの、私が格闘する時にですね、体重が軽いので力が逃げないように軸足は地面に接していなくちゃいけないし、脚が開くので、その、ドレスのスリットが深くてどうしても」
 顔を赤くしてしどろもどろで弁解するニーナを、リュウは感心して眺めていた。スリットが深いのは気になっていたが、スリット部分のベルトで隠れているものだと思っていたし、格闘の時にはそこまで観察している暇もない。そういう秘密があるとは思わなかった。
「過激でいやらしい下着をいつも着けているの? 違うの?」
 更にディースが迫る。ニーナは弁解を続けた。
「き、機能としてそうなってしまっているので仕方がないんです」
「ふうん?」
 顔をのぞき込むように迫っていたディースの顔が離れ、ニーナはほっと胸をなで下ろした。顔を上げると、何かがおかしい。
「機能って、実際にはいている時にしかわからないわよね? リンプー?」
「はいにゃ!」
 いつの間にか死角に回っていたリンプーが、楽しげなかけ声と共に後ろからニーナを羽交い締めにする。
「きゃっ!?」
 慌てていましめから逃れようとするが、かがみ込んだリンプーが片手で両手首を、もう片手で両足首を捕まえていて身動きも取れない。足首はリンプーの指先が回っている訳ではないので抜けても良さそうな物なのだが、腕力がそれを許さない。
 リュウは思いもよらなかったわけでもない展開に、思わず顔を窓に近づける。気づかれそうになった瞬間に隠れられないほど顔を出しているが、そんなことはもう考えていない。
「さてさて、今はいてるショーツはどんな機能を発揮しているのかしら?」
「やっやめてっ」
 嗜虐心に彩られた楽しそうなディースの声に、ニーナが慌てて体全体を激しく動かした。
「むにゃっ」
 ちょっと大きめのお尻にむぎゅっと顔を押されて、リンプーがたじろぐ。しかしそれでも戒めは解けなかった。
 窓から丁度真横に見える角度になっただけだ。
 リュウは心の中でガッツポーズをとった。状況を見守るのに一番いいアングルだ。
 助けに入る気がないわけではないんだけど、窓から入れるわけでもないし、二人が本気でニーナに害を与えるというわけでもないしなあ。
 自分が今部屋の中を覗いているそもそもの理由を失いつつ、リュウは成り行きに生唾を飲み込んだ。
「だっだめですっ」
 涙ぐんで懇願するニーナの声を添加剤に、ディースの嗜虐心が燃え上がる。長い舌がぺろりと紅い唇を濡らした。
 ニーナのドレスに、長い指が伸ばされる。スリットに設けられたベルトが、一つ一つ焦らすように外されていく。
 事実リュウも焦れていた。
 ベルトが全部垂れ下がると、深いスリットがあらわになった。すらりとした太ももからつながる腰があらわになるが、ショーツは見えない。
「あらあら、ずいぶん急な角度のショーツをはいていらっしゃるのね、お姫様?」
 ニーナは唇を噛んでうつむき、頬を染めて身じろぎもしない。ディースが飽きるまで余計なことをしない方がいい、と経験上知っているのだ。
 蛇のようにしつこいのがディースの性格だが。
「じゃ、お姫様のショーツっていうのを見せて貰いましょうかね?」
 ディースが左手でドレスの前面を持ち上げた。
「やっ……」
 懇願の声はディースの嗜虐心を募らせるだけだと気づき、ニーナは悔しげに唇を閉じた。ぎゅっと内股に力を込める。
「あらあらあら! ニーナちゃんが黒なんて意外だわ~」
 嘲笑するようなディースの声に、ニーナは頬の染まった顔を横に向けた。
 窓の方に顔が向いたのでリュウはどきりとしたが、うつむいているので気づかれなかった。
 それにしても、とリュウはニーナのショーツを注視する。急な角度に眼を奪われるが、股の部分の布地も大きめにとってあるようだし、いやらしくデザインされた下着ではないようだ。へその下の布地の部分に黄色の糸でひよこが刺繍されていて、子供っぽさを付加させている。
 ニーナの下着が黒だというのはリュウも意外だったが、散らばっているショーツを見ると白の物はないので、汚れが目立たないとかそういった理由だろう。
 しかし、リュウにとってはデザインがいやらしかろうが子供っぽかろうがはいている対象が問題なので、すぐに頭に血が昇った。ニーナの白い肌とショーツの黒のコントラストが眩しい。下着姿のニーナの、濡れたように光る黒い翼、黒い下着、艶めかしく光る白い肌。リュウは頭がくらくらした。
「じゃあ、ぬぎぬぎしてみましょ~?」
 愉しげにまた舌なめずりすると、ディースの指先がショーツにかけられた。
「か、関係ないじゃないですかっ!」
 驚いたニーナがディースをにらみ付けて反駁する。頬が染まったままなので、怒っている顔も何か可愛らしい。
「関係なくないも~ん。ニーナちゃんのあそこがどうなっていて、こういうショーツがぴったりしているかっていう調査だもの~」
 ディースは耳元に悲痛な反駁の声を浴びせかけられても全く平気だ。
「そうだにょー」
 ニーナのお尻に顔の側面を押しつけるようにして固定し、リンプーが子供のような笑みで相づちを打つ。リンプーにとってこれは単純に遊びでしかない。
 リュウは額を窓ガラスに押しつけてニーナの下半身に視線を注いだ。共同体のリーダーもただ、今この瞬間は一個人のオトコノコにしか過ぎない。
 ディースの長い爪を引っかけられて、ショーツがゆっくりと下げられていく。ニーナが抵抗して精一杯体をくねらせているのがかえって艶めかしい。
 布地の伸縮力とニーナの体の動きで下げた分が少し戻ったりと、なかなかショーツは下がっていかない。
「やっ、やめてください! ディースさん! やめてくださいっ! 怒りますよ!」
 顔を真っ赤に染めて、体をくねらせて必死に抵抗するニーナを、ディースもリンプーも意に介さない。ずっと続く制止の声も耳に届いていないらしい。注目しているのはリュウだけだ。リュウの前では見せないニーナの姿が、新鮮で驚かされる。
「ニーナちゃんもまだまだ子供なのねえ~」
 ディースの言葉に、リュウは視線をニーナの下腹部に戻した。もうかなりずり降ろされたショーツの上の部分は、きれいな白い肌をさらしている。リュウは違和感を感じた。もうそろそろ大事な部分が見えそうなくらいショーツは下げられているのだが、ショーツの上の部分は白い肌だ。
 尖った指先が、更にもうちょっと、少しだけショーツを下げた。
「あら」
 ディースの声には驚きと嘲笑が含まれていた。リュウの眼もディースと同じものを捉える。髪の毛と同じきれいな金色の毛が、ずらされたショーツの上端からちらりと覗いていた。
「ほんとに子供って訳でもなかったわねえ~? お姉さん安心したわ~」
 くすくすと笑い声を交えてディースが言った。直後、異変に気づく。
「……あら?」
 体を動かせるだけ動かして抵抗し、大声で制止を叫んでいたニーナが、活動を停止していた。リュウはニーナの異変に気づかずに、汗ばんだ白い下腹部を、ちらりと覗いた縮れた金髪を凝視していた。
 ゆっくりと、力尽きたようにうなだれていたニーナの顔が上がった。ディースの口元が笑いを作ろうとして失敗し、片頬を引きつらせた。
 涙ぐんだニーナの怨念の籠もった恨みがましい眼が、ディースを捉える。
「えっと、その」
 ディースが迫力に押されて後ずさる。リンプーがようやく異変に気づいたが、ニーナを拘束したままなのでよくわかっていない。
 すうっ、とニーナが息を吸い込んだ。ディースの額に脂汗が浮かぶ。
「ばかーっ!」
 ニーナの叫び声が、寮を物理的に揺るがした。



