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画紋工房

2008年12月にガタケット103(3月22日)に向けてなんとなく結成された二人組サークル『画紋工房(がもんこうぼう)』のブログです。コピー本を作ってガタケットにちょびちょび参加しております。(2018/03/20~申し訳ありませんが暫定活動休止中です。たまに更新する、かも……)

小説④二〇〇九年元旦小説。



「にゃはははははは!」
 楽しげな笑い声が物干し場にあつらえられたコートに響き渡った。両目にマルとバツ、そして八の字の形をした髭を描かれたボッシュがうなだれてため息をつく。
 新年早々えらい目に遭わされた気がする。
 物干し場は物干し台一台を残して隅に追いやられ、物干し台を中心に長方形が描かれていた。取っ手のついた板きれで羽を刺した海綿を打ち合い、物干し台に張られたロープより上を飛ばし、相手の長方形の中に入れれば得点になる。
 そしてなんだか分からないが、得点したら相手に落書きをしていいのだ。三回失点すると負けになる。だからみんな顔の三カ所に落書きされている。
 どこのスポーツだか行事だかわからないが、共同体の中で体力の有り余るリンプーに勝てる人物は居ないのであった。
「……あら?」
 新年を祝うごちそうが出来たのでみんなを探していたニーナが、驚いて足を止めた。
 落書きされてうんざりした顔がずらりと並んでニーナを見返す。反射的にニーナは背中を向けたが、その背中が震えているのは隠せなかった。
「……ど、どうしたんですか皆さん?」
 気を取り直して向き直ると言うが、その視線は斜め上を向いている。
「勝ったら落書きしていいゲームなんだにゃ」
 ふふん、と鼻息荒くリンプーが言った。まだ誰もリンプーに落書き出来ていない。
「ふうん? 面白そうね」
 顔に落書きされた全員が『逃げろ』と視線を送っていたのだが、落書きのせいで気付かれなかったようだ。



「……くすん」
 羽を使っての機動性で思いの外善戦したニーナだったが、恐ろしい瞬発力と柔軟性を持つリンプーの前に敗れてしまった。両目にマルとバツが描かれた状態で、リンプーの前に立つ。
「……その、男の子じゃないし、お髭とかじゃなくてほっぺとかにしてね?」
 上目遣いに懇願の視線を勝者に送る。
「……嫌だにゃ」
 にまり、と笑うリンプーの表情は獲物を前にした肉食獣のそれだ。
「やめてー!」
 コートに悲痛な声が響き渡った。



「あら、楽しそうな事やってるじゃない?」
 悲鳴を聞きつけたのか、ほろ酔い加減のディースがやってきた。
「楽しいにゃ」
 ぽんぽんぽん、と板の上で海綿を弾ませながら朗らかにリンプーが笑う。後ろには涙ぐんだニーナが立っていた。被っていた三角巾で顔の下半分をギャングのように隠している。
「そう、教えてよかったわあ」
 にっこりとディースが笑う。顔に落書きをされた全員が一瞬ディースを睨み付けたが、ディースが振り向いた時はにみんなばらばらの方向を向いている。
「やろっか?」
「はいにゃ」
 二人以外の全員の驚きをよそに、リンプー対ディースの戦いが始まった。



 下半身の蛇体の伸びを利用してトリッキーな動きで善戦したディースだったが、やはりリンプーに得点を許してしまう。
「えへへえ」
 嬉しそうにリンプーが筆を持ってディースの元に向かう。
「リンプーちゃん?」
 ディースはにっこり笑った。
「あたしの綺麗な肌に墨をべったりつけようなんて思っていないわよねえ?」
 一瞬にして豹変したディースの表情に、リンプーはその場でびくんと硬直した。