 揺れの収まった廊下には、蝶番の部分から吹き飛んだドアが転がっている。真ん中でくの字に折れたドアは、ニーナの部屋のものだ。
「やりすぎちゃったわねえ」
 ふう、と反省の色のない疲れたため息をついて、ドアのあった部分からディースが逃げるようにするすると出た。少し乱れた髪をなおしながら言う。
「直しておいてね、リンプー」
 振り向きもせずにそのままそそくさと自室へと去るディースに続いて、リンプーが廊下に出てきた。
 ショックで瞳孔が見開かれて、人形のように無表情だ。体の前面の毛がぺったりと体に張り付いている。廊下に出てきたまま、動かない。
「……あ、リュウちゃん」
 しばらく経ってから、廊下の端に立つリュウに気づいてリンプーが声をかけた。
「ん」
 リュウは転がっていたドアを持って、ニーナの部屋の入り口に立てかけた。目隠しくらいにはなるだろう。
 ぐったりとベッドにもたれかかって死んだように眠っているニーナが目に入った。ドレスのスリットから半分脱げかかったようなショーツが見える。なるべく中が見えないように壊れたドアの位置を調整した。
 世界に満ちている魔力を魔術という技術でコントロールして魔法にするのだが、ニーナは体内の魔力を激した感情に任せて一気に放出してしまい、魔力の衝撃波となって寮を揺るがせたのだろう。
 ディースは本能的に障壁を張ったのか髪の毛の乱れで済んだが、直撃したリンプーは体の前面の毛がぺったりと張り付いていてなんだか面白くなっている。結構な勢いで吹き飛ばされているはずなのだが、本人はあんまり気にしていないようだ。
「あのね、ディースが直しといてねってゆってたにゃ」
「ん」
 衝撃波が一番強く抜けていったのがドアだったらしく、直すのに一番手間がかかるのはドアのようだ。室内は散らかっていたが、壊れた物はなかったようだった。
 リンプーが、じーっと驚いた顔で興味津々にリュウの顔を見つめていた。黙ってそれを見つめ返すリュウ。
「……ねえリュウちゃん、なんでお顔にガラスがいっぱい刺さってるの?」
 別に怪我を心配するでも無し、不思議そうにリンプーが聞いた。
 衝撃波が二番目に強く抜けていったのは窓だ。リュウは顔面をガラスの破片でずたずたにされて落下し、地面で背中を打って激痛に身もだえする暇もなく、玄関からすたすたと入って階段を上がってきたのだった。我ながら痛みに打ち勝った意志の強さに感嘆する。
「んん」
 リンプー、と言おうとしてリュウは顎がうまく動かない事に気がついた。手を当てると頬に硬い物が当たった。刺さっているガラスの破片を指でつまむ。
 外側に見えていた小さな部分からは想像もつかない、長く細いガラスの破片が肉を削り取る湿った弾力のある音と共に抜けていく。リュウは全部抜けたガラスの破片を眼前にかざした。小さなダガーの刃のようだ。
 ぼたびたべた、と水にしては粘着質な音がしてリュウは足下を見た。しばらく同じ所に立っていたので、足下に水たまりならぬ血だまりができている。
「リンプー」
 まだ少し喋りづらかったが、無視してリュウは口を開いた。さっきのガラス片が上顎と下顎を貫通していたらしい。今自分の顔がどうなっているのかは想像したくない。
「ガラスがいっぱい刺さっているにょはなんで?」
 リンプーが再び聞いた。
「リンプー、ちょっとこっち来なさい」
「やにゃ」
 ぷるぷると首を振るリンプーの声には、かすかな怯えがあった。
 ば、と格闘仕込みの予備動作のない動きでリンプーの首を脇に抱える。リンプーはびくりと反応したが逃げられなかった。
「リンプー、今度から下に何かはきなさい」
「……やにゃ」
 風のない日の湖面のように穏やかなリュウの声に、首を抱えられたままリンプーが答える。怒ってむすっとした顔をリュウに向け、慌てて下を向こうとしたのをリュウは見逃さなかった。怯えがその顔に走ったのだ。
 首をがっちりと抱えられ、顔を半分リュウの方に向けさせられたまま、静かな話し合いは続いた。
「リンプー、今度から下に何かはきなさい」
「むにゃ~」
 リンプーは手足を無駄にばたばた動かして戒めから逃れようとしている。本気なら腕力差で逃げ出せるのだが、混乱していてうまくいかないらしい。ぼたびたべた、とリンプーの顔に鮮血が降りかかる。
「リンプー、今度から下に何かはきなさい」
 ぶつり、という音がして頬の皮膚を何かが突き破った感覚があった。痛みはなく、ただ、熱病にかかったように顔が熱い。おそろしく痛むのは受け身も取れなかった背中と腰だ。
 リンプーの眼が恐怖に見開かれた。瞳孔が限界まで開いてリュウの顔面を映した。
「ぎにゃー!」
 さっきよりも激しく鮮血が降り注ぎ、リンプーは悲鳴を上げた。
「りんぷ、こんろかあ、しらになりかあいなはい」
 また口に何か引っかかってうまく動かなくなったが、リンプーを逃がすわけにはいかないのでそのまま喋る。口を動かす度にぶつぶつとのこぎりで肉を轢くような音がする。
「ごめんにゃさいごめんにゃさい! はくにゃはくにゃ!」
 顔を降りかかる鮮血で染められて、リンプーは半泣きで答える。眼は恐ろしさのあまり閉じられないようだ。
 リュウは念を押そうとして口を動かしたが、声よりも先に血の固まりがリンプーに降り注がれた。
「はく! はくにゃあ!」
 悲鳴のように答えるリンプーに納得して、リュウは戒めを解いた。
「うにゃああああん」
 思い切り泣きながらリンプーが階段へと走っていった。顔が血まみれなので一階の洗面所へ行くのだろう。
 顔から血が沢山かかってしまって悪かったとは思ったが、事故なのでしょうがない。
 どうにか一つの用件は片付いた、とリュウは安心した。その他の用件が凄まじい数で増えているが、事故なのでしょうがない。自分で招いた災難だとも思ったが、いい思いもしたのでしょうがない。釣り合うかどうかは微妙な所だが。
 足下でべちゃ、と音がしてリュウは下を向いた。少し足を動かしただけで血だまりが音を立てたらしい。血だまりは円く溜まる限界を超えて、板目に沿って廊下を進んでいる。
 滴った鮮血が作る波紋の合間に、血だまりに写った自分の顔が見えた。
 リュウは失神した。



 背部肋骨単純骨折三カ所、腰骨剥離骨折一カ所、顔面多発裂傷のリュウを助けてくれたのは相棒のボッシュだった。寮にいたメンバーは全員自室に逃げ込んでいたので、リュウはじっくりと出血することができた。発見された時、血だまりは廊下の幅になっていたという。
「猟から帰ってきたらお前が殺されていてびっくりしたぜ」
 失神から目ざめたリュウに、ボッシュは愛嬌のある顔を真剣に引き締めて言った。耳と頬の垂れた犬顔なので、どうしても愛嬌がある。
 生きていたわけだが。顔面の傷があまりにもむごたらしかったので、怨恨で殺されたのだと思ったらしい。
 リュウは自分の顔の傷を見ていないので、よくわからない。どこかで見たような気もするのだが、思い出せない。見ようとした覚えはないので、見ていないとは思うのだが。
 突き刺さっていた全部のガラス片を丁寧に抜いて、治癒魔法をかけてくれたボッシュにはひたすら感謝してる。
 どうして多数のガラス片が顔面に突き刺さっていたのかも聞かないし。先に気がついたニーナにも、怪我の内容を詳しく説明しなかったそうだし。本当にありがとうボッシュ。
 面倒ごとに巻き込まれないようにしているだけかも知れないが。
 翌日、治癒魔法で見た目は治っているのだが、顔面だし神経に障りが出るとまずい、ということで顔を動かさないように包帯で固定されたリュウと、なぜか少し離れているニーナの二人がリンプーの部屋を訪問した。
 顔だけミイラ男でしかも呼吸が籠もり、アンデッド系モンスターのようになっているリュウを見て、リンプーは怯えた。リュウの怪我をした顔を思い出したのかも知れない。
「リュウちゃんとお話ししたい? リンプーちゃん」
 慈母の笑みで問うニーナの後ろで、リュウは籠もった荒い吐息をついている。顎の損傷が酷かったらしく開けられないようにされているので、鼻で息をするしかないのだが包帯がずれて鼻をふさぐ形になっていて苦しい。包帯がどうなっているのかわからないので、手で直すと取れてしまうかも知れない。
 リュウは呼吸のベストポジションを探すべく、頭をいろいろな方向に動かす。いっそのこと手で直したいという気もあるので両手も不規則に上がったり下がったりと、立っているだけなのにせわしなく体が動いている。
「したくないにゃあ」
 脳が腐っていて自分の行動をコントロールできていないアンデッド系モンスターの動きそのもののリュウに、リンプーは泣き顔になった。
「んんんぅーぉぉ!」
 濁った悲鳴のようなものが部屋に響いた。呼吸が苦しくてリュウの動きが激しくなる。
「むにゃー!」
 リンプーが恐怖のあまりニーナに抱きついた。リンプーをリュウからかばうように、ぎゅっと抱きしめるニーナ。
「大丈夫よ、リンプーちゃん。リュウはリンプーちゃんが約束したことをきちんと守ってくれれば、何もしたりしないわ」
 涙をいっぱいに溜めたリンプーの顔を、ニーナは優しく撫でる。
「……ほんと?」
「ほんとよ」
 すべてを受け入れる慈母の笑みを、リンプーはただ信頼しきって見つめる。
 かくしてリンプーのはきものに関して、絆と信頼が築かれたのであった。



 共同体の男性陣が、暇を装って寮入り口のソファ周りに陣取っている。それぞれカードや会話に興じてはいるが、何となくそわそわとしているのがわかる。リュウもなぜか壁にもたれて本を読んでいる。自室で読めない理由は全くない。
「にゃんにゃんにゃん、にゃんにゃかにゃー」
 でたらめな歌を歌って、リンプーが外から帰ってきた。そのまま階段へと向かう。階段に足をかけた瞬間、視線が一気にリンプーへと集中した。
 結局決まったリンプーのはきものは、もはやはきものとは言わないものになっていた。はかないのだ。腰から膝の上までの布が前後に垂れている。展開すると一本の紐に布が二枚ついているだけだ。後ろの方になる布には尻尾を通す切り欠きがある。
 薄布で作られていたら踊り子の衣装だが、リンプーの物は単なる綿の布だ。一応色をブラジャーと合わせてある。
 踊り子との相違点は、下に何もはいていないということだ。布地の左右はリンプーが自由度を優先した結果、太ももから腰までむき出しになっている。
 布地がひらひらと揺れて、踊り場でくるりと回転した時に隙間から股間が見えたのか、見えなかったのか、見えそうだったのか。誰かの生唾を飲み込む音が聞こえた。
 下半身がすっぽんぽんだった時よりも、確実にいやらしくなっちゃっているよなあ……。
 リュウは本に眼を戻しながら、ちょっとにやけた顔でため息をついた。この間も濡れて帰ってきたのだが、布地が下半身に張り付き、股間と太ももの間に三角形の陰を、お尻の尻たぶの間の谷を、くっきりと強調してしまっていた。
 再びあたりにかりそめのざわめきが戻る。
 そして、今度はニーナが食堂の方から歩いてきた。ざわめきがぎこちないものになる。
 ニーナのドレスのスリットから、ベルトが消えていた。すらりとした太ももが腰の部分まで露出している。ゆっくりと階段を昇り始めると、ざわめきが消えた。
 一瞬、拗ねたような、怒ったような、照れているような視線をリュウに向けるが、そのままつんとすました表情で階段を昇り切ってしまう。
 再び生唾を飲む音が聞こえた。スリットの上端がショーツの際にあるので、ショーツが見えたのかも知れない。
 リュウは少し羨ましく思いながら、本に眼を落として脂汗を流していた。以前言っていた『今度話があるわ』という事と、服装が過激になった事は関係があるのだろうか?
 再び戻ったかりそめのざわめきの中で、リュウは重いため息をついた。キスの件から嫌われてしまった感じがする。
 ざわめきが静まるのではなく、静寂が訪れた。不思議に思ったリュウが顔を上げる。
 ディースが蛇体をくねらせて眼前を通っていた。薄い布でできた服らしきものを身につけている。立体裁断された物なのか、体のラインが裸のようにあらわだ。体の前面上部は胸の先端をぎりぎりに隠し、下部の方も腰の下をわずかに垂れた部分で隠しているに過ぎない。体の後ろ側に布は尻の部分しかなく、尻も谷間が少し見えている。前の部分と後ろの部分をつなげているのは細い紐で、脇から乳房の下側が見えていた。
「ふふっ」
 階段をするすると昇り、静寂を守っている男性陣に艶やかな流し目をする。
 誰一人として注目していない。勿論ディースを恐れてのことだ。
 ディースの微笑みが凍り付くと、一気に憤怒の形相へと変化する。
 共同体の寮が、物理的に崩壊した。



 おしまい



 おまけ



「全くもう! なんでここら辺の男どもは女の魅力というものがわからないのかね! 脳天気な小娘や世間知らずのお姫様なんかよりもあたしの方がよっぽど魅力的でしょうが!」
 そこの部分だけが残って舞台のようになった踊り場で仁王立ちになり、瓦礫の下になっている男性陣に向けてディースが怒鳴った。腕を胸の下で組んでいるので、持ち上げられた胸の先端はかなりぎりぎりの部分で隠れている。
 返事をするものはおらず、どこかで瓦礫が小さく崩れた。
「うぅ……」
 苦痛の声と共に、瓦礫を押しのけてリュウが立ち上がった。じろり、と非難の視線を向けてくるディースに向けて、埃まみれのまま口を開く。
「ディースさん」
 額から血が滴ってきたリュウの言葉に非難の響きはない。
「なによ」
 こちらの言葉には不満と非難の棘があった。
 リュウは淡々と言葉を続けた。表情は埃まみれでうつむき加減なのでわからない。
「女の魅力がわかっているから、みんなまともに見られなかったんですよ。いつもの格好でもみんなそわそわするくらい魅力的なのに、今の格好は刺激的すぎたんです」
 強ばっていたディースの顔が、ぽっと紅く染まった。
「あらやだ、あたしったら」
 胸の部分と股間に当たる部分を隠すようにして、ディースは困ったように頬を染めてそそくさと去っていく。ディースの表情は、見る人が見たら少女のようで可愛らしいと感じたかも知れない。そう感じるのは誰だかわからないが。
 がらがらと瓦礫の落ちる音がして、リュウはそちらを向いた。ニーナが立ち上がって、何かを探している。とっさに障壁を張ったのか、埃っぽくなっているだけで怪我などはないようだ。
「大丈夫?」
 瓦礫に足を取られながら、リュウが近づいて言う。
「えっ、あっ、うん……」
 ちらりとリュウの方を向くが、すぐにまた足下の瓦礫に視線をさまよわせるニーナ。その顔には焦燥が浮かんでいた。
「えーと、何探しているの?」
 やっぱり嫌われているのかな、と少々しょんぼりしながらリュウは尋ねた。
「あ、えっと、リュウちゃんは探さなくていいから」
 慌てた様子で両手を顔の前で振るニーナの頬が、ほんのり染まっていることに気がつく。それほど嫌われているわけでもないらしい、とリュウは胸をなで下ろした。
「それじゃあ……」
 と戻りかけたリュウの足が、柔らかいものを踏んだ。足をどけてみると、瓦礫に混じってぬいぐるみがあった。拾って目の前にかざす。ボタンの眼と青い毛糸の髪の毛をもったぬいぐるみが、リュウににっこりと笑いかける。なぜか親近感がわいた。
「あ、あっ、それっ」
 慌ててリュウに駆け寄ろうとしたニーナがつまずき、リュウがその華奢な体を抱き留める。リュウの腕の中で、本能的に強ばっていた筋肉がゆっくりとほぐれていく。
「ごめんな、大事なもの踏んづけちゃって」
 リュウが自分の過失にうんざりした様子で言った。
「う、ううん。いいのよ」
 渡されたぬいぐるみを抱きしめたニーナは、怒ってはいないのだがなぜか少し不満そうだった。リュウを責めるような視線でじっと見つめる。
「その、色々とごめんね。無理なお願いしたり、それにその、その前には、洞窟で、その」
 視線を見つめ返して、リュウが詫びた。リュウを責める視線は変わらない。
 ため息をついてリュウは眼を閉じた。ニーナがいたずらっぽく微笑む。
 続けて謝罪の言葉を紡ごうとしていた唇に、柔らかくて温かいものが触れた。
 驚いてリュウが眼を開いた時には、ニーナの顔が離れていく所だった。満足げに、いたずらに成功した少女のようにニーナが微笑む。
「この間、『今度話がある』って言ったけど、これで許してあげる」
 嬉しそうに微笑んだまま、ゆっくりと後ろ向きに歩いて去っていくニーナ。いとおしそうに抱きしめたぬいぐるみの埃を払う。
「あっ、それ!」
 ようやくぬいぐるみのモデルが誰なのかに気づき、リュウは叫んだ。
「……ひみつ」
 ニーナは恥ずかしそうに言うと、羽を打ち振るって瓦礫を避け、去っていった。
 瓦礫の中で一人立ちつくしたリュウの腹の底から、喜びがこみ上げてくる。
「ははっ、あははははっ」
 色々な事を心配していた自分が馬鹿らしくて、笑いがこみ上げた。リュウは瓦礫の中に立ちつくして笑い続ける。
「……良かったら何があったか説明してくれないか、相棒」
 獲物をかついで猟から帰ってきたボッシュが、半ば唖然としながら心配そうに声をかけた。



 おしまい



 おまけのおまけ



「見たにゃ」
 瓦礫の下から、低い声が責めるように響いた。



 ほんとにおしまい
  1. 2009/02/05(木) 08:56:13|
  2. ブレス オブ ファイアII
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小説①ディース様はお年頃。

「ふわーあ……」
 切れ長の目の端に涙を溜めて、大きく開いた口から牙を覗かせて大きく伸びをする。
 紫色の長髪が裸の背中を流れていった。布地の少ない下着に覆われた体のラインは流麗で美しく、脂の乗りきった色香を妖しいまでに漂わせている。
「……朝かあ」
 窓から差し込む昼に差し掛かった日差しに、涙で潤んだ縦長の瞳孔を収縮させて、ディースは呟いた。シーツの下にある尻尾の先をぴこぴこと動く。
「今日は何しようかな~」
 鼻歌混じりに腰から下を覆っていたシーツを剥ぐと、腰から下の蛇体が現れた。惰眠を貪った機嫌の良さを表わすように、尻尾の先がぴこぴこと動き続けている。
「あらやだ。はしたない」
 腰から垂れていた布がまくれ上がっているのを見て、ディースは慌ててそれを正した。腰の部分から前後に薄布が垂らされているのだが、ブラジャーと同じ色で透けるような薄さの同じ布地を使っているところを見ると、上下お揃いの下着らしい。
 他の種族からすると、どういう風にはしたないのかは全く分からないが。
 少なくとも、布地が少なく、しかも透けているブラジャーは十分はしたない格好だが、本人には違うらしい。
 ベッドサイドテーブルから櫛を取り出してゆっくりと梳く。流れるような髪はほとんど引っかかる事もなく櫛を通し、ディースの長髪の艶めかしさに更に磨きを掛ける。
 髪を梳くのが終わり、ディースは櫛を見た。瞳孔が収縮して緊張した顔から表情が消える。
 櫛には、幾本かの髪の毛が引っかかっていた。それを敵のように一本ずつ櫛から抜き、ゴミ箱に入れていく。
 最後の髪の毛をゴミ箱に入れると、ディースの顔が微笑んだ。
「……ま、こんなもんでしょ!」
 自分に言い聞かせるような声と納得させようとする微笑みに気付く前に、ディースは櫛を戻し、香油を手に取った。
 日にさらされやすい部分に、流麗な指先で塗り込んでいく。高かった値段相応の艶やかな香りと肌への浸透感にディースの顔がにんまりと微笑む。
 牙を覗かせた妖艶な笑みには、隠しきれない捕食獣の残虐さがにじみ出ている。
 機嫌良く肌に香油を塗り込み終わると、今度は蛇体へ香油を塗り込んでいく。
 蛇体へ香油を塗り込んでいくディースの顔は真剣そのもので、鬼気すら感じさせた。
 香油を塗り込まれて妖しい輝きを発する鱗に、ディースはまたにんまりと笑った。姿勢を変え、人間で言うと尻のあたる部分の鱗へと香油を塗り込む。
「……あら……?」
 かすかな疼痛に、ディースは顔をしかめた。櫛を通したときに、少しの抵抗で髪の毛が抜けたときのような、するり、とした感覚のある疼痛。
 ディースは不思議に思って腰に当たる部分を捻って背後を見た。
 ベッドのシーツの上に、木の葉のようなサイズの緑色の鱗がぽつねんと落ちている。
 ディースの部屋の窓ガラスをぶち破って、香油の瓶が外へと飛び出した。