「ふみゃー!」
 両目にマルとバツ、口元には円い髭を描かれたリンプーがニーナの胸に飛び込んだ。野生児リンプーは力関係においてヒエラルキーの上のものにはどうしても逆らえないのだ。ぎくしゃくした動きのリンプーはあっという間に敗北した。
 何度も筆に墨を足されて顔に黒々と落書きをされるリンプーの姿は、みんなの同情を誘った。ただ、みんな顔に落書きをされているのであんまり深い同情ではない。
「あれ? どうしたのみんな?」
 騒ぎを聞いて来たらしいリュウが、ぼーっとしたように言った。酒に弱いのは自覚していたが、焼いたパウンドケーキのブランデーで酔うのを新発見したばかりだ。食べて酔う事はないが、焼いた際に発散されるアルコールを吸うと駄目らしい。
「あらリュウちゃん、ちょっとしたゲームなんだけどやってみる?」
 頬にとても小さくバツを描かれたディースが、にっこりと笑って言う。
「やるやる」
 視線はやっぱり届かなかった。



 ディースのトリッキーな動きに対して、リュウの動きも少しトリッキーだった。手加減したディースと少し打ち合った後、ほとんど地面に着く寸前の海綿を倒れ込みながらリュウが打ち返す。ロープの上ぎりぎりを海綿が飛び、ディースのコートに着地した。
「あら?」
 まさか打ち返せる姿勢だと思っていなかったので、ディースは少し驚いて目を瞬かせた。
「お、入った入った」
 立ち上がってリュウがにこやかに言う。墨壺と筆を持ってディースに近づく。
「……リュウちゃん?」
 ディースがにっこり笑い、その目にマルが描かれた。
 その場にいた全員が顔を青くして後ずさる。
 ディースはぽかんとリュウを見つめた。一瞬後、ざわっ、と空気が震えてディースの長髪が浮き上がる。
「ちっちゃい女の子みたいでかわいいな、ディース」
 にこっと笑い、真正面からディースを見つめてリュウが言った。ディースの浮き上がっていた髪がすとんと落ちる。顔を紅く染めて、ディースは困ったようにリュウから視線を逸らした。拗ねたように唇を尖らせる。
「……そ、そんな事言われても……」
 言葉が続かず、ディースは口をもごもごと動かした。
「かわいいかわいい」
 にこにこと笑ってリュウは言う。
「……もう、リュウちゃんのばかっ!」
 頬を両手で押さえるようにしてディースが走り去る。顔に落書きされた面々も、ぞろぞろと散っていった。リンプーは真っ先に逃げ出している。
 はあ、とニーナは安堵のため息をついた。
「あれ? ニーナ?」
 リュウが覆面の人物に気付くと、ニーナもリンプーのようなスピードで逃げ出していた。



 夜、するりとリュウのテントに影が忍び込む。
「うふふ、リュウちゃん」
 毛布に包まれた人影に、ディースが湿った声で囁きかける。
「……来ちゃった」
 いたずらっぽい、楽しげな声は淫靡な響きを帯びている。
 ディースはそっと毛布を剥がした。
「ふにゃ?」
 寝ていたリンプーが目を擦る。
「……あれ?」
「そこまでですディースさん!」
 テントの入り口にニーナが立ち塞がった。
「リュウちゃんにえっちな事は許しません!」
 ディースの肩が小さく震えている。
 魔法の爆発音が幾度も轟いた。



「……上はいつも賑やかねえ」
 共同体の地下、謎の機械の前でエイチチが呟いた。
「はあ、まあ」
 ボッシュが脇でエイチチにもたれながら寝ているリュウを見ながら答える。
 リュウの危険を感じて一緒に差し入れを持ってきたのだが、当の本人は酔っていたせいか早々に寝てしまった。
 リュウの頭がエイチチの肩からずれて胸に当たった。エイチチのすばらしく豊満な乳房がぽよん、とリュウの頭を受け止める。
 すげえ。
 ボッシュはごくりと生唾を飲み込んだ。誤魔化すように差し入れに自分も手を伸ばす。
「……んん?」
 上体を持ち上げようと上げたリュウの手が、エイチチのもう一つの乳房を掴んだ。
「んもう……」
 ちょっと頬を染め、さほど嫌がっていない様子でエイチチが呟く。リュウの手から力は抜けたが、張り出した乳房の上に乗って落ちる事はない。
 ボッシュは色々と馬鹿らしい気分になって、また差し入れに手を伸ばした。パウンドケーキがなかなか旨い。



 次の日リュウは断片的にしか記憶がなかったが、酪農をして乳搾りに精を出す夢だけははっきり覚えていたという。


おしまい。
  1. 2009/02/05(木) 09:00:34|
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