 世界を救う為の勇者たちの共同体。共同体には勇者たちが全員で住んでいる寮が中心にあり、そして町としての機能が備わっている。
 そのリーダーである少年、リュウは気分良く釣りからの帰路に着いていた。
 首の後ろでくくった青い髪の毛と一緒に、腰の一杯になった魚籠も揺れる。すがすがしい微笑みからはちらちらと牙が覗いた。腰には魚籠に入らずに吊してある大きな魚もある。
 魚との戦いでかいた汗が、小柄ながらもたくましい体をきらきらと光らせていた。
 釣りはいい。
 リュウは考えていた。
 魚との戦いは、何もかも忘れさせてくれる……。
 遠い目で腰に吊ってある大きな魚との戦いに思いを馳せる。糸を切らないように引き、また戻し、粘りに粘って釣り上げた大きな収穫だ。
 食料としての収穫以上に、心の収穫、勝利という歓喜の収穫でもある。
 共同体近くの丘が迫ってきた。リュウの足取りが、段々遅くなる。
 リーダー。響きのいい言葉だ。響きだけはいい言葉だ。
 リュウは重い足取りのまま、ゆっくりとかぶりを振った。
『ねえリーダー、ガラス割っちゃった』『ねえリーダー、お魚食べたい』『ねえリーダー、トイレ汚しちゃった』
 美少年でも通りそうな中性的なかわいらしさを持つ、猫科種族の少女のあどけない顔がいくつも浮かび上がった。リーダーとしての耐えかねる責務の重さにまざまざと浮かんだ連想だったが、何故か浮かんだのはその少女の振る舞いだけだった。
 他に何かあるだろ……、とリュウは思い出そうとして止めた。見つからなかったら、悲しい。
 リンプーに悪気はないんだよな……。
 頭に浮かんだ脳天気に笑っているショートカットの少女を、あえて庇護してみる。虎人という絶滅寸前と言われている希少種族なのだが、本人にその自覚は全くない。
 再びリュウはリンプーの『ねえリーダー』で始まる一連の振る舞いを思い出してみた。『ねえリーダー、ガラス割っちゃった』
『……しょうがないなあ。ケガしてないか? 今度から気を付けるんだぞ』
『はあい』
 大工道具の収まったベルトを腰に付けるリュウをよそに、にっこり答えると歩き去るリンプー。
『ねえリーダー、お魚食べたい』
『今度釣りに行くときまで待ってね』
『えー。やだー』頬を膨らませてリンプーは抗議の視線を送ってくる。
『んー、じゃあ明日行ってくるよ』
『……今日。晩ご飯のあとでもいいから。絶対』
 圧力を増したリンプーの視線に、リュウは夕日が沈み、暗くなっていく空を呆然と見上げた。
『ねえリーダー、トイレ汚しちゃった』
『……ええっ!?』
 あっけらかんと言うリンプーに、リュウは驚きの声を上げた。リンプーがきょとんと見つめ返してくる。
『……トイレって、女子トイレだろ……』
 呆然と呟くリュウに、リンプーはこっくりと頷いた。不思議そうな眼で見返してくるリンプーに、リュウは自分が落ち着くように咳払いした後、言った。
『えー、あー、自分で汚したら、自分で掃除しようね』
『んー』
 リンプーが腕を組んでうつむき、難しい顔で考え込む。
『リュウちゃんお手本見せて』
『……ええー』
 男が女子トイレにいるのは倫理上あまり良くない、という言外に伝えたかった事を失敗して、リュウはがっくりと肩を落とした。とぼとぼと女子トイレに向かう。
『だ、誰か使っていませんかー!』
 なるべくトイレの入り口から離れて大声を出す。返事はなく、傍らのリンプーがいぶかしげにリュウを見た。
『使ってたら駄目なの?』
 リンプーの問いに答える気力もなく、奥の掃除用具入れに向かう。バケツに水を入れ、ブラシを手に取る。
 汚れの原因が何か、誰のものかという事を心から消してリュウは便器に向かう。思ったよりもひどくない汚れにほっとする。
『水で濡らしてブラシで擦るだけだから』
 傍らのリンプーに言うと、不思議そうな表情で頷いた。リュウの脳裏に一抹の不安がよぎる。
 使われずに放置される清掃用具が悲しくたたずみ、汚れが乾いて取れなった便器。
『……んーと、掃除しているから、誰か入ってこないように見ててくれる?』
『いーよー』
 リンプーはリュウに不安を与える明るい答え方で、トイレの出入り口に立った。
 出入り口から動かないのをしばらく確認してから、リュウは掃除に取りかかった。
 が、なかなか汚れが落ちない。早く女子トイレから離脱したいがために、リュウは掃除に熱中しすぎた。
 小さな足音が耳に響いたと思うと、隣の個室のドアが閉まる音が続いた。
 体が硬直し、動悸が強まり、耳が外界の静寂をうるさく感じるほどにあらゆる音を拾おうとする。
 かすかな衣擦れの音。
『……ん』
 かすかに羞恥を含んだような声に、小さなほとばしりの音が続く。
 リュウは混乱した頭でただ1つだけの事を願った。
 お願いだからトイレが終わったら俺に気付かず出ていって下さい。
 他の種族よりも軽い足音には特徴があり、聞き慣れていた。
 ほとばしりの音が小さくなる。相手の事を考えると、相手が今無防備で他人には見せる事の無いであろう状態にあるかと思うと、リュウの体が熱くなった。
『あっ』
 小さな声が発せられて、リュウの心臓だけが跳ね上がった。体は相変わらず硬直して動かない。
『すみません、そちらにちり紙はありませんか?』
 たおやかな声に、リュウは生唾を飲み込んだ。心の中でリンプーに全ての責任を転嫁してみるが、全く役に立たない。
 どうしてこっちの個室に人がいると分かるのか? リュウがぎこちなく首を回してみる。内側に開くタイプのドアが掃除に邪魔で半開きにしておいたはずが、ゆっくり閉まったらしい。
『あの、すみません……ちり紙はありませんでしょうか?』
 無視しろ、と生き残る為の野性が囁いたが、懇願の響きを帯びたたおやかな声に、理性はあっさりと折れた。
 ちり紙を掴むと、指が出ないように仕切り壁の上に出す。
『ありがとうございます。すみません、お手数をお掛けしてしまって』
 声に歓喜の響きが混じり、理性は満足したが野性は不機嫌に押し黙った。
 ちり紙が使われる音を、リュウは理性も野性もなく聞いた。丁寧な音だった。
 またかすかな衣擦れの音がすると、隣の個室のドアが開いた。
 リュウは完璧に硬直し、無になろうとした。これで出ていってくれれば、それでいい。 しかしそうはならなかった。
『あの、ちり紙、ありがとうございました』
 リュウの個室のドアの前で足音が止まり、優しげな声が謝辞を述べた。
 無にはなれないという事に気付き、リュウは事態が過ぎ去るのを硬直して待つ。
『……あの?』
 一回だけドアがノックされ、そしてその一回で十分だった。
 鍵のかかっていないドアがゆっくりと開き、ぎこちなく首を巡らせたリュウと、切れ長で優しい光をたたえた視線がぶつかる。
 一旦、優しげな眼は不可思議な光を見せてから事態を把握した。
 上品だが高慢さは全くない、希有なかわいらしさを持つ少女は、かあっと耳まで赤くなると、うつむいて肩を震わせる。
『これは、その……』
 リュウはブラシを持った手を挙げて説明しようとしたが、もう少女は背中に生えた羽を打ち振るって加速を付け、ダッシュで逃げていった。
『……あ、ああー!』
 リュウはブラシを投げ捨ててしゃがみ込み、頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった。
 地獄からの呼び声に似た叫びに、リンプーがトイレ出入り口の陰からぎょっとした顔を覗かせた。
『あっ、あぁ! あぁあー!』
 リュウは混乱と興奮と絶望で糾弾したい相手の名前すら出てこない。
 しかしリンプーは死者の叫び声のようなものの意味を聞き取ったらしい。
『リンプー、ちゃんとリュウちゃんの個室に誰も行かないように見てたよ』
 無表情でそれだけ言うとだっと駆け出す。
『あぁあー!』
 女子トイレに絶望に彩られた地獄の悲鳴が轟いた。



 気がついたとき、リュウは丘の中腹で頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
 ……帰りたくないなあ……。
 はあー、と内蔵に疾患を抱えているようなため息がはき出される。
 全て捨てて逃げてしまいたい気分だが、リーダーとしてはそうもいかない。女子トイレの件も完璧に釈明出来ているとは思えない。みんなリンプーならやりかねない、という点では納得してくれると思うが。
 女子トイレで盗み聞きしていたのがばれて逃げていったリーダー。
 情けなさ過ぎる。しかも盗み聞きしてしまったのは悲しい事に事実だ。
 えへへ、と自虐的な笑みを浮かべて立ち上がると、丁度丘の上に翼を広げた人影が降り立った。
 リュウを見つけて、優しげな顔を拗ねたように伏せる。切れ長の眼がリュウを上目遣いに伺った。
「……たあう」
 しばし黙考の後、ただいま、と言おうとしたのだが出たのはその言葉だけだった。
 リュウは自分の情けなさに泣きたくなった。
 あれから避けられてしまい、リュウが飛翼族のお姫様に話しかけるのは久しぶりだった。何日間か避けられていただけだったが、楽しげに歓談していたのがずっと前の事に思える。
「……お帰りなさい」
 つとめて平静を装った声が、丘の上から降ってきた。ちらりと目線を上げてリュウを見た後、ほんのりと赤く染まった頬を隠すように顔が伏せられた。長い金髪が昼過ぎの陽光にきらめいて栄え、美しい。スリットの深いタイトなドレスに包まれた胸の下で、もじもじと組んだ手指が動かされる。それに合わせて、背中の漆黒の羽根も収まりが悪そうに動いている。恥じらうニーナはなんだかいつもに増してかわいかった。
「……た、たただいま」
 どうにか怪しいながらも言葉になったので、リュウは少し満足した。
 ここ何日かお互いに口がきけなかった状況を考えると、格段の進歩と言える。
 背景にはリンプーとディースの存在があった。
 リュウが心の整理を付ける為に掃除を終え、謝罪と説明にニーナの部屋に向かうと、先客がいた。
『ねえニーナ、おしっこの音聞かれたってどうって事ないよう。誰も気にしないってば』 リンプーが人目もはばからずドアの前で喋っている。聞こえていないと思っているのかかなりの大声だ。眉根を寄せて少し考えた後、少しだけ声のトーンを落として言う。
『……う……じゃない、おっきい方だったの?』
『ばかーっ!』
 ドアに何か柔らかいものが投げつけられて、ドアが揺れた。
 愕然と事態を見守っていたリュウに、リンプーが気付いた。
『あっリュウちゃん。ニーナ怒っちゃったんだけど、どんなだったの?』
 リュウは戦慄した。リンプーはリュウの表情にきょとんとしている。
『ばかーっ! ばかばかばかばかーっ! あっち行けーっ!』
 鼻にかかった叫び声と一緒に、ドアへと立て続けに柔らかいものが投げつけられて小刻みに揺れる。
『ひょえー』
 リンプーは楽しそうに頭を抱えて逃げ出した。
 リュウはリンプーを追う気にもなれず、ニーナの部屋に行く事も出来ず、しばし立ちつくした後、その場を立ち去った。
 次の日ニーナは部屋から出ず、食事だけがリンプーによって部屋の前に運ばれた。
 決められたセリフ以外喋るな、と眼を殺意に血走らせたリュウに念を押されているので、リンプーは食事を置いた旨を伝えるだけだ。冷めても十分食べられる食事をニーナ用に作ったのだが、どうにか食べてくれているようでリュウは安心した。
 更に次の日、ニーナは朝食を食べに食堂に現れた。リュウが話しかけようと近づく。
 蛇体が追い越し様にリュウの進路を阻み、先にニーナの元に到達した。
『聞いたわよ~。お姫様~』
 ねっとりと絡みつくような淫靡な声音でディースが言った。
『な、なんの事ですか?』
 顔をディースから反らして言うが、その声は上擦っていた。
『え~? ここで聞いていいの? みんなの前で?』
 ディースは蛇体で上半身を持ち上げて、反らしたニーナの顔の前に自分の顔を持っていく。吐息を耳元に吐きかけるように言う。
『ニーナちゃんそういうの好きなの? お姉さんに言ってご覧なさい?』
『すっ好きじゃないです!』
 吐息に耳元をくすぐられて、思わず声を上げそうになったニーナが身をよじって叫ぶ。頬が紅潮し、それを隠すようにうつむく。
『えっ? 何が好きじゃないの? ニーナちゃん? ちゃんとここで言ってみて』
 ニーナは逃げようとしたが、体の周りでディースの蛇体がくねっていた。左右を見渡しても蛇体に阻まれて逃げ道がない。
『いいのよ若いんだから~。欲望に身を任せても~』
『なっなんの事ですかっ!?』
 耳元に吐息と共に紡がれる言葉から逃げる術はなく、ニーナはただうつむいてじっと耐えていた。耳から脊髄を撫で上げるような吐息に抵抗するために、声が大きくなっていた。
『昨日の夜、凄かったじゃないの~。リュウちゃんの髪の毛を入れた人形をぎゅうって抱きしめて、一人でえっちしちゃってたんでしょ~?』
『ひあっ』
 耳を甘噛みされたニーナは思わず声を上げた。それでニーナの反駁を封じ、ディースは言葉を続る。
『お姉さん感動しちゃったわ~。一晩中、リュウちゃん、リュウちゃんって声が聞こえるんだもの。お姉さんもつられちゃったわ。うふふ』
 伸ばした人差し指を唇に当てて、ディースは淫らな笑みを浮かべる。捕食者の残虐性が、唇から見え隠れする牙に現れていた。
『ちっちが』
 羞恥に顔を赤く染め、涙目になったニーナが精一杯の力を振り絞って口を開いた。
『あらリュウちゃん。やだ聞いちゃってた? ふふふ』
 今気付いたと言わんばかりに大きな動作で体を動かし、リュウに向き直ってディースが言った。
 ニーナが大きく開いた眼に涙を一杯に溜めて、リュウを見た。
 リュウの頬が赤く染まっている事に気付くと、ニーナは羽根の大きな一降りで加速を付けて傍らを走り抜ける。眼からきらめきが空中に舞った。
 少し前屈みになった状態のリュウは呆然とニーナを見送る。
 リュウは気を取り直して抗議の視線をディースに送ったが、にんまりとした笑みを返されて視線を逸らす。ニーナに続き自分まで犠牲にされては事態の収拾がつかなくなる。
『んーんんんっんんう』
 もぐもぐと朝食を咀嚼しながらリンプーが言った。
『んうんうんーんんうんんう?』
 他人事のようにリュウに問いかけてくるリンプーの声を背に、リュウもとぼとぼと食堂を背にする。
『やだあ。リュウちゃんも若いわあ』
 背にかけられたディースの艶やかな甘い声に、びくりと肩がすくむ。リュウは前屈みのまま走り出した。



 そして、ニーナとしばらく口をきいていない。
 共同体にいても避けられてしまうのが悲しくて釣りに出ている。もっとも、ニーナが避けているのはディースもリンプーも一緒だが。
 そしてリュウは、釣りからの帰路に着くといつもこの丘の手前で頭を抱えている。
 ディースとリンプーが絡んでくるから俺を避けざるを得ない訳で、嫌われている訳ではない……と、思いたい……。
 うー、とリュウは野良犬のような声で唸った。
 ニーナは、ためらいがちに視線を伏せるようにしてリュウを避ける。その頬はリュウを捉えたときから桜色に染まっている。
 かわいいよなあ……。
 リュウは頭を抱えたまま一旦現実逃避してにんまりと笑った。
 完璧に嫌われているのではない、という確証をすれ違い様にちらりと向けられる視線から感じていた。。
 お互いにどうやって接したらいいか分からなくなっているのだ。
 が、リュウはニーナのトイレの音を盗み聞きした変態男である。
 ニーナはリュウに不可抗力ではあるがトイレの音を聞かれてしまい、ショックを受けた被害者である。
 自分の圧倒的不利な立場にリュウはまた沈み込んだ。
 脳裏に浮かんだリンプーの脳天気な笑顔に責任転嫁してみるが、もちろん現状打破には全く役に立たない。
 仲間として、時には仲間以上の存在として楽しげに言葉を交わす日々などまた訪れるのだろうか。
 相手を気遣う、ひたすらに優しいニーナの声が脳裏に浮かぶ。
「……リュウちゃん」
 今日の脳裏に浮かんだ声は、やたらとリアルだった。あまり美化されておらず、声には羞恥と非難、それに友愛がない交ぜになっていた。
「……リュウちゃん?」
 更に不安そうな響きが声に加わり、リュウはようやくその声が頭上から降ってきているものだと気が付いた。
 見上げると、少し離れた丘のゆるやかな斜面にニーナが立っていた。うつむいて、ボリュームのある胸の下でもじもじと手指を動かしている。背中の翼は収まりが悪そうに小さく動いていた。
「あう」
 リュウは咄嗟に喉から音を絞り出したが、それは単なる音だった。
 相手の名前も呼べない自分に暗澹たる気分になる。一方的な被害者であるニーナが勇気を出して話しかけてくれたであろうに、返事すら出来ない。
 ごくり、と自分の喉の音がやたら大きく響くのをリュウは聞いた。
 ニーナがこちらに歩み寄ってくるのを見て、慌てて立ち上がる。
 軽い足音が止まり、二人は近くもなく遠くもない距離でお互い立ちつくした。
 ちらり、とニーナがうつむいた顔の視線をリュウに向けた。リュウはどきまぎしながら見つめ返したが、ニーナが視線を外す事はなかった。
 桜色に頬を染めたニーナの顔に、決意が表れた。
 唇が、言葉を紡ごうと開かれる。
 リュウは反射的に機先を制した。
「ごめん!」
「……ごめ……んね?」
 拝み手でぱちくりと眼をしばたたかせるリュウと、腰を軽く折って顔を上げたニーナの視線が交錯した。しばし見つめ合ったあと、どちらからともなく微笑む。
 リュウは脱力してその場に座り込んだ。微笑みは弛緩した笑みになっている。
「なあに、リュウちゃん? どうしたの?」
 くすくすと口元に手を当てて、ニーナが笑った。
「いや、えーと、ニーナが怒っていると思ったからさ……」
 混乱した頭を整理させながら、リュウが言葉を紡ぐ。変態男だと思われていなくて良かった。
「ううん」
 ニーナは小さくかぶりを振った。
「リンプーちゃんが勘違いしていたんだし、わたしの方があんなに騒いじゃって大人げなかったわ。ごめんね」
 ニーナの寛大さに1つ上の年齢差を感じて、リュウは安心したような、情けないような気分になった。ともあれ本当に変態男だと思われていなくて良かった。
「本当はもっと早く謝りたかったんだけど……」
 その先は言わずとも分かった。とにかく内容を選ばず話しかけてニーナに元気になって欲しい脳天気娘と、絡めるだけ絡んで楽しみたい蛇のようなお姉さんが共同体には居るのだ。
 リュウはばっと身を起こして辺りを見渡した。リンプーもディースも辺りには居ないようだ。尾行してきていてもおかしくないので気配を察知しようと神経を研ぎ澄ませるが、本当に居ないようだ。
「あれ? 二人は?」
 不思議に思ってリュウは聞いた。飽きるのが早いリンプーはともかく、ディースだったら確実に尾行してきているはずだ。
「リンプーちゃんは、蝶々追いかけてどこか行っちゃったみたいなんだけど……」
 口を濁すようにニーナは行った。リンプーは時折、猫科の肉食獣が狩りの時に見せるような恐るべき集中力を発揮する。どうでもいいような時に。
「……ディースさんは……」
 不安そうにうつむいて口ごもったニーナは、それを振り切るように勢いよく顔を上げた。と、思うと頬を染めてうつむく。
「……ね、リュウちゃん、一緒に帰ろ」
 桜色の唇が動いて言葉を紡ぎ出した。上目遣いの瞳には懇願が込められていた。
「う、うん」
 子供っぽい答え方をしたのを後悔しながら、リュウはニーナに寄り添うように肩を並べた。
「……べ、別にわたしのおしっこの音聞いたって、リュウちゃんは何でもないよね?」
 舌で唇を湿らせた後、普段通りの声音を装ってニーナが言う。どんな事をディースに吹き込まれたのか、その目は少し怯えていた。
 本当に少しも何でもなかったかというと嘘になってしまう。そしてリュウは正直な少年だった。
「……うーんと、その、俺もおしっこの音ニーナに聞かれたら恥ずかしいと思うし、そんな感じかな?」
 リュウは正直に問いに答えなかった。わざとらしく笑ってみせる。
 状況を想像したのか、困ったように顔を伏せるニーナを見て、リュウはほっと胸をなで下ろした。
「そ、そうよね、やっぱり恥ずかしいものね」
 赤面しつつ真面目に考え込むニーナの独白に、リュウは心の中で詫びた。
「……あ、リュウちゃん、今日はおっきな魚釣ったね」
 慌てて話題を変えるニーナ。
「うん、結構大変だったよ」
 リュウは微笑んで会話に応じる。
 二人の以前のように楽しい時間は、共同体に到着するまで続いた。



「どうしてあんなになっちゃってるんだ……」
 勝手口からしゃがみ込んだ格好で食堂をのぞき込み、リュウが呻くように言った。
「……分からないけど、部屋の窓から乗り出して見てみたら、窓ガラスが思いっきり割れてたわ……」
 同じように、こちらは立ったまま食堂をのぞき込むニーナの声が、リュウの頭上から降ってきた。
 リュウの顔の脇にニーナのすらりとしたラインを描く脚があるが、食堂内に鎮座する問題の為に頭に入ってこなかった。
 食堂の片隅に申し訳程度に設けられた談話コーナー。その布張りのソファの真ん中に、ディースは鎮座していた。
 自慢の蛇体を人間の脚に変化させ、見せ付けるように組んで投げ出している。赤いペディキュアの塗られた足はヒールの高い足首までのサンダルに包まれており、腰から足の先まで艶やかなラインを描き出している。
 服は服なのか下着なのか怪しい、強いて言うなら酒場の踊り子の服のようなものを身につけていた。ブラジャーにショーツ、それにパレオというには前後にしか布のないもののみで、全て布地がやたら小さく、しかも薄くて肉体のラインをくっきりと見せつけている。パレオもショーツを隠すのではなく、扇情的に見せる為にデザインされているようだった。
 布地も、あちらこちらにちりばめられている装飾品も高価なもので、ディースの豊満な肉体も相まって、質素なソファが場違いなものに見える。
 どちらかといえばディースの方が場違いなのだが。
「……勝手に部屋に入っていって修理したら駄目かなあ……」
 腰に工具ベルトを締め、手に窓枠を持ったままうなだれてリュウは言った。窓ガラスがよく割られるので、あらかじめ作ってあった窓枠を取り替えるだけだ。
「……駄目なんじゃないかしら。……原因をどうにかしないと」
 ニーナはリュウの問いに答えていないような、独白するような声音で言った。
 全ての生き物が逃げ出してしまったかのように静まりかえった共同体に、ディースがビールを飲む音だけが響く。
 周りには恐ろしい数の樽と瓶が散乱していた。みんな酒のものだ。
 ビールを飲み干したディースは瓶をそのまま放り投げた。散乱した瓶に合流して音を立てる。樽も、瓶もほとんどが空になったもので、ディースの周囲を埋め尽くしていた。
 新しい瓶を手に取ったディースは、しばし宙を睨んだ。さすがに酔いが回ったのか、少しばかりふらつく瞳は世の中の全てを憎んでおり、肉感的なラインを持つ体からは酒気の臭いと一緒に生きとし生けるもの全てに害を及ぼすエネルギーが放出されているかのようだった。
「……うう……」
 共同体リーダーとしての重責に堪えかねてリュウはうめき声を上げた。胃がきりきりと痛んでうつむく。
 ディースに近づいても殺されないだろうか? それとも相手に殺意がない場合、死なないだろうか? と考えるべきなのか。
「……死んじゃえばいいのに……」
 ぼそりと上から降ってきた感情のない言葉に、リュウは驚いて顔を上げた。
 かすかに見えたニーナの瞳は、猛禽類のそれのようにディースを見据えてぎらぎらと輝いている。
「どうしたのリュウちゃん?」
 ぱっと見下ろしてきたニーナの顔は慈愛に満ちて微笑んでおり、リュウはさっきのは全て勘違いだと考える事にした。
「誰がなんだってえ~」
 姿勢も視線すら変えずにディースの声が響き、リュウはしゃがみ込んだまま小さく跳ねるというちょっとした芸を披露した。
 ニーナのさっきの呟きは、間近のリュウが内容を聞き間違えるほどに小さかったのだが。
 驚いて混乱したリュウをよそに、ニーナはすたすたと軽い足取りでディースの元に向かった。慌ててリュウも追う。窓枠を忘れた事に気付くが、窓枠が頭からぶち当たってくる光景が頭に浮かんで取りには行かない。はめ込まれたガラスが頭に突き刺さり、枠に残ったガラスはギロチンの刃のようだ。それを見て機嫌良く笑うディースが続けて連想された。
 ニーナはぽふ、と軽くクッションの音を立て、ディースのはす向かいに座った。
 リュウも恐る恐るニーナの隣に座る。何故かソファの座り心地が異常に悪い。今すぐ立ち上がって走り出したいほどだ。
「……誰が、なんだって?」
 ディースがずい、と身を乗り出してニーナに言った。酒の臭いがリュウの方まで漂ってくる。リュウは体をずらした。
「ディースさんが、いなくなっちゃえばいいなって」
 かわいらしく小首を傾げ、にっこりと微笑んで言うニーナ。
 リュウは座った姿勢のままで跳ねるという妙技を披露した。



 人は無になれない。
 リュウは結論した。
 無というのは概念であり存在ではないからだ。前回はそれで失敗した。
 それで今回は空気になろうとした。
 すぐ側で展開されはじめた舌戦を意識から閉め出す。
「あらお姫様、あたしがいなくなっちゃったらどうしていいのかしら?」
 言葉の刺を隠そうともしないディースの声音は、楽しんでいるようにも聞こえる。
「こんなにお酒を飲み散らかして、周りに迷惑を掛ける事もないでしょうから」
 口元を隠すように手を当てて微笑み、切れ長の眼に侮蔑の光を浮かべて散乱した瓶や樽に視線を巡らす。
「昼からこんな量のお酒を飲んじゃって……はしたないですよ、ディースさん」
 侮蔑の視線を近くの瓶に落としたまま、ニーナが言った。飛翼族の王女の声音は冷酷な女王を思わせた。
 ふん、と鼻で笑ってディースは瓶のコルクを抜いた。度の強そうな酒を口に含む。
「アルコールはすぐに脂肪になっちゃいますし……」
 挑発的に細められた猛禽の視線がディースを射貫いた。げほげほとむせかえるディースを冷ややかに見下す。
「もうお年がお年ですし、控えた方がいいんじゃないですか?」
 うめき声を上げて口元を手の甲で拭い、ディースはニーナを見据えた。好敵手を見る殺伐とした嬉しそうな視線にも、ニーナは動じない。にんまりと笑ったディースの口元に、尖った牙が光った。
 自己暗示が成功しつつあるのか、二人はリュウの存在を気にも掛けていないようだ。
 さすが空気。
「……ふふん」
 ディースが立ち上がった。曲げた腰に手を当てて妖艶に微笑む。成熟しきった女性の豊満なラインがニーナの視界を圧倒した。
「……この体のどこに、余分な脂肪が付いているって? 年齢? これは成熟した女性って言うのよ、お・ひ・め・さ・ま」
 ニーナが思わず圧倒された瞬間を逃さずに、ディースは身を乗り出してニーナに顔を近づけた。
 ディースの弱点を探そうとして果たせず、ぐ、とニーナは言葉に詰まった。ディースの言う通り体のラインは成熟した女性のもので、その完璧なラインに崩れているような部分はない。
 悔しげなニーナの顔に満足して、ディースは顔を離した。
 立ち上がった状態から見下した視線を向けてくるディースから身を守るように、ニーナは服の裾を正した。
「やあねえ世間知らずのお姫様は。おっぱいとお尻にだけ栄養が行って、頭には回ってないのかしら? そんな痩せた体じゃ本当に色気があるとは言えないわよ?」
 勝利の喜びを声ににじませたディースに見下ろされ、ニーナは悔しさに唇を噛んだ。
 熟れに熟れ、そしてどこも崩れていないという恐ろしく完熟したディースの体のラインを憎らしげに見上げる。
 そして、ある事に気が付く。ニーナはうつむいた。
「……ディースさんは」
 地の底から漏れてきたような声に、ディースは不可思議な視線をニーナに向けた。表情はうつむいていて見えないが、声にはまたふてぶてしさが戻っている。
「いつまで、その体のラインを維持できるんですかね?」
 勝利を確信したその声に、ディースは顔を青くした後、かあっと紅潮させた。
 にっこりと笑っているニーナを睨み付けるが、怒りのあまり声が出ない。
「確かにわたしはまだ成長途中で、肉付きも良くないし、ディースさんのような成熟した女性とは言えませんけど……」
 上目遣いにディースを見るニーナの視線は、かわいらしく睨め付けているような奇妙さがあった。
「わたしが成熟した女性になったとき、ディースさんはどうなんでしょうかね? 今、成熟しているディースさんはこの後は……?」
 ニーナは口元に勝利の笑みを浮かべ、形のいい唇を動かして言葉を紡いだ。
「……ぽとり」
 くわっ、とディースはどう猛な表情に豹変して牙を見せた。
 びくり、とニーナの体が硬直する。
 しかし両者の行動はそれぞれ一瞬だった。
 何事もなかったのようにディースはニーナを半眼で見下ろし、ニーナは上目遣いにディースを見上げている。
 奇妙な静けさが訪れた。
「リュウちゃん」
 ディースの声が静けさを破った。
 リュウはまた失敗を悟った。空気は自分の事を空気だと思ったりしない。
 ぎこちない動きでリュウはディースを見て、その後救いを求めるようにニーナを見た。二人とも半眼で自分を見つめていたので、仕方なく間のテーブルに視線を固定する。
「どっち?」
 今まで聞いた事のないような恐ろしく冷ややかなニーナの声が、響いた。



 ぴん、と恐ろしく張り詰めた空気の中、リュウは口を開いた。二人からの視線を刺すように体に感じ、口を開くのがえらく大変だった。
「どっちも、どっち、かなあ?」
 取り繕うように和やかな雰囲気を無理矢理詰め込まれた言葉に、一層部屋の空気が張り詰めた。内圧で窓ガラスが割れてもおかしくないような気がする。
「えーと、その、個人には色々な趣味嗜好があって、一概に何がいい、とは言えないのではないかと……」
 リュウはテーブルを向いて二人に話しかけているのではなく、テーブルに話しかけていた。二人に話しかける事が恐ろしい。
「リュウちゃん?」
 ぐい、と右手を掴まれてディースに立たされる。その手がディースのたわわな胸に押しつけられた。
 驚くほど柔らかい、弾力を持った感触。薄く小さな布地は感触を伝えるのにほとんど邪魔をしなかった。指がディースの肌の中に埋まりそうな錯覚を覚える。
「わっ」
 混乱と興奮に体に力が入り、思わずディースの胸を握ってしまう。
「あんっ」
 長いまつげを伏せて、小さく身もだえするディース。湿った吐息を吐き出した後、いたずらっぽく微笑んで言う。
「……積極的ね、リュウちゃん……。続きも、する?」
 最後の方の言葉は耳元で熱く囁かれた。
 個人には色々な趣味嗜好があって、一概に何がいい、とは言えないのだが、リュウの野性はディースに傾いた。
 惚けた表情のリュウの手を自分の胸に押しつけたまま、ディースは階段へと向かった。 いつも利用している、みんなの自室が並んでいる単なる階段だが、リュウの脳裏にはオトナヘノカイダン、という単語が浮かんだ。
「だっ、だめっ」
 ニーナの必死の叫びが寮内にに響いた。
「こ、こんなのフェアじゃありませんっ!」
 羞恥に顔を染めながら、ニーナがリュウの左手に取りすがった。
「あら、なあにお姫様?」
 ディースはにんまりと意地悪く笑った。
「どこがどうフェアじゃないの? そもそもルールなんてあったの? リュウちゃんがどっちが好きか、ってそれだけの話でしょう?」
 リュウは別にどっちが好きだとも言っていないが、無視されているようだ。
「……ううう」
 悔しさに眼を滲ませて、ニーナは上目遣いにディースを睨んだ。勝ち誇った顔がニーナの間近にある。
 ニーナは救いを求めるようにリュウに視線を向けた。
 リュウは信じられないようにディースの胸と、それを掴んだままの自分の右手を見つめていた。その表情には至福が含まれているようだ。
 ニーナは決意してすぐさま実行した。お姫様は案外思い切りがいい。
 リュウの左手を自分の胸に押しつける。ぎゅっと眼をつむって、ぐりぐりと押しつけ続けた。
「は、あああ……」
 ニーナの食いしばった口から、苦鳴とも喜悦ともとれない言葉が漏れる。
 新しい感覚にリュウははっと我に返った。自分の左手を見る。
 リュウの左手は、ニーナの胸を押し潰してこね回していた。ニーナは涙目で上目遣いにリュウを見つめ、両足は落ちそうになる腰を内股になりながら必死に支えている。
 ニーナがリュウの手を動かしているのだが、羞恥に赤く染まった顔はリュウを非難しているように見えた。
「えっ」
 リュウの胸に罪悪感と加虐心が芽生えた。服を間に入れても、ニーナの大きな胸の感触が堪能できる事に感嘆する。残念ながらほとんど素肌で、しかもニーナより巨乳のディースには敵わなかったが。
 個人には色々な趣味嗜好があって、一概に何がいい、とは言えないのだが、リュウの理性はニーナに傾いた。
「……なっ!」
 ディースが驚きの声を発した。涙目で睨み付けてくるニーナを睨み返す。ぎりぎりとディースの牙が音を立てて噛み合わされた。
「こうなったら実技で勝負よ!」
 ぐいっ、とリュウの右手首を握って思いっきり引っ張る。
「? ……だ、だめっ!」
 少しの間リュウと一緒に引きずられて歩いた後、言葉の意味に気付いたニーナは慌ててリュウの左手首を引いた。
 しかし体重が軽いのでリュウと一緒に引きずられてしまう。
「ちょっちょっちょっちょっ」
 両脇から引っ張られてどうにか完全に我に返ったリュウが慌てる。
「大丈夫よリュウちゃん! お姉さんが優しくしてあげるから!」
 どちらにも引っ張られないように踏ん張りながら、リュウは思わず頬が緩みそうになるのを堪えた。
「……思うがままにオンナのカラダを貪れる機会なんて、そうないわよぉ?」
 先ほどの大声から一転、声のトーンを落として湿った言葉を吐き出すディース。
 リュウの体がディースの方にずるずると動いた。
「だっ、だめーっ!」
 ニーナの悲鳴が響いた。
「わっ、わたしも、ディースさんと同じ事してあげるからっ!」
 驚いてリュウはニーナを見た。ディースも眼を丸くしてニーナを見つめている。
「そっ、そのうち、だけどっ……」
 顔を真っ赤にしたあとうつむいて、消え入りそうな声で言うニーナ。
 ニーナを見つめたまま、リュウの体がニーナの方に半歩動く。
 はっと気が付き、リュウの手首に力を込めてひっぱり直すディース。
「何よそれ! 口約束? 信用できないわね!」
 吐き捨てるようなディースの声に、まだ赤みの残る顔を上げてニーナが言い返す。
「ディースさんだって口約束じゃないですか!」
 リュウはその場に体を静止させる事で手一杯になっていた。ディースよりもニーナの方が力が弱く、ニーナと二人でディースに体を持って行かれないようになっている。
 体のポーズとして、二人の力が拮抗しているように見えるべく気を付ける。
「あたしがどんな事するかわかるって言うの~? お姫様~?」
「そっそれは! 考えます!」
「考えたって分かるもんじゃないでしょ~? 教えてあげるから今すぐしてあげたら~?」
「そっそそんな事っ」
 言葉に余裕の出てきたディースの方が優勢だな、と捨て鉢な気分でリュウは思った。両方から引っ張られているという不自然な状態のおかげで、前屈みになっているのがばれていないのがありがたい。
 誰かどうにかしてくれ、とリュウは思った。
 リュウは自分にこの事態を収拾する能力がない事をよく知っていた。
 事態がどちらに転んでもちょっといい目を見れそうな気もしていたし。



「リュウちゃんリュウちゃんリュウちゃ~ん!」
 突如ドアからリンプーが飛び込んで来る。
 減速を知らないのか面倒なのかする気がないのか、そのままリンプーはリュウの胸に飛び込んだ。正確に言うとリンプーの頭がリュウの鳩尾にぶち当たった。
「ぐおっ」
「きゃっ」
 リュウが後ろに吹き飛ばされ、釣られてニーナも転ぶ。ディースは素早く手を離していた。
 事態は左右どちらにも転ばなかった。残念ながら。
「リュウちゃん見て見て! リンプーいいもの拾っちゃった!」
 リュウを押し倒した格好のまま、リンプーは喜びを押さえきれない表情で言った。手に持った何かを自慢げにリュウの鼻先に突きつける。
 つやつやと光沢を放つ、緑色の大きな鱗だった。木の葉ぐらいの大きさからして、持ち主の胴回りの大きさが想像できた。人程の胴回りはあるのではないだろうか。
 リンプーは獲物を主人に見せびらかす猫さながらに、リュウに自慢げな視線を注いでいる。立った尻尾がゆらゆらと揺れていた。
 苦痛から回復しながら、リュウはまたリンプーが変なもの拾ってきたなあ、とぼんやり思った。しかし状況を思いがけない形で打破してくれたのでありがたい。残念な気もするが。
 リュウは鱗に見覚えがある気がして、じっとそれを見つめた。しばらくして、さあっと顔から血の気が引く。
「あのねー、寮の裏にこれだけ落ちてたの。不思議でしょ!」
 ふふん、と自慢げな鼻息がリュウに吹きかかった。リュウの頭の中で様々な情報が統括されていく。ディースの不機嫌な理由、自慢の蛇体を人の脚に変化させている理由。
 答えに思い当たって、リュウは顔を土気色にしながらニーナを見た。ニーナは尻餅をついたままの格好で、こくりと頷いた。ニーナの顔は怖いくらい無表情だ。ちらりと走ったニーナの視線を追って、リュウは思わず神に祈った。
 能面のように全く表情の読み取れない表情のディースが、怒気のようなものを破裂寸前に膨らませていた。全く表情の読み取れない顔と破裂寸前の怒気がアンバランスで恐ろしい。
「あのねーこの鱗ねー」
 リュウとニーナがばっ、と素早くリンプーに視線を注いだ。止めろ! 駄目! と視線にメッセージを込めるが、目前の戦利品に集中しているリンプーには届かなかったようだ。自慢げに言葉を続ける。
「すごいきらきらしててねー、きれいでしょー?」
 寮を震わせんばかりだった怒気がしぼんだ。恐ろしくてディースの方を向けないので表情などは分からない。
「うんすっごいきれい」
 リュウの判断は迅速だった。
「リンプーちゃんそんなきれいな鱗拾ってきて羨ましいなー」
 ニーナの判断は迅速かつ的確だった。
 怒気が嘘のようにするするとしぼんでいく。
「にひー」
 戦利品を見せびらかすのに満足したのか、しまりのない笑みを浮かべるとリンプーは立ち上がった。鱗を掲げて、光の加減で変わるきらめきを楽しんでいる。
 リュウは胸をなで下ろしそうになり、はっと気が付いた。
 リンプーは飽きるのが早い。
「そうだリンプー、それ首輪の鈴のところに付けてやるよ。きれいなアクセサリーになるぞ」
 ずい、と進み出て強い口調でリュウは言った。ここで失敗する訳にはいかない。
「いいなー。リンプーちゃん、かわいいアクセサリー付けて貰えて」
 リュウの後ろからニーナが間髪入れずに追い打ちをかけた。
「ええ~。リンプー照れちゃうな~」
 しまりのない笑みを復活させて、リンプーは鱗と首輪をリュウに渡した。
 今までにない作業スピードと丁寧さを両立させて、リュウはリンプーの首輪の鈴の後ろに鱗を付けた。自分が工具ベルトを付けていた事を神に感謝する。
「ほら出来た。きれいだろ?」
 有無を言わせぬ強さで言うと、リンプーに首輪を渡す。
「おお~」
 感嘆して首輪をためつすがめつした後、リンプーは首輪をはめた。
「どう?」
 自慢げにあごを反らせてみせる。
「きれいな鱗がきれいなアクセサリーになっていて似合うぞリンプー」
 リュウの発言は間髪入らない素早いものだった。
「リンプーちゃん、きれいな鱗が素敵なアクセサリーになっていて羨ましいな」
 ニーナの発言は心からそう思っているような、演技力の素晴らしいものだった。
 別に二人とも鱗がきれいではないと思っている訳ではないが、今はそれを論じている場合でもない。
「にひひ」
 ご満悦の笑みを浮かべているリンプーの肩に、よく手入れの行き届いた長い爪の手が置かれた。
「ほえ」
 不思議そうに振り向くリンプー。
「あっ、ディースだ」
 恐ろしい事に今まで気が付いていなかったらしい。
 ディースは今までの事がなかったかのように、和やかな笑みを浮かべている。
「その鱗、気に入った?」
「うん!」
 優しく言ったディースに、リンプーは力一杯答える。
「そっか、じゃあお外でちょっとご飯でも食べよっか」
 にこにこと機嫌良く微笑むディースを見て、リュウとニーナは脱力してへたり込みそうだった。
「うん!」
 また元気いっぱいに答えるリンプーを伴って、ディースは寮から出て行こうとする。
 脅威が去った事に、がっくりと肩を落とすリュウとニーナ。
「あれ?」
 不思議そうに上を向いて言ったリンプーの言葉に、両名はのろのろと顔を上げた。
「この鱗って、ディースのじゃないの?」
「……ばっ」
 思わず怒声がリュウの喉から飛び出そうになる。飛び出なかったのは単にディースが怖かったからだ。鱗が本当はきれいだと思っていない、という風に意味を取られたら恐ろしい事になる。
「うん、そうよ」
 ディースはこともなげに答えた。リュウとニーナの眼が驚愕に見開かれる。
「気に入ってくれたんだから、あげるわ」
 優しげな口調のまま、ディースは言った。にっこりとリンプーに微笑む。長い指がリンプーの首輪に付けられた鱗を揺らした。その輝きはディースの体にあったときと変わらない。
「……いいの?」
 ディースの表情からほんの少しの悲しさを敏感に読み取り、リンプーはおずおずと聞いた。
 リンプーを心配させまいとする優しい微笑みがディースの顔に浮かぶ。
「いいのよ、また生えてくるんだから」
 慈母そのものの微笑みを見たリュウとニーナは、その場に力なく崩れ落ちた。



 おしまい



 おまけ

 力尽きて座り込むリュウの肩に、ニーナの手が優しく置かれた。リュウは涙の溜まった眼でニーナを見上げる。
 何もかも許すような優しげな微笑みは、やっぱりニーナの方が似合っている。
「……リュウちゃん」
 傷付いた言葉を癒す、柔らかい、優しげな言葉。
「ディースさんの部屋の窓、帰ってくる前に直しておかないと」



 ほんとにおしまい
  1. 2009/02/05(木) 08:51:10|
  2. ブレス オブ ファイアII
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お姉様?のディース。


実は隠しキャラですが、魅力的なキャラなので別に隠さなくてもいいんじゃないかと思います。
使うと戦闘が一気に楽に!w
勿論使いました。
下半身が人間タイプにも化けるんですが、まあ小説でネタにさせていただいています。
小説だとなんだか最終的にかわいいキャラに。好きだからいーけどw
  1. 2009/02/05(木) 08:27:24|
  2. ブレス オブ ファイアII
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元気娘のリンプー。


猫娘です。違う。虎娘です。
持ってる最強装備『にゃんにゃん棒』は設定資料とその他でデザインが違うとか。
下半身どうなんだろうと思いますが、まあ小説でネタにさせていただいていますw 小説の方だとかなりゆるいキャラクターに。
  1. 2009/02/05(木) 08:22:32|
  2. ブレス オブ ファイアII
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ヒロインのニーナ。


実は服装のきわどいお姫様です。小説の方でも触れてますけどw
あんまりヒロインって雰囲気じゃなくて好き。
吊り目とか目が細いキャラが好きなだけなんじゃない? とか言わないで頂きたい。
  1. 2009/02/05(木) 08:18:37|
  2. ブレス オブ ファイアII
